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番外編
アロイス暴走未遂・夢オチIF
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「どうして貴方が泣くの」
酷いことをされているのは私なのに
突然襲われた。無理矢理口付けられた。
口付けとはもっと素敵なものだと思っていたのに。
まるで私を呼吸ごと飲み込もうとするかのような、執拗な口付け。息が出来ない苦しさと、食べられてしまいそうな恐怖と。それなのに、そこから溶けてしまいそうな熱さと。
訳が分からず涙が零れ落ちる。
抵抗しようと藻掻いても、片手だけで抑え込まれてしまう。
どうして?さっき、私を愛おしいと言ったくせに!
「う、そつき、嘘つき!」
口付けの合間にまた責める。
「体だけなの?私の心は無視するのっ?!」
それが悲しい。私は、こうやって簡単に踏みにじっていいものなの?愛とは上辺だけなのか。
悔しくて悲しくて、国王だなんてもう関係なく、私を暴こうとする男を睨みつけた。
……男は泣いていた。
美しい瞳から、ぽたりぽたりと涙が落ちてくる。
「……偽物じゃない」
「え?」
「本当に…、この、気持ちは本当で……、お願いだ……違うって言わないで、本当なんだ、こんな……」
どうして……私が傷付けた?
「すき……好きだよ……本当なんだ、初めて……手に入れることが出来たんだ、やっと分かったと……」
私を拘束していた力が緩む。
逃げるなら今だ。今ならきっと──
「泣かないで」
まだ手首が痛い。絶対に痣になるわ。
そんなことを考えながら、私に覆い被さっている男に手をのばし涙を拭う。
泣き顔まで綺麗なのだからズルい。
その美しい顔がくしゃっと歪む。
更にポロポロと涙をこぼしながら、顔を寄せてくる。
……さっきとは違う。
そっと触れるだけの口付け。
ちょっと。私は許していないのだけど?
「ねぇ、ちゃんと話をしましょう。このままでは貴方を憎んでしまうわ」
ようやく激情が過ぎ去ったのか、おずおずと離れ、起き上がる為に手を貸してくれる。
「……ごめん、あの…、ごめんなさい」
まるで幼子の様な謝罪だ。
「いいえ、私も……傷付けたのよね?」
私の言葉にまた彼の涙腺が弛む。どうやら感情の箍が外れてしまったようだ。
「私は……ずっと、感情というものが分からなくて……」
それは信じられない告白だった。
ただ好きになっただけではなく、今まで得ることの出来なかった感情を初めて、私への恋心として手に入れただなんてっ!
「……あのね、気持ちはとても嬉しいわ。……貴方が独り身だったのなら喜んで受け入れた。
でも、貴方は私の憧れている王妃様の夫よ。どれだけ嬉しくても、受け入れることなんか出来ないわ」
これが私の正直な気持ちだ。
何もかも全て捨てて貴方に捧げるなんてことは出来ないの。
「……嬉しいって思ってくれたのか。私の気持ちは伝わった?」
「ええ、存分に。本気の告白なんて初めてされたの。ときめかないはず無いわ」
もう馬鹿正直に伝えてしまう。だって嘘を吐くと痛い目にあうことを知ってしまったから。
「でも駄目なんだね?もし、離婚したら、」
「お願い……駄目よ。駄目」
貴方が、誰のものでもなければよかった。
私の初恋になってしまった貴方。
好きだと言う言葉も、美しい涙も、全部全部愛おしいのに。
見つめ合い、そっと触れるだけの口づけをする。
「好き……本当なんだ」
「ありがとう。嬉しいわ……私も、好きよ」
それから私達は────
「あ」
「……ん~、セリィ……どしたの?」
……ここは……我が家ね。私はトリスタンと結婚して、子供も生まれて……それで。
「ごめんなさい、夢を見ていたの」
トリスタンがもぞもぞと起き上がり、私を見る。
「大丈夫?怖い夢?」
「………ううん。懐かしい夢よ」
あの頃、何度も想像した夢。
もしあの時、彼が途中で止めてくれたら。
もしあの時、彼の事情を知っていたら。
もしあの時、私の恋を伝えていたら。
それでも。夢は夢だ。
永遠に訪れることはない、儚い夢。
「まだ暗いよ。もう少し寝よう?」
「……ええ、そうね」
「おやすみ、セリィ。良い夢を」
ありがとう。
でも、もう夢は見ないわ。
酷いことをされているのは私なのに
突然襲われた。無理矢理口付けられた。
口付けとはもっと素敵なものだと思っていたのに。
まるで私を呼吸ごと飲み込もうとするかのような、執拗な口付け。息が出来ない苦しさと、食べられてしまいそうな恐怖と。それなのに、そこから溶けてしまいそうな熱さと。
訳が分からず涙が零れ落ちる。
抵抗しようと藻掻いても、片手だけで抑え込まれてしまう。
どうして?さっき、私を愛おしいと言ったくせに!
