推しが死んでショック死したけど、目を覚ましたら推しが生きてる世界に転生したんだが?~せっかくなので、このまま推しの死亡フラグをへし折ります~

八雲太一

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22話 逆転の一手

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 両者、まずは距離をとって様子見から入る。
 わずかな時間経過ののち、踏み込んだのはハイオークの方だった。
 
 叫び声とともに、一撃が振り下ろされた。
 オークが所持している武器よりも、さらにひと回り巨大な大剣。
 激情のままに振るわれたソレは、一見すると粗末なものだけど相手はハイオーク。
 驚異的な膂力によって振るわれることで、文字通り必殺の一撃になる。
 
 ノルくんはひたすら、振るわれた一撃をすんでのところで回避し続けてる。
 本当に必要最低限の動きで、いつ直撃するのかもわからないような立ち回りを見せてる。

 もし、万が一、そんなことはないと思うけど。
 きっと、ノルくんでもあの一撃が当たったらひとたまりもないはず。
 
 私もなにかしたいのに、今、ノルくんの応援しかできないのが本当につらい……!

「コヤケさん、大丈夫ですよ」
「え……」

 私、また変な顔してたのかな……?
 
「あなたがノーブルを信じないでどうするんです。詳しくは知りませんが、彼を守るために動いてるんでしょう?」
「あ……」

 言われて、気づかされた。
 多分、変な顔はしてたんだと思う。
 そこから私がノルくんの勝敗について心配する気持ちを察したのかな。

 やっぱり、グラさんには敵わないや。
 私が不安な気持ちを察して、全部言葉にしてみせる。
 ノルくんを推す身として、ちょっと妬けちゃうかも。

「それに。私のことも見くびってもらっては困ります。あの瞬間、無策でノーブルを戦わせるわけがないじゃないですか」

 ──どれだけ魔力が減っていようが、仕事は完璧にこなしてみせます、と。
 
 ノルくんのことを信頼する言葉と同時、自信たっぷりな言葉をかけてくれた。
 
 刹那。
 ノルくんが攻撃を避け、さらにハイオークの懐に飛び込んだ。
 今まで回避に徹していたのは、きっとこのため。
 ノルくんの目に、鋭い光が宿った。
 
「うおおおおおおおおおおおらあああああああ!!」

 ノルくんが渾身の一撃を打ち上げた。
 斬撃が飛び、ハイオークの体を通過する。
 
 わずかな静寂。
 次第に、ハイオークの体には亀裂が入り、そのまま両断した。
 今まで打ち込んできたどんな剣よりも冴えてた。

「やった……ぞ……!」

 剣を掲げ、ノルくんが力なく笑う。
 本当に勝っちゃった! すごい、本当にすごいよ、ノルくん!

「ノーブルの体には相当な負荷がかかっています。だから、かける補助は最低限にする必要があった」
「だから、時限式の……!」

 一定時間経過後、爆発的な力を発揮できる補助魔法──爆瞬填チャージインパクト
 じっくり体に負荷を馴染ませたうえで発動するから、体への負担は少なくなるんだよ。
 でも、そのぶんタイミングを合せるのが難しいんだって。
 それこそ、術者とかけもらった人の息が合わないと、ヘンテコなところで力が空回りすることになるんだ。

 でも、ふたりはこの大一番でやってみせてくれた。
 絶対にミスできない、この状況で。

 でも、これでハイオークは倒せたんだから、この場所を切り抜けられるはずだよね?
 早く、バドさんのところへ行かなくちゃ……あ、でもその前に休憩を……。

「ガアアアァアァアアア!!」

 張っていた気持ちが少し緩んだ直後、鼓膜が破れそうな勢いでその場にいたオークたちが叫び出した。
 そのまま武器を掲げ、私たちの方へと迫ってきたんだよ。

「な、なんで……」

 そう、もしボスのハイオークを倒したとしてもこの状況を打破できる保証なんてどこにもなかった。
 むしろ、統率を失った魔物の行動なんて、とてもじゃないけど私たちに予想できるはずが──

「や……めろ……!」

 ノルくんが手を伸ばす。
 けど、その手は届かなかった。
 いくら反動を最小限に抑えたとはいえど、それ以前にノルくんの体にのしかかっていた負担は相当なものだったみたい。
 さっきの戦いで緊張の糸が切れて、再び立てなくなっちゃったんだよ。

 肉の砕ける音が、ダンジョン内に響き渡った。
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