230 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 2 ⑤
しおりを挟む
そういう認識がはびこっているのも、昔からのことだ。なにを言ったところで信じないだろうから、適当に流し続けてきたけれど。
「そんなことはないぞ。まぁ、どう思うかはおまえの勝手だが、俺は規則を破ったことはないからな」
茅野の言い方はいかにも心外そうだったが、みささぎ祭の件についてはグレーだと思っている。と、いう内心はおくびにも出さないまま、「もちろん」と成瀬は言い足した。
「俺も会長として、規則を破ったことはないつもりだけど。『秘密の薔薇結社』もちゃんと承認しただろ? それに」
生徒会室でさんざんに責められたことは記憶に新しい。なにを考えているのだとも言われたし、会長の一存で却下すればいいだけの話だとも言われた。
強硬策を選ばなかったのは、まだ迷いがあったからだ。けれど、今はそうではない。
なにもなかったころにはもう戻れないのだと、知っている。
「長峰こそ、俺に不満があるみたいだけど。水城くんのことだけじゃなくて、寮生委員会の決定にも俺が介入するって思ってるんだ?」
随分と買いかぶられたものだなと思いながら、にこりとほほえむ。
「茅野だけじゃなくて、ほかの寮の寮長にも賛成するように、俺が圧力かけたとでも思ってる? 水城くんみたいに」
水城がしていたのは、圧力というよりも「おねだり」だったのだろうが。第二の性を利用して、アルファをたぶらかす。きっとそれでうまくいっていたのだろう。アルファにとっても、この学園にいるはずのないオメガと遊ぶのは、ちょうどいい娯楽だったはずだ。
「……どういう意味だよ、水城みたいにって」
「べつに、そのままの意味だけど。おまえも信じてるのかなと思って。あれだけ楽しそうに喋って聞かせてくれたくらいだから、寮の中では水城くん、もっと好き放題に喋ってるんじゃないのかなって」
反応を見ながら、成瀬はもう一度ほほえんだ。
「俺の噂」
水城が公共の場で発言したことに対しては「考えが足りなかった」と認めていたが、はたして寮の中ではどうだったのか。返ってくる答えを楽しみにしていたのに、また横やりが入ってしまった。
「言いすぎだとさっきも言ったばかりだろう。会長が率先して喧嘩を売ってどうするんだ」
やめておけ、と呆れの濃くなった調子で諫められて、小さく溜息を吐く。これ以上をさせてくれる気はないらしいとわかったからだ。
「買っただけだ」
仕掛けてきたのは向こうだという主張に、茅野は頭の痛い顔を隠さなかった。
「買っただけ……、まぁ、いいが。とりあえず、ここでことを大きくするな。長峰も、寮のことで弁明があるなら、俺にするべきだろう」
埒が明かないと踏んだらしく、「外で聞いてやるから」と適当な理由ひとつで、半ば強引に長峰を連れ出していく。
教室の扉が閉まった瞬間、篠原がぼそりと口を開いた。教室内の雰囲気はどこかまだ騒めいている。
「おまえ、殴られてやる気満々だっただろ」
「だって、そのほうが手っ取り早いし」
「あのなぁ」
最中は関わりたくないと言わんばかりだったのに、終わった途端にこれだ。振り返ると、篠原は呆れ半分といった顔をしていた。
「いや、まぁ、べつに俺はいいんだけど。俺はな」
「ならいいだろ」
「そうじゃなくて。っつか、さっき聞こうと思ってたんだけど」
「なに」
「おまえ、なに焦ってんの、そんなに」
「べつに……」
その表情から読み取れる残り半分は、懸念に近い。苛立ちそうになったのを押さえて、成瀬はなんでもない調子を取り繕った。
自分の感情をコントロールする術はしっかりと身に着けているつもりだった。それなのに、最近はうまくできている気がしない。最低限はできているのだろうが、その程度では誤魔化されてくれない人間がいるから面倒なのだ。
こいつといい、茅野といい、向原といい。アルファというのは、余計な目端が利く人間ばかりで、だから、嫌だ。
放っておいてほしいのに、余裕のある人間の性なのか、そうしてくれない。
「潰すなら早いほうがいいだろ」
早いほうがいいに決まっている。そう判断したからこそ、目立つところで焚きつけて回っているのだ。
