10 / 16
怒れる王妃
しおりを挟む
「アルバー!!あの小娘は一体何なの!!!」
玉座の間に怒声が響いた。
豪奢な衣装をまとったサーシャ王妃は、いつもは可愛くて仕方がない息子アルバーを睨みつけていた。
その瞳には怒りと失望が燃えていた。
先ほど、王妃はリイナに初めて会った。
だが、その第一印象は最悪だった。礼儀は無く、言葉遣いも乱雑。王妃の前でも一歩も引かないその態度は、未来の王妃にふさわしくないと感じたのだ。
「わざわざメアリーとの婚約を破棄してまで連れてくるから、どれほどの娘かと思えば、何あの傲慢な態度!言葉も振る舞いも最低!まるで育ちの知れない街娘じゃないの!」
サーシャ王妃は鋭く叫んだ。
「姉のメアリーは、品があって、聡明で、控えめで、完璧だった。あの子ならば、私も安心して王妃として迎え入れられると思ったのにどうしてあの子を選んだの!?」
「母上……」
アルバーが苦しげに口を開こうとしたが、王妃は容赦なく言葉を重ねた。
「あなた、騙されているのよ!リイナなんて浅はかで気の強いだけの子。男の目を引く術だけに長けた薄っぺらい女じゃない!」
部屋に沈黙が落ちた。
やがて、王妃は低く、決然と告げた。
「それができないなら… いっそ、“あの醜い火傷”を持つジョロモに王位を譲った方がまだマシよ。最近あの子、盗賊団を捕らえて民から称賛を受けているそうじゃない。
しかも、あなたが非常識な婚約破棄をしたメアリーと、あの子は婚約したんでしょう?
哀れな見た目でも、少なくともあなたより国を守る力はあるようだわ」
アルバーの息が止まった。
(母上が……兄を、認めた?)
それは、アルバーがこれまで一度も聞いたことのない評価だった。
母はいつも自分だけを褒め、ジョロモを疎ましく扱ってきたはずなのに。
ずっと愛されていたと思っていた。自分だけが、王妃にとっての誇りだと信じていた。
その信頼が音を立てて崩れ落ちていく。
母の瞳には、もはや情すらなかった。
そこにあったのは、ただ王国を守ろうとする女王の、冷酷な覚悟だった。
ーー
アルバーが自室に戻ると、ドアを開けた瞬間、リイナが駆け寄ってきた。
「ねぇ聞いてアルバー!王妃様が私にひどい態度を取ったのよ!」
彼女の声は高く、早口で、部屋に響いた。まるで自分が被害者であるかのように、感情をぶつけてくる。
アルバーは目を閉じて、小さく息を吐いた。
(またか……)
「リイナ、少し静かにしてくれ」
「え?どういうこと?私を守ってくれないの?」
リイナの話はいつも「いじめられた」「私を守って」と主張する。
王妃が冷たくなる理由を考えようともしない。
こんな調子で母上と本当にうまくやっていけるのか?
いや、それ以前に
(リイナは国王になる俺を、本当に支えてくれるのか?)
ふと、出会ったばかりの頃のことが脳裏をよぎる。
無邪気に笑い、自分を頼ってくる彼女に「守らなければ」と感じたあの感情。
でも
(メアリーにいじめられたって言ってたな。けどその現場を見たことはない。証言すら聞いたことがない)
疑念がわき、信じてきた言葉が、少しずつほつれていくような感覚だった。
(俺は本当にリイナと、やっていけるのか?)
