婚約破棄された私は【呪われた傷跡の王子】と結婚するように言われました。

チュンぽよ

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怒れる王妃

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「アルバー!!あの小娘は一体何なの!!!」

玉座の間に怒声が響いた。
豪奢な衣装をまとったサーシャ王妃は、いつもは可愛くて仕方がない息子アルバーを睨みつけていた。
その瞳には怒りと失望が燃えていた。

先ほど、王妃はリイナに初めて会った。
だが、その第一印象は最悪だった。礼儀は無く、言葉遣いも乱雑。王妃の前でも一歩も引かないその態度は、未来の王妃にふさわしくないと感じたのだ。

「わざわざメアリーとの婚約を破棄してまで連れてくるから、どれほどの娘かと思えば、何あの傲慢な態度!言葉も振る舞いも最低!まるで育ちの知れない街娘じゃないの!」

サーシャ王妃は鋭く叫んだ。

「姉のメアリーは、品があって、聡明で、控えめで、完璧だった。あの子ならば、私も安心して王妃として迎え入れられると思ったのにどうしてあの子を選んだの!?」

「母上……」

アルバーが苦しげに口を開こうとしたが、王妃は容赦なく言葉を重ねた。

「あなた、騙されているのよ!リイナなんて浅はかで気の強いだけの子。男の目を引く術だけに長けた薄っぺらい女じゃない!」

部屋に沈黙が落ちた。

やがて、王妃は低く、決然と告げた。

「それができないなら… いっそ、“あの醜い火傷”を持つジョロモに王位を譲った方がまだマシよ。最近あの子、盗賊団を捕らえて民から称賛を受けているそうじゃない。
しかも、あなたが非常識な婚約破棄をしたメアリーと、あの子は婚約したんでしょう?
哀れな見た目でも、少なくともあなたより国を守る力はあるようだわ」

アルバーの息が止まった。

(母上が……兄を、認めた?)

それは、アルバーがこれまで一度も聞いたことのない評価だった。
母はいつも自分だけを褒め、ジョロモを疎ましく扱ってきたはずなのに。

ずっと愛されていたと思っていた。自分だけが、王妃にとっての誇りだと信じていた。
その信頼が音を立てて崩れ落ちていく。

母の瞳には、もはや情すらなかった。
そこにあったのは、ただ王国を守ろうとする女王の、冷酷な覚悟だった。

ーー

アルバーが自室に戻ると、ドアを開けた瞬間、リイナが駆け寄ってきた。

「ねぇ聞いてアルバー!王妃様が私にひどい態度を取ったのよ!」

彼女の声は高く、早口で、部屋に響いた。まるで自分が被害者であるかのように、感情をぶつけてくる。
アルバーは目を閉じて、小さく息を吐いた。

(またか……)

「リイナ、少し静かにしてくれ」

「え?どういうこと?私を守ってくれないの?」

リイナの話はいつも「いじめられた」「私を守って」と主張する。
王妃が冷たくなる理由を考えようともしない。

こんな調子で母上と本当にうまくやっていけるのか?
いや、それ以前に

(リイナは国王になる俺を、本当に支えてくれるのか?)

ふと、出会ったばかりの頃のことが脳裏をよぎる。
無邪気に笑い、自分を頼ってくる彼女に「守らなければ」と感じたあの感情。

でも

(メアリーにいじめられたって言ってたな。けどその現場を見たことはない。証言すら聞いたことがない)

疑念がわき、信じてきた言葉が、少しずつほつれていくような感覚だった。

(俺は本当にリイナと、やっていけるのか?)

後悔が、じわじわと胸に滲み始めていた。
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