次が来ない保証は、どこにもない。
「そんなことはないぞ。まぁ、どう思うかはおまえの勝手だが、俺は規則を破ったことはないからな」
茅野の言い方はいかにも心外そうだったが、みささぎ祭の件についてはグレーだと思っている。と、いう内心はおくびにも出さないまま、「もちろん」と成瀬は言い足した。
「俺も会長として、規則を破ったことはないつもりだけど。『秘密の薔薇結社』もちゃんと承認しただろ? それに」
生徒会室でさんざんに責められたことは記憶に新しい。なにを考えているのだとも言われたし、会長の一存で却下すればいいだけの話だとも言われた。
強硬策を選ばなかったのは、まだ迷いがあったからだ。けれど、今はそうではない。
なにもなかったころにはもう戻れないのだと、知っている。
「長峰こそ、俺に不満があるみたいだけど。水城くんのことだけじゃなくて、寮生委員会の決定にも俺が介入するって思ってるんだ?」
随分と買いかぶられたものだなと思いながら、にこりとほほえむ。
「茅野だけじゃなくて、ほかの寮の寮長にも賛成するように、俺が圧力かけたとでも思ってる? 水城くんみたいに」
水城がしていたのは、圧力というよりも「おねだり」だったのだろうが。第二の性を利用して、アルファをたぶらかす。きっとそれでうまくいっていたのだろう。アルファにとっても、この学園にいるはずのないオメガと遊ぶのは、ちょうどいい娯楽だったはずだ。
「……どういう意味だよ、水城みたいにって」
「べつに、そのままの意味だけど。おまえも信じてるのかなと思って。あれだけ楽しそうに喋って聞かせてくれたくらいだから、寮の中では水城くん、もっと好き放題に喋ってるんじゃないのかなって」
反応を見ながら、成瀬はもう一度ほほえんだ。
「俺の噂」
水城が公共の場で発言したことに対しては「考えが足りなかった」と認めていたが、はたして寮の中ではどうだったのか。返ってくる答えを楽しみにしていたのに、また横やりが入ってしまった。
「言いすぎだとさっきも言ったばかりだろう。会長が率先して喧嘩を売ってどうするんだ」
やめておけ、と呆れの濃くなった調子で諫められて、小さく溜息を吐く。これ以上をさせてくれる気はないらしいとわかったからだ。
「買っただけだ」
仕掛けてきたのは向こうだという主張に、茅野は頭の痛い顔を隠さなかった。
「買っただけ……、まぁ、いいが。とりあえず、ここでことを大きくするな。長峰も、寮のことで弁明があるなら、俺にするべきだろう」
埒が明かないと踏んだらしく、「外で聞いてやるから」と適当な理由ひとつで、半ば強引に長峰を連れ出していく。
教室の扉が閉まった瞬間、篠原がぼそりと口を開いた。教室内の雰囲気はどこかまだ騒めいている。
「おまえ、殴られてやる気満々だっただろ」
「だって、そのほうが手っ取り早いし」
「あのなぁ」
最中は関わりたくないと言わんばかりだったのに、終わった途端にこれだ。振り返ると、篠原は呆れ半分といった顔をしていた。
「いや、まぁ、べつに俺はいいんだけど。俺はな」
「ならいいだろ」
「そうじゃなくて。っつか、さっき聞こうと思ってたんだけど」
「なに」
「おまえ、なに焦ってんの、そんなに」
「べつに……」
その表情から読み取れる残り半分は、懸念に近い。苛立ちそうになったのを押さえて、成瀬はなんでもない調子を取り繕った。
自分の感情をコントロールする術はしっかりと身に着けているつもりだった。それなのに、最近はうまくできている気がしない。最低限はできているのだろうが、その程度では誤魔化されてくれない人間がいるから面倒なのだ。
こいつといい、茅野といい、向原といい。アルファというのは、余計な目端が利く人間ばかりで、だから、嫌だ。
放っておいてほしいのに、余裕のある人間の性なのか、そうしてくれない。
「潰すなら早いほうがいいだろ」
早いほうがいいに決まっている。そう判断したからこそ、目立つところで焚きつけて回っているのだ。
次が来ない保証は、どこにもない。
13
あなたにおすすめの小説
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる