パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
327 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ④

しおりを挟む



「このまままっすぐ行くと、めちゃくちゃ面倒なことになる気がする」

 嫌な声が聞こえた、と続けて呟いた篠原が、ぴたりと足を止めて、出てきたばかりの校舎を振り返っている。
 もうこれ以上はやらないと宣言して、着いて出てきたくせに、今にも戻りたいと言い出しかねない雰囲気だ。
 その横顔を一瞥して、構わず歩き出す。あいかわらずの動物的な勘の良さだとは思うし、戻りたいのなら好きにすればいいとも思うが、そこに付き合う気はさらさらない。

「おまえは、どうせ、このあと寮で会うだろうが」
「だからだよ。だから、余計なところで関わり持ちたくないの」

 わかるだろ、と言いながらも、結局、足音はついてきた。大方、自分にだけ水城との接点を持たせたくないのだろう。

「いい性格してるのも知ってるし、メンタル強いのも十分に思い知ってるけど。それはそれとして、あの顔に向かって、なんかいろいろ言いにくいんだよな。……いや、まぁ、そもそも、向こうがなにも言わなかったら、こっちも言う気はないんだけど」
「おまえ、それでよく皓太焚きつけたな」
「年の差」

 そう言ってやると、嫌そうに篠原が首を振った。

「俺がやり合うのとは、また違うだろ。勝手なこと言ってる自覚はあるけど、いなかったら平和なのにって考えるのと、直接どうのうこうのっていうのは別というか」

 ちょっと押したら吹っ飛びそうだし、と続いた台詞に、呆れ半分で失笑する。

「あいつがアルファくらい簡単に転がせるって高括ってんの、おまえみたいなやつが多いからだろうな」

 なんだかんだと言ったところで、この学園には自分より弱いものを痛めつける趣味のない、お上品な人間が多いということだ。水城は、そのあたりも織り込んでいたのだろうが。

「相手が誰だろうとお構いなしのおまえにだけは言われたくねぇ……。おまえ、そのあたりまったく躊躇ないもんな。あの茅野でさえ、成瀬の顔は殴りにくいって言ってたのに。おまえ、ぜんぜん平気でやりそう」
「話が違うだろ、それは」
「なにがどう違うって……、あ」

 出た、と囁いて寄こす声は、完全に「ほら見ろ」と言っていた。遠目だが、見ればわかる。背の高い男子生徒と一緒に木陰でなにやら話しているのは、まちがいなく水城だった。
 相手の生徒が前寮長でも目立つアルファでもなかったことが意外だったのか、「誰だ、あれ」と篠原が呟く。

「さぁな」

 歩く速度を緩めることなく、おざなりに受け流せば、隣から突き刺さる訝しげな視線が強くなった。

「おまえ、もしかして、鉢合わせしたくてこの時間に生徒会室出たり……、マジか」

 勝手にひとりで納得し始めているのを、「まさか」と一笑する。

「タイミングが合えば、話くらい聞いてもいいかと思ってやってたってだけだ」
「うわ、こわ」

 呆れ切った調子で篠原が応じたのとほぼ同じタイミングで、水城が振り返った。たった今こちらの存在に気がついたとでもいうように、その顔に華やかな笑みが浮かぶ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...