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49.特別な存在
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仕事に疲れた……ではなく、ナディアとの諍いに辟易している。なぜこんなにも揉めているの。
少し散歩でもしようか。
庭園を歩いていると、ナディア達が庭師も含めて数名で何かをしている。
「ナディアにジョスラン。勉強をさぼって何をしているの?」
「お母様!」
「あら?貴方はトリスタンだったかしら」
あまり会いたくない男に出会ってしまった。
先日のナディアの嫌味が蘇って、思わず声が低くなる。
「王妃陛下、大変失礼致しました。実は、陛下の計らいで薔薇を譲って頂ける事になり、王子殿下方がお選び下さっていたのです」
「……あの人が?」
私には贈って寄越さないくせに、たかだか護衛にはプレゼントすると?
「ふーん。貴方が貰ってどうするのよ」
私の嫌味にはまったく気付かないのか、嬉しそうに目をキラキラさせながらこちらを向いた。
「セレスティーヌに告白を!」
………青春か?いい年した男が、どいつもこいつも!セレスティーヌが何だというのよ!!
「告白って。とっくに結婚しているじゃないの」
「でも告白はまだなので!」
どうして。どうして嫌味が通じないの?どうして嬉しそうに尻尾をパタパタしている幻影が見えるのよっ!
「ふっ」
あ、ナディアに笑われた。本っ当に生意気だわ。
「だからお母様は駄目なんですよ」
「……何ですって?」
「結婚しているから。そこで終わるから駄目だと申しているのです。そんなのは書類上のことです。形だけ、上っ面だけだとなぜ分からないのですか?」
「……何よ。どうしてそんなに私には冷たいのよ。あんなことしたアロイスとは仲良くするくせに」
おかしいわ。私はもっとしっかりした女だったはずよ。こんな14歳の子供にコテンパンにされるのはおかしいでしょう!
「私はお父様もお母様も同じくらい大好きです。ただ、お母様があまりにもわからず屋だからもどかしくて虐めたくなるんです!
いい加減、王族いう免罪符を捨てて考えて下さいませ!王族なんて別に偉くありませんから!」
「何てことを言うの!」
「だってお父様曰く、国王なんてお仕事が多くて、見返りが国民からの感謝の気持ちという、微妙に価値の測れないものだから面倒な職務でしかないそうですよ。
貴族達には鞭と飴を与えて窮屈過ぎないように上手く調整して育てて、他国との関係も気にしながら、出来るだけ少ない資産で国を豊かにするなどの地味な楽しさを見出すくらいが娯楽。
本当に自分が偉くて特別な存在なら、毎日寝てるだけで貢がれてるはずなのに、と、3日徹夜したと言ってたときに呟いておられました。
王族というものへの考えがお二人は違っている様に思われます。
お母様はご自身を国を守る者というプライドを持って頑張ってらっしゃる姿がとても素敵です。
ですが、ご自分は施す側であり、好意は当たり前に返されるものだと思っておられるように感じます。
そこがお二人のすれ違いの原因ではありませんか?」
王族は特別だという自負と、感謝という見返りにやり甲斐を感じていた私と、特別などではなく、搾取されているかの様に感じていたアロイス。
同じものを見ていると思っていたのに、そんなにも違っていただなんて。
「あの、王妃様?」
「……何よ」
「結婚とは、夫婦になるということはゴールではないですよ?」
「それくらい知ってるわよ。馬鹿にしているの?」
「違います。要するに、結婚する時に愛してると伝えたら終わりではなく、それからもずっと好意は伝えるべきだということです」
ずっと?……あら?そもそも伝えた事があったかしら。伝えるって何を?
セレスティーヌが羨ましかった。それは本当。
でも……
「私ってアロイスのことをどう思っているのかしら」
「……そこからですのね、お母様は」
だって、そんなこと考えたことがなかった。
アロイスは私にとって隣にいるのが当たり前な人だったから、その意味なんて考えたことがなかった。
「トリスタン卿、頑張ってね」
「あ、はい。凄く綺麗です。無駄にならないように頑張ってきます!」
あ!私が悩んでいるのに放置されたわ。
「ではお母様。告白見学に行きましょうか」
「は?」
「はっ?!」
我が娘ながら思考が斜め上過ぎるわ。
「…それはさすがに失礼だしはしたないわ」
「でも、興味はありますわよね?」
「いやいやいやいや、まずは俺に聞いて下さいよ!」
興味……確かにあるわね。あのアロイスに靡かなかったセレスティーヌが、トリスタンになんと答えるのか。
「……お願いするわ。私に愛とは何かを見せてちょうだい」
「えーっ!イヤですよ、恥ずかしいですって!!」
「私のおかげで夫婦になれたのよ?別に他の者でもよかったの。いっそのこと、あの陛下の犬でも良かったのだから」
どうせあの駄犬はアロイスの為ならセレスティーヌの仮の夫に平然となっていただろう。
「……お願いよ。私は自分の気持ちが分からないの。知るチャンスをくれないかしら」
ただ、恋に恋しているのか、本当にアロイスの愛が欲しいのか。
「も~っ!絶対に後で怒られるやつだ!お二人がちゃんと庇って下さいよ?あと、俺の事笑わないで下さいね!」
「大丈夫よ。骨は拾っておくから」
「振られるの前提で言うのはやめて!」
少し散歩でもしようか。
庭園を歩いていると、ナディア達が庭師も含めて数名で何かをしている。
「ナディアにジョスラン。勉強をさぼって何をしているの?」
「お母様!」
「あら?貴方はトリスタンだったかしら」
あまり会いたくない男に出会ってしまった。
先日のナディアの嫌味が蘇って、思わず声が低くなる。
「王妃陛下、大変失礼致しました。実は、陛下の計らいで薔薇を譲って頂ける事になり、王子殿下方がお選び下さっていたのです」
「……あの人が?」
私には贈って寄越さないくせに、たかだか護衛にはプレゼントすると?