後悔が、じわじわと胸に滲み始めていた。
玉座の間に怒声が響いた。
豪奢な衣装をまとったサーシャ王妃は、いつもは可愛くて仕方がない息子アルバーを睨みつけていた。
その瞳には怒りと失望が燃えていた。
先ほど、王妃はリイナに初めて会った。
だが、その第一印象は最悪だった。礼儀は無く、言葉遣いも乱雑。王妃の前でも一歩も引かないその態度は、未来の王妃にふさわしくないと感じたのだ。
「わざわざメアリーとの婚約を破棄してまで連れてくるから、どれほどの娘かと思えば、何あの傲慢な態度!言葉も振る舞いも最低!まるで育ちの知れない街娘じゃないの!」
サーシャ王妃は鋭く叫んだ。
「姉のメアリーは、品があって、聡明で、控えめで、完璧だった。あの子ならば、私も安心して王妃として迎え入れられると思ったのにどうしてあの子を選んだの!?」
「母上……」
アルバーが苦しげに口を開こうとしたが、王妃は容赦なく言葉を重ねた。
「あなた、騙されているのよ!リイナなんて浅はかで気の強いだけの子。男の目を引く術だけに長けた薄っぺらい女じゃない!」
部屋に沈黙が落ちた。
やがて、王妃は低く、決然と告げた。
「それができないなら… いっそ、“あの醜い火傷”を持つジョロモに王位を譲った方がまだマシよ。最近あの子、盗賊団を捕らえて民から称賛を受けているそうじゃない。
しかも、あなたが非常識な婚約破棄をしたメアリーと、あの子は婚約したんでしょう?
哀れな見た目でも、少なくともあなたより国を守る力はあるようだわ」
アルバーの息が止まった。
(母上が……兄を、認めた?)
それは、アルバーがこれまで一度も聞いたことのない評価だった。
母はいつも自分だけを褒め、ジョロモを疎ましく扱ってきたはずなのに。
ずっと愛されていたと思っていた。自分だけが、王妃にとっての誇りだと信じていた。
その信頼が音を立てて崩れ落ちていく。
母の瞳には、もはや情すらなかった。
そこにあったのは、ただ王国を守ろうとする女王の、冷酷な覚悟だった。
ーー
アルバーが自室に戻ると、ドアを開けた瞬間、リイナが駆け寄ってきた。
「ねぇ聞いてアルバー!王妃様が私にひどい態度を取ったのよ!」
彼女の声は高く、早口で、部屋に響いた。まるで自分が被害者であるかのように、感情をぶつけてくる。
アルバーは目を閉じて、小さく息を吐いた。
(またか……)
「リイナ、少し静かにしてくれ」
「え?どういうこと?私を守ってくれないの?」
リイナの話はいつも「いじめられた」「私を守って」と主張する。
王妃が冷たくなる理由を考えようともしない。
こんな調子で母上と本当にうまくやっていけるのか?
いや、それ以前に
(リイナは国王になる俺を、本当に支えてくれるのか?)
ふと、出会ったばかりの頃のことが脳裏をよぎる。
無邪気に笑い、自分を頼ってくる彼女に「守らなければ」と感じたあの感情。
でも
(メアリーにいじめられたって言ってたな。けどその現場を見たことはない。証言すら聞いたことがない)
疑念がわき、信じてきた言葉が、少しずつほつれていくような感覚だった。
(俺は本当にリイナと、やっていけるのか?)
後悔が、じわじわと胸に滲み始めていた。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?
珠宮さくら
恋愛
侯爵家の長女として生まれたウィスタリア・レルヒェンフェルトは、ウェールズという国で、王太子の婚約者となるのにもっとも相応しいと国中のほとんどの人たちに思われていた。
そんな彼女が必死になって王太子の婚約者になろうとしていたのは、想い人のため。それだけだった。
それが、蓋を開ければ、王太子が選んだのは別の令嬢だった。選ぶことも王太子が、好きにしていいと言われていたが、ほとんどの者がなぜ、そちらを選んだのかと不思議に思うが、その理由は本人しか知らないままとなる。
王太子が選んだ婚約者の暴走に巻き込まれ続けるウィスタリアだが、そんな彼女が婚約したのは、誰もが婚約したがらない子息だった。
彼女は妹のことを溺愛していたが、王太子と婚約できなかったことで、色々とありすぎて数年ほど会えずにいただけで、すっかり様変わりしてしまうとは思いもしなかった。
更には、運命の人とすれ違い続けていることにウィスタリアは中々気づくことができなかった。
他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います
珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。
最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。
それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる