パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅫ ⑤

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 どう言っていいのかわからなくて、視線をさまよわせる。けれど、結局、「うん」と頷くことを行人は選んだ。
 そうであってほしいとは思っているからだ。

「でも、それはあくまで俺がそう思うっていう話だから、榛名は自分で確かめたらいいよ」
「……え?」
「せっかく話せる環境にいるんだからさ」

 予想外だった提案に、落としていた視線を上げる。目が合った先で、高藤はどこか困ったふうにほほえんだ。

「こんなこと言うのもなんだと思うけど、卒業したらもう話せる機会なんてないと思うよ。特に、向原さんとはね」

 それはそうだろうと思った。今だって、話すことはほとんどないくらいだ。卒業してしまえば、自分たちの接点はなにひとつなくなるだろうことは想像に難くない。

 ――卒業、か。

 高等部に入ったとき、やっと成瀬たちとまた同じ寮ですごせるというそれだけで、気持ちはいっぱいだった。けれど、季節が進むにつれ、確実に別れの日は近づいていく。
 夏が来て、秋が来て、冬が来たら、彼らのいない二度目の春がやってくる。

 あたりまえのことだった。ぎゅっと手を握りこむ。
 行人は、大学に進学したいと思っている。進学先はまだ具体的に絞れてはいないけれど、進学して知識を増やして、希望する職種に就きたいと思っている。
 だから、必死に授業についていこうと頑張っている。どうにかでもついていければ、未来が広がると信じているから。
 でも。

「言わないよな」
「え? 言わないって、なにが」
「その、……成瀬さん」

 どう言えばいいのかわからないまま、行人は言い募った。

「俺やおまえが安心してここですごせるように、とか。卒業するまでは基盤を守ってやる、とか。あたりまえの顔で言ってくれるけど」

 少し前の話だ。成瀬の部屋に呼ばれて話したとき。高藤にオメガ性だということを打ち明けたらどうかと打診されたことがある。
 あのときも、成瀬は自分が卒業したあとのことを心配してくれていたのだろうと思う。
 そういったふうに自分たちのことは過剰なまでに心配してくれているのに。

「自分は卒業したあと、なにをしたいのか、とか。どうするのか、とか。そういうことまったく言わないよな」

 もしかしたら同級生たちとはそういう話もしているのかもしれない。あたりまえだ。だって、自分たちよりもずっと近い将来の話なのだから。
 けれど、――その近いはずの将来が、彼からはまったく感じられない。

 この学園を卒業してからも、あたりまえに未来は続ていくのに。その話を、行人は一度も聞いたことがない。
 望んでいた否定の言葉は、どれだけ待っても返ってくることはなかった。
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