「ふーん。貴方が貰ってどうするのよ」
私の嫌味にはまったく気付かないのか、嬉しそうに目をキラキラさせながらこちらを向いた。
「セレスティーヌに告白を!」
………青春か?いい年した男が、どいつもこいつも!セレスティーヌが何だというのよ!!
「告白って。とっくに結婚しているじゃないの」
「でも告白はまだなので!」
どうして。どうして嫌味が通じないの?どうして嬉しそうに尻尾をパタパタしている幻影が見えるのよっ!
「ふっ」
あ、ナディアに笑われた。本っ当に生意気だわ。
「だからお母様は駄目なんですよ」
「……何ですって?」
「結婚しているから。そこで終わるから駄目だと申しているのです。そんなのは書類上のことです。形だけ、上っ面だけだとなぜ分からないのですか?」
「……何よ。どうしてそんなに私には冷たいのよ。あんなことしたアロイスとは仲良くするくせに」
おかしいわ。私はもっとしっかりした女だったはずよ。こんな14歳の子供にコテンパンにされるのはおかしいでしょう!
「私はお父様もお母様も同じくらい大好きです。ただ、お母様があまりにもわからず屋だからもどかしくて虐めたくなるんです!
いい加減、王族いう免罪符を捨てて考えて下さいませ!王族なんて別に偉くありませんから!」
「何てことを言うの!」
「だってお父様曰く、国王なんてお仕事が多くて、見返りが国民からの感謝の気持ちという、微妙に価値の測れないものだから面倒な職務でしかないそうですよ。
貴族達には鞭と飴を与えて窮屈過ぎないように上手く調整して育てて、他国との関係も気にしながら、出来るだけ少ない資産で国を豊かにするなどの地味な楽しさを見出すくらいが娯楽。
本当に自分が偉くて特別な存在なら、毎日寝てるだけで貢がれてるはずなのに、と、3日徹夜したと言ってたときに呟いておられました。
王族というものへの考えがお二人は違っている様に思われます。
お母様はご自身を国を守る者というプライドを持って頑張ってらっしゃる姿がとても素敵です。
ですが、ご自分は施す側であり、好意は当たり前に返されるものだと思っておられるように感じます。
そこがお二人のすれ違いの原因ではありませんか?」
王族は特別だという自負と、感謝という見返りにやり甲斐を感じていた私と、特別などではなく、搾取されているかの様に感じていたアロイス。
同じものを見ていると思っていたのに、そんなにも違っていただなんて。
「あの、王妃様?」
「……何よ」
「結婚とは、夫婦になるということはゴールではないですよ?」
「それくらい知ってるわよ。馬鹿にしているの?」
「違います。要するに、結婚する時に愛してると伝えたら終わりではなく、それからもずっと好意は伝えるべきだということです」
ずっと?……あら?そもそも伝えた事があったかしら。伝えるって何を?
セレスティーヌが羨ましかった。それは本当。
でも……
「私ってアロイスのことをどう思っているのかしら」
「……そこからですのね、お母様は」
だって、そんなこと考えたことがなかった。
アロイスは私にとって隣にいるのが当たり前な人だったから、その意味なんて考えたことがなかった。
「トリスタン卿、頑張ってね」
「あ、はい。凄く綺麗です。無駄にならないように頑張ってきます!」
あ!私が悩んでいるのに放置されたわ。
「ではお母様。告白見学に行きましょうか」
「は?」
「はっ?!」
我が娘ながら思考が斜め上過ぎるわ。
「…それはさすがに失礼だしはしたないわ」
「でも、興味はありますわよね?」
「いやいやいやいや、まずは俺に聞いて下さいよ!」
興味……確かにあるわね。あのアロイスに靡かなかったセレスティーヌが、トリスタンになんと答えるのか。
「……お願いするわ。私に愛とは何かを見せてちょうだい」
「えーっ!イヤですよ、恥ずかしいですって!!」
「私のおかげで夫婦になれたのよ?別に他の者でもよかったの。いっそのこと、あの陛下の犬でも良かったのだから」
どうせあの駄犬はアロイスの為ならセレスティーヌの仮の夫に平然となっていただろう。
「……お願いよ。私は自分の気持ちが分からないの。知るチャンスをくれないかしら」
ただ、恋に恋しているのか、本当にアロイスの愛が欲しいのか。
「も~っ!絶対に後で怒られるやつだ!お二人がちゃんと庇って下さいよ?あと、俺の事笑わないで下さいね!」
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