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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドΦ ①
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[φ]
『この世界は、残念ながら平等ではありません。もちろん、誰もそんなことは公然と言わないと思うわ。でも、心の中ではみんな思っているのではないかしら。
声高に主張しないのは、レイシストだと思われたくないからで、それだけだわ。だって、あなたがベータだかオメガだかは知らないけれど、私たちアルファのことが羨ましいのでしょう?』
「新手の炎上商法なのかな、これ」
こういうキャラだと世間的に認識されているのかもしれないが、それでも止める人間はいなかったのだろうか。
せめてもう少しオブラートに包んでほしい、と身内としては昔から願っているのだが。この人の言動のせいで、
――まぁ、言ったところで、聞くような人でもないな。
苦笑ひとつで、送りつけてこられた雑誌を閉じる。寮生活になって丸二年が過ぎた。長期の休暇も友人のところに行くことが増えていたから、実物よりも紙面で顔を見る機会のほうが多くなっている。
いっそのこと、送りつけられる雑誌も無視をしてしまえば、顔を見ずに済む。わかっていたが、なぜかそれはできなかった。
同室だった向原は、その一連の行為を「理解できない」という顔でよく見ていたけれど。
「そうやって不機嫌になるくらいなら、目ぇ通さなきゃいいのに」
そうして今日も、意味がわからないとばかりの呆れた声で言われてしまった。
向原の言うことは逐一もっともだったし、同じ部屋にいるのにひとりごちてしまった時点で、「甘えている」あるいは「かまわれたがっている」と判断されても返す言葉はない。
だから、成瀬は、「まぁ」と曖昧にほほえんだ。こんな態度を自分が取るようになるなんて、中等部に入った当初は思ってもいなかった。
「読まないで捨てるのも、なんか悪いし」
「へぇ」
「うん、それだけ」
我ながらひどい言い訳だな、と思っているうちに、ふっと向原が笑った。
「そういうの、なんて言うか知ってるか?」
「そういうの?」
「毒親」
「……」
「あるいは、洗脳」
わかってはいるのだ。言われなくても。選んだ沈黙に、向原がまた小さく笑った。
「自覚があるだけ、まだマシだな」
「わかってるよ。わざわざ反応して落ち込んでる俺が馬鹿だってことくらい」
「録音しとけば? その台詞」
つまるところ、まったく信用されていないらしい。信用されないだけの覚えは、いくらでもあったけれど。
そうだな、と苦笑気味に頷いて、成瀬は話を終わらせた。ついでに立ち上がって、クローゼットに雑誌を片づける。とりあえずの、見ないふり、だ。
「親からの刷り込みは根が深いとは言うけどな。上書きしてやろうか」
続いたそれに、少しだけ意外だなと感じながら、振り返る。本を伏せて、こちらを見つめていた同室者の瞳は、いつもどおりの静かなものだった。
意外だったのは、終わらせようとした話を蒸し返されたことだ。そもそもとして他人にそう興味がないということもあるのだろうが、向原は不用意に踏み込んでこない。
それどころか、自分の求めている距離もすべてわかっているかのような、心地いいところにいつも立っている。大嫌いなアルファだったはずなのに、一緒の部屋にいてもつらいと感じない最大の要因だと成瀬は思っていた。
頭がいいだけではなく、勘もいい。さらに言うなら、本人は否定するだろうけれど、優しいのだとも思う。自分のように、わかりやすい優しさを提供しているわけではない、というだけで。
だから、つまるところ、気遣いなのだ、これは。
「できるの?」
「どう思う?」
質問に質問で返されて、成瀬は笑った。気のせいではなく、思想の透ける文章から受けたダメージが薄らいでいくようだった。
「できそうで嫌だな」
たわいのない会話が楽しかったのは、向原がそういう人間だったからだ。頭の回転が速くて、なんでもできる。絶対に敵わないような気もしていたし、劣等感を刺激されないと言ったら嘘になる。
この学園で自分が一番だという顔をできたのは、必死に努力した結果でもあったけれど、向原が「面倒な立ち位置にいたくないから」という理由で手を抜いていたからだ。
