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第87話 武闘大会 第3回戦②

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試合を終えた後俺は控室に戻らず、そのままフィールドに出かけた。

まずは師匠と戦える決勝戦までにより強くなりたいからだ。



相手の傾向を読んで対策をすることで勝ち進むのは簡単だろう。

しかしそれはその相手にしか通用せず、総合的な力が強くなったわけでないのだ。



俺は今まで倒して”アイテムボックス”に収納したままだった魔石を”魔石吸収”し、ステータスを大幅に上昇させた。



『…まだまだ足りない。』



早速”魔力念操作”を行使し、戦闘に織り込んでいった。

防具とバフを解除し、サイクロプスの強打を体に纏った魔力だけで防ぐことが目標だ。



試しに1度やってみたが魔力の練りが足りず、身体に直撃して殴り飛ばされた。

とはいってもLvもHPも高いので軽いけがで済んだ。



『なかなか難しいな…』



それからずっと練習続け、そろそろ日が傾いてきた。



『よし、これが最後の挑戦だ!!来い!!!』



俺は大量の魔力をぎゅっと凝縮し、体に纏った。

そしてサイクロプスの攻撃が迫ってきた。

次の瞬間、サイクロプスの攻撃は俺の身体に触れず、魔力で防ぐことに成功した。



「よっしゃーー!!!」



半日かかったが、上手くいって良かった。

俺は気分でこの技を”魔鎧”と名付けた。



屋敷に帰ると、だいぶ疲れたようで泥のように眠った。



翌朝

今日は33~64番の選手の試合なので俺の出番はない。



しかし、師匠の試合のときだけ闘技場に赴くことにした。

特に師匠の使う武器が気になったのだ。



『対等に戦いたいから対策は考えないようにしないと。…まあ師匠は本気を出してないだろうから対策してもあまり意味ないだろうけど…』



家庭教師の頃、師匠は決して決まった武器を扱わなかった。

あるときは片手剣、ある時は斧とランダムだったのだ。



『1番の得意武器は何なんだ…?』



師匠の試合が始まるまではフィールドで”魔力念操作”の練習をした。



サイクロプスを見つけたので、俺は魔鎧だけで対応した。
すると、昨日の感覚が完全に身に着いていたようで1回目から防御に成功した。



『よしっ!!100回連続成功できるまでやってみるか!!!』



1回目、数十回成功していい感じだと思っていた矢先に失敗した。



『なんで失敗したんだ…?』



どうやら魔鎧は攻撃を受けるたびに少しづつ魔力が削られていたようだ。

常に同じ魔力の量を纏い続ける必要がありそうだ。



改善をして2回目、100回連続成功することができた。



『次は動きながら魔鎧をしてみよう!!!』



戦闘中は常に動いているのでこれができないと実践に使えない。

これは3回目で成功することができた。



『慣れれば思ったよりも簡単にできるな…今度は動きながら100回連続成功できるまでやろう!!これが終わったら闘技場に行くか!!』



もう”魔力念操作”に慣れたようで、1回目で成功することができた。



途中で気が付いたのだが、相手の攻撃の強さは1回1回違うものの毎回練る魔力量を演算しては防御に間に合わない。

そこで、俺は常に相手の攻撃よりも莫大に強い魔鎧を纏うことにした。



『じゃあ観戦しに行くか!!』



闘技場に着くと、ちょうど師匠の試合が始まったところだった。



「今回、カイル選手は片手剣と盾を使うようです。弟子であるダグラス選手への指導かー?」



師匠が構えたところで、相手が全力で攻撃を始めた。



「おーっと!!カイル選手、相手の猛攻にびくともしません!!!」



「よく見ると1歩も動かずに攻撃を防いでいますね。流石です!!」



師匠は最小限の動きで攻撃をいなし続けていた。

素人目だと、師匠が全く動いていないように見えるだろう。



『やっぱりすごいな…』



相手が全力を出し切り、疲弊し始めたところで師匠は1撃でノックダウンさせた。



「試合終了ーー!!!カイル選手が余裕の勝利です!!」



「過去の出場時と同様、相手の全力攻撃を受けてからの反撃でしたね。」



闘技場を出ると、師匠と会った。



「完封でしたね。」



「いや、そうでもないさ。」



「??」



「ほら、最後の攻撃で俺の頬を擦っていたさ。」



「本当だ…!!ところでどうして相手の攻撃を受けてから反撃するんだ?」



「最初はどんな相手にも全力で戦うのが礼儀だと思ってたんだが、それだと相手が何もできずに負けて悔しいからな。せめて努力の成果を体感しようと思ったんだ。」



「なるほど…」



俺だったら渾身の一撃を悠々と防ぎ、とどめを刺すのは相手に「努力しても俺には勝てない」と言っているように感じる。



『そっちの方が残酷なんじゃないか…?』



そんなことを思ったが、心に留めておいた。
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