「う、そつき、嘘つき!」
口付けの合間にまた責める。
「体だけなの?私の心は無視するのっ?!」
それが悲しい。私は、こうやって簡単に踏みにじっていいものなの?愛とは上辺だけなのか。
悔しくて悲しくて、国王だなんてもう関係なく、私を暴こうとする男を睨みつけた。
……男は泣いていた。
美しい瞳から、ぽたりぽたりと涙が落ちてくる。
「……偽物じゃない」
「え?」
「本当に…、この、気持ちは本当で……、お願いだ……違うって言わないで、本当なんだ、こんな……」
どうして……私が傷付けた?
「すき……好きだよ……本当なんだ、初めて……手に入れることが出来たんだ、やっと分かったと……」
私を拘束していた力が緩む。
逃げるなら今だ。今ならきっと──
「泣かないで」
まだ手首が痛い。絶対に痣になるわ。
そんなことを考えながら、私に覆い被さっている男に手をのばし涙を拭う。
泣き顔まで綺麗なのだからズルい。
その美しい顔がくしゃっと歪む。
更にポロポロと涙をこぼしながら、顔を寄せてくる。
……さっきとは違う。
そっと触れるだけの口付け。
ちょっと。私は許していないのだけど?
「ねぇ、ちゃんと話をしましょう。このままでは貴方を憎んでしまうわ」
ようやく激情が過ぎ去ったのか、おずおずと離れ、起き上がる為に手を貸してくれる。
「……ごめん、あの…、ごめんなさい」
まるで幼子の様な謝罪だ。
「いいえ、私も……傷付けたのよね?」
私の言葉にまた彼の涙腺が弛む。どうやら感情の箍が外れてしまったようだ。
「私は……ずっと、感情というものが分からなくて……」
それは信じられない告白だった。
ただ好きになっただけではなく、今まで得ることの出来なかった感情を初めて、私への恋心として手に入れただなんてっ!
「……あのね、気持ちはとても嬉しいわ。……貴方が独り身だったのなら喜んで受け入れた。
でも、貴方は私の憧れている王妃様の夫よ。どれだけ嬉しくても、受け入れることなんか出来ないわ」
これが私の正直な気持ちだ。
何もかも全て捨てて貴方に捧げるなんてことは出来ないの。
「……嬉しいって思ってくれたのか。私の気持ちは伝わった?」
「ええ、存分に。本気の告白なんて初めてされたの。ときめかないはず無いわ」
もう馬鹿正直に伝えてしまう。だって嘘を吐くと痛い目にあうことを知ってしまったから。
「でも駄目なんだね?もし、離婚したら、」
「お願い……駄目よ。駄目」
貴方が、誰のものでもなければよかった。
私の初恋になってしまった貴方。
好きだと言う言葉も、美しい涙も、全部全部愛おしいのに。
見つめ合い、そっと触れるだけの口づけをする。
「好き……本当なんだ」
「ありがとう。嬉しいわ……私も、好きよ」
それから私達は────
「あ」
「……ん~、セリィ……どしたの?」
……ここは……我が家ね。私はトリスタンと結婚して、子供も生まれて……それで。
「ごめんなさい、夢を見ていたの」
トリスタンがもぞもぞと起き上がり、私を見る。
「大丈夫?怖い夢?」
「………ううん。懐かしい夢よ」
あの頃、何度も想像した夢。
もしあの時、彼が途中で止めてくれたら。
もしあの時、彼の事情を知っていたら。
もしあの時、私の恋を伝えていたら。
それでも。夢は夢だ。
永遠に訪れることはない、儚い夢。
「まだ暗いよ。もう少し寝よう?」
「……ええ、そうね」
「おやすみ、セリィ。良い夢を」
ありがとう。
でも、もう夢は見ないわ。
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