そのシスターは 丘の上の教会にいる

丸山 令

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狭まる捜査網 ⑴

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 婦女連続殺人事件のために置かれた、捜査室の一室で、三人の刑事たちが眉間を押さえていた。


「も、無理だ。目が死んだ」

「まぁ、でも。見つかって良かったじゃないですか」

「あとは頼んだ。俺は寝る。誰が何と言おうと絶対寝る!」


 三人が座っているパイプ椅子の前の会議机には、モニターが三台置かれており、一番左のモニターには、眼鏡をかけた女性の映像が映し出されていた。
 それは、会計時を映した物らしく、手には紙袋が見える。

 若い捜査員が数秒巻き戻すと、店員がナイフを梱包している姿が映っていた。


「間違いないですね。箱が無いから、客が怪我をしないように梱包したんでしょう。ヴィクトー係長が取ってきた、店員の証言通りです」

「だが、女だぞ? しかも小柄。ここから、どう犯人に繋げる?」

「さぁ?まだ、彼女が事件に関係あるかどうかも分かりませんしね。だって、丁度その時期に、ナイフを買ったってだけですから」


 三人は、天を仰いで嘆息した。

 そこに、今日の聴き込みを終えて戻ってきたらしい、ヴィクトーとニコラが入って来た。


「お疲れ様です。みつかりましたか?」


 尋ねながら、三人に差し入れを手渡すヴィクトー。
 若い刑事がそれを配ると、初老の刑事は嬉しそうに眉を下げる。
 

「お。ありがたい。やっぱ策士は違うなぁ。こういうことをされると、こちらも頑張らざるを得ない」

「いえ。発破をかけるつもりの差し入れじゃないですよ? 純粋に、感謝です。正直、本当に繋がるかどうか分からないようなシロモノですから」


 言いながら、ヴィクトーはモニターを見た。


「流石ですね。まさか、昨日の今日で見つけてくれるとは……二ヶ月分ですよ?」

「ま、早く犯人捕まえたいのは、みんな同じってことよ」


 その場にいる全員が、モニターに映し出されている女性に目をむける。

 中堅の刑事が指示を出し、若い刑事が画像をアップにすると、ある程度の容姿が見て取れるようになった。


「暗めの茶髪にフチ有りのメガネ。推定年齢は、二十代後半から三十代ってところですか……」


 ニコラが呟くと、それに頷きながら、ヴィクトーも続けた。


「この店員さんの身長が160センチほどでしたから、彼女は女性の中でも小柄な部類ですね」

「カメラの位置が斜め上だから、正確な身長は言えんが、確かにこの店員よりは小さいな」


 自身の顎を掴みながら、中堅の刑事が答える。


「被害者の身長はまちまちですが、傷口の高さからの判断して、犯人は推定180センチ以上。現状、彼女が犯人とは考えにくいです。
 ただ、何らかの形で関与している可能性は否定できません。念のため、写真を現像に回して頂けますか?」


 ヴィクトーの依頼に、若手の刑事が画像の再確認を始めた。


「了解。出来るだけ特徴が分かるものを、ピックアップします」

「期待していますよ。では、我々は一度本部に戻りましょう」


 ニコラを伴い、ヴィクトーは捜査室から出た。
 足早に歩き始める上司に、ニコラは歩幅を僅か拡げる。


「あの、係長。例えば、女性がナイフを上手うわてに持って、こう刺したら、身長の偽装は出来ないものですか?」


 ニコラは、トンカチで壁に釘を打ち付けるようなモーションをして見せる。


「それだと、刺さる角度が変わりますからね。私は鑑識の見立てに間違いはないと思いますよ」

「じゃ、倒れている状態で刺したら」

「出来ないことも無いでしょうが、人によって高さを合わせるのは、かなり難しいのではないでしょうか。それから、倒れている人間を下手したてで刺すのは、比較的難しいと思いますよ。それ以前に、自分と同等若しくは大きい相手を、声も出さずに転ばせるとなると、相当修練が必要なのでは?」

「あ。そっか」

 残念そうなニコラに、ヴィクトーは笑みを向ける。

「ですが、色々考えてみるのは良いことです。今の質問だけで、随分視野が広がったのでは?」

「はぁ……」


 ニコラは、煮え切らない表情のまま返事を返した。
 それを、珍しく柔らかい目で見ていたヴィクトーだったが、しばらくして、考え込むようにこめかみをおさえた。

 不思議に思ったニコラは、首を傾げる。


「どうかしました?」

「え? ええ。あの女性ですがね。以前何処かで、お見かけした気がするんですよ。君はどうですか?」

「え?えーーっと。ちょっと記憶にないですね。大人しい印象の方なので、見かけたくらいでは、次に会っても分からないかもな……」

「そうですか。私も、お話しをしたことがあれば、覚えているはずですので、では、見かけた程度なのでしょう。さて、では果たしてどこで……」


 深く考え始めた上司が、よそ見をして柱などにぶつからないよう、ニコラは先ほどより上司の近くに立ち、道筋を先導することにした。


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