上 下
21 / 32

21話 決戦

しおりを挟む

「な……にこれ……」

 辺り一面、魔物、魔物、魔物。
 この量は流石にどうしようもないかな……?

「すみません……私がヘマをしたばかりに……」

 グラさんの疲労に気がつけなかった私に非がある。

 それに今回は、私がダンジョンにきてる。
 ヒイロちゃんじゃなくて、実力が足りていない私が。

 だから休憩回数も増えて、グラさんの魔法を頼る回数が増えた。
 そうなると、グラさんの負担が大きくなるのは当然だよね。

「大丈夫、グラさん! バフお願い!」

 ──だからこそ、私が巻き返すんだ! 
 この状況を、一撃で吹き飛ばせるこの魔法で……!

魔迸スペルブースト……!」

 銀の魔法陣が、私の足元で展開した。
 魔法の出力を強化するための補助魔法。
 グラさんになけなしの魔力を使わせてしまったのは申し訳ないけど、そのぶんキッチリ仕事はするから……!

暴焔ランペイジフレイム!!」

 この日一番の爆撃を見舞う。
 周囲一帯、紅蓮が覆い尽くす。

 何倍にも威力が増幅された爆炎が、魔物を巻き込んだ。
 燃やされ消滅したもの、そこに至らずとも重症を負ったもの。

 傷の大きさ、ダメージはそれぞれだけど一気に戦況を変えられたはず。
 どれだけの魔物を倒したかわからない。
 けど、かなりの数は倒せたはず。

「ありがとう、コヤケさん! 俺が先に行くから、ついてきてくれ!!」

 ノルくんの声に導かれて、私がグラさんの体を支える。
 そのまま、ノルくんの背中を追いかける形で一直線に走り始めた。

 魔物を全て倒すことが前提条件じゃない、とにかく逃げ切ればよかったはず……!
 出口、どこにあったかな……? 今はとにかく前に進むことだけを考えなくちゃ!
 
「ぐあ……っ!?」 

 刹那。
 ノルくんの体が、なにか得体のしれない力で吹き飛ばされた。

「グオオオオ……!」

 姿を現したのは、オークの上位種──ハイオークだった。
 ひと回りも、ふた回りも大きな体に手に持ってる武器も規格外。
 今まで戦ってきたゴブリン、オークが比べものにならないくらいの威圧感だった。
 
 待って待って待って……!
 原作では、こんなところでハイオークなんて出てこなかったじゃん……!
 もっと先で出てきたはずだよね?

 でも、引き下がるわけにはいかない!
 ここで、なんとかしなくちゃ……!

ランペイジ……フレイム!!」

 今まで、何度もオークを倒し続けてきた魔法。
 上位種だったとしても、少しぐらいならダメージを与えられるはず──

「ふたりとも!!」

 ──と思ってた。
 少しでも怯んでくれたなら、まだ逃げ切る時間稼ぎくらいはできるかなって。

 瞬間、視界の端で剣が通り過ぎた。 
 きっと、オークのもの。
 だけど膂力が全く違った。
 オーク数体の体を軽々貫いて、そのままの勢いでずっと遠くへと飛んで行った。

「ま、さかね……?」

 一瞬、血の気が引いた気がした。
 いや、私自身わかってはいたんだよ。
 心のどこかで、ヒイロちゃんの魔法なら。グラさんのバフがかかってるなら。

 きっと、倒せるかもしれないって。

「グオオオオ……!」

 だけど、結果は違った。
 傷ひとつなく、一切怯む素振りすら見せないでハイオークが迫ってきた。

 そのまま周りにいるオークに指示を出して、私とグラさんのことを抑えてしまった。
 
「コヤケさん! グラフィ……がっ!」

 そして、ノルくんはこの空間の真ん中にある舞台にも似た場所へと、ハイオークの手によって投げ飛ばされた。

 その直後、グラさんがなにか小さく呟いて、ノルくんへ向けてなんとか自由になった右手を伸ばす。
 せめて、なにか補助魔法をかけることが目的だったのかな。
 でも、ノルくんの体に大きな変化はなく、小さな輝きが発せられるだけだった。

「ノーブル、あとは頼みましたよ……!」
「ああ」
 
 グラさんの言葉に、ノルくんが短く答える。
 多分、グラさんがこう言ってる以上、補助魔法の発動が成功したことを祈るしかない。
 
 しかも、今は疲労困憊。
 休憩直後って言っても、状況は圧倒的に不利。

 ど、どうなっちゃうのこれ……!!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お墓参りの後には一服どうぞ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

壁ドンされたので、ボディーブローでお返事しました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:230

婚約者を想うのをやめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:11,308

処理中です...