ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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番外編

王女様の恋愛事情

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恋とは何かしら。

お父様達を見ていると、それは良いだけのものでは無いと理解してしまう。

「でも、女だからって利用されてばかりになるのは嫌よ」
「お前は本当に格好いいな」
「ふふ、ありがとう」
「ナディアはあげないよ」

今日はお父様とブラスと三人でお茶会。ついでに私の決意表明をしてみた。

「まず、今は他国との婚姻は必要ないよ。大体はそんなもの無くても済むように根回し済み。婚姻を持ち出すようならビニシオが恐ろしく無能だということだ」

お父様のこういう所が好き。何だかんだ言って家族を大切に守ってくれていたから。

他国から、貴族から、過去の狂女から。

どうして兄様には伝わらないのだろう。
愛はちゃんとあったのに。あのマザコンめ。

「国を出たい訳では無いのだろう?」
「私はこの国が好きですから」
「そうなると国内。私のおすすめは近衛騎士団副団長なのだけど」

やっぱりお父様大好きっ!
そう、そうなのよ!そういうのを求めていたの!!
なんたら様のご子息、とか、そういう他人の力ではなく、自ら掴んだ功績って素晴らしいわよね?

「素敵だわ。でも恋人はいらっしゃらないのかしら?」
「彼は婚約破棄してから特定の女性はいないらしいよ」

要するに、お遊びならいらっしゃるのね。

「お話する機会をいただきたいですわ」
「それならブルーノから話を通してもらおう。ただ、覚悟しておくように。お前の王女という地位に忖度するような男ではないし、頭も良く、優しそうに見えても程よく腹黒い。
経験値の少ないナディアでは結構苦労すると思うよ」

ふーん、お父様がそこまで言う人なのね。

「楽しみにしております」





「はじめまして。近衛騎士団副団長、フェルナン・アブリルと申します」

お父様の言うとおり、優しげな男性だ。背は高く、180cm以上。騎士らしく靭やかな筋肉に覆われた肢体。でも、理知的な翡翠の眼差し。柔らかなミルクティーブラウンの髪を一つに括り、無造作に垂らしている。
外見OK、声も良し。家格ランクではアブリル伯爵家は中堅どころ。可もなく不可も無く。うん、最高かも。

「お気に召していただけましたか?」

品定めしていた私に不快さも見せない。

「怒らないの?」
「王女様相手にですか?」
「たかだか14歳の小娘よ」
「うーん。私はね、精神年齢は10歳くらいで実年齢とは関係なくなると思っています。貴方は体は子供でも中身は立派なレディだ。そんな方が私に声を掛けて下さったことを遠慮や謙遜で逃したりする気は無いですよ」

……ヤバイかも。この男、本気だ。

「私を女性として愛せると?」
「そうですね。可能なら今すぐにでも?」

怖っ……でも、引くな!ここで下がればこの男は手に入らないっ!

「……私はね。国の道具にはなりたくない。女が道具の時代を終わらせたいの。貴方に、その覚悟はあるかしら?」

暫くの沈黙。

「ハハッ!本当にいい!こんな女が手に入るなら2年位待とう。いくらでも俺を利用しろよ。貴方を力の限り護ろう」

口調が変わった。これがフェルナンの本当の姿?

「本当に良いのね?」
「但し、俺を好きになれ。惚れろよ」

さっきまでとは違うギラギラした視線に体がザワつく。これはきっと畏怖。未知の感覚に体が慄いている。
それでも。

「貴方こそ覚悟なさい。浮気は許さない。今この時からよっ!」
 
14歳で初めての口づけを奪われるとは思わなかった。でも……確かにこれは駄目ね。お父様が恋に溺れた気持ちがよく分かる。だって世界が変わる。

「私の心を奪っておいて、やっぱり止めたは無しですよ?」

そう言ってもう一度口付けられる。
まさか、こんなに手の早い男だとはっ!




「ねえ、貴方はロリコンなの?」

最近フェルナンには不名誉な噂が流れている。
『幼女趣味の騎士』
ちょっと申し訳無く思ってしまう。

「貴方が幼女ですか?ふむ。確かに、それくらいいとけない頃にも出会ってみたかったですね」

そんなことをのたまう男は私をふところに抱え込みいたずらをしてくる。

「ねぇ!まだ私は15歳よ!」
「後少しで私のものだ」

こんなにおかしな執着を持たれるとは思わなかった。でも、それが心地よいと思う私は恋に溺れた愚か者かしら?

フェルナンにはお父様の諜報部を付けている。
あれからずっと一夜限りの恋人や娼婦等には触れていないことを知っている。

「本当に身奇麗に私を待つとは思わなかったわ」
「貴方はご自分の価値を分かっていない。貴方を手にする為なら、何年でも我慢します。但し、覚悟していてくださいね?それらの我慢はすべて貴方に受け取って貰いますから」

え……2年分の性欲?私、死ぬのではないかしら。

「あの、たまには発散をしても」
「お前がオカズだから問題ない」

オカズって何?たぶん良い意味では無いわよね?

「何なら手伝ってくれてもいいぞ?」

え、手伝う?何を?
でも、そしたら誕生日の苦痛は減るのかしら?

「……それは法に触れない?」
「問題ない。合法だ」

確かに、酷いことはされなかった。でも………見てしまったわ。何アレ。あれが私に?無理よね?!
彼はただ、私の名前を呼びながら、時折口づけ、私を見つめながら自分で………

きゃ─────っっつ!!

変態!変態だわっ!!

あんなことをするの?本当に?

でも。切なげに私を呼ぶ声に私の体が反応した。応えてあげたいと。

待って。あと少しだけ。

ただ、自由を手にしたかっただけの申し出は、気が付けば雁字搦めに捕らわれ、お互いにギリギリまで張り詰めている。
体を繋ぐのは世継ぎの為。もしくは性欲解消の為。そう思ってきた。
でも、今は違うと知っている。
貴方を私のものにしたい。貴方のものになりたい。こんなことを思うようになるとは思わなかった。

「貴方のせいで愚かになったわ」
「私は貴方のおかげで強欲になりました」

誕生日まで、あと一週間。今では口付けも、触れ合いも、すべてが気持ちを伝え会う為だと理解している。

「式が楽しみです」
「本当に?」
「……私の前の婚約者は、私が仕事にかまけて相手にしなかった事が悪いと言って浮気しました。それが理由で婚約破棄しました。
それからはもう本当に女性事は面倒で。結婚なんかする気が無かった。
それなのに、突然貴方が現れるから。
キラキラと眩しくて愛おしくて。一瞬で心を奪われた。2年では私の気持ちは伝わりませんか?それならあと3年くらいかけてもいいですよ」
「……嫌よ。私だって楽しみなのだから」

私とフェルナンの結婚は国民にも喜ばれた。だって愛で結ばれたのだ。
これまでに他国の王子や高位の貴族からの求婚もあったが全部断った。だってそれらは王女への申し入れであり、私自身を見ていなかったから。
小生意気で耳年増でファザコン。そんな私を知っていて愛してくれる男は一人だけ。

「生涯私だけと誓える?」
「もちろん。貴方こそ、余所見をしたら閉じ込めて二度と出してやらないから気を付けろ」

この、危険な程の愛を私は気に入っている。





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