それもぜんぶわかっていて、それでも、このころは、気の置ける友人だと思えていたから。
『この世界は、残念ながら平等ではありません。もちろん、誰もそんなことは公然と言わないと思うわ。でも、心の中ではみんな思っているのではないかしら。
声高に主張しないのは、レイシストだと思われたくないからで、それだけだわ。だって、あなたがベータだかオメガだかは知らないけれど、私たちアルファのことが羨ましいのでしょう?』
「新手の炎上商法なのかな、これ」
こういうキャラだと世間的に認識されているのかもしれないが、それでも止める人間はいなかったのだろうか。
せめてもう少しオブラートに包んでほしい、と身内としては昔から願っているのだが。この人の言動のせいで、
――まぁ、言ったところで、聞くような人でもないな。
苦笑ひとつで、送りつけてこられた雑誌を閉じる。寮生活になって丸二年が過ぎた。長期の休暇も友人のところに行くことが増えていたから、実物よりも紙面で顔を見る機会のほうが多くなっている。
いっそのこと、送りつけられる雑誌も無視をしてしまえば、顔を見ずに済む。わかっていたが、なぜかそれはできなかった。
同室だった向原は、その一連の行為を「理解できない」という顔でよく見ていたけれど。
「そうやって不機嫌になるくらいなら、目ぇ通さなきゃいいのに」
そうして今日も、意味がわからないとばかりの呆れた声で言われてしまった。
向原の言うことは逐一もっともだったし、同じ部屋にいるのにひとりごちてしまった時点で、「甘えている」あるいは「かまわれたがっている」と判断されても返す言葉はない。
だから、成瀬は、「まぁ」と曖昧にほほえんだ。こんな態度を自分が取るようになるなんて、中等部に入った当初は思ってもいなかった。
「読まないで捨てるのも、なんか悪いし」
「へぇ」
「うん、それだけ」
我ながらひどい言い訳だな、と思っているうちに、ふっと向原が笑った。
「そういうの、なんて言うか知ってるか?」
「そういうの?」
「毒親」
「……」
「あるいは、洗脳」
わかってはいるのだ。言われなくても。選んだ沈黙に、向原がまた小さく笑った。
「自覚があるだけ、まだマシだな」
「わかってるよ。わざわざ反応して落ち込んでる俺が馬鹿だってことくらい」
「録音しとけば? その台詞」
つまるところ、まったく信用されていないらしい。信用されないだけの覚えは、いくらでもあったけれど。
そうだな、と苦笑気味に頷いて、成瀬は話を終わらせた。ついでに立ち上がって、クローゼットに雑誌を片づける。とりあえずの、見ないふり、だ。
「親からの刷り込みは根が深いとは言うけどな。上書きしてやろうか」
続いたそれに、少しだけ意外だなと感じながら、振り返る。本を伏せて、こちらを見つめていた同室者の瞳は、いつもどおりの静かなものだった。
意外だったのは、終わらせようとした話を蒸し返されたことだ。そもそもとして他人にそう興味がないということもあるのだろうが、向原は不用意に踏み込んでこない。
それどころか、自分の求めている距離もすべてわかっているかのような、心地いいところにいつも立っている。大嫌いなアルファだったはずなのに、一緒の部屋にいてもつらいと感じない最大の要因だと成瀬は思っていた。
頭がいいだけではなく、勘もいい。さらに言うなら、本人は否定するだろうけれど、優しいのだとも思う。自分のように、わかりやすい優しさを提供しているわけではない、というだけで。
だから、つまるところ、気遣いなのだ、これは。
「できるの?」
「どう思う?」
質問に質問で返されて、成瀬は笑った。気のせいではなく、思想の透ける文章から受けたダメージが薄らいでいくようだった。
「できそうで嫌だな」
たわいのない会話が楽しかったのは、向原がそういう人間だったからだ。頭の回転が速くて、なんでもできる。絶対に敵わないような気もしていたし、劣等感を刺激されないと言ったら嘘になる。
この学園で自分が一番だという顔をできたのは、必死に努力した結果でもあったけれど、向原が「面倒な立ち位置にいたくないから」という理由で手を抜いていたからだ。
それもぜんぶわかっていて、それでも、このころは、気の置ける友人だと思えていたから。
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