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第一話
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「ってか、佐野、折原くんと同じ高校でサッカーしてたの? すっごい意外なんだけど」
割って入ってきた栞の声に、俺は急激に熱が冷めていくのを自覚した。
いや、そうじゃない。これで良かったんだ。
俺は、今、何を考えていた?
「意外って、なんでだよ。今も似たようなことしてるだろ、俺」
折原から視線を外して、栞だけを視界に留める。大丈夫だ、これが今だ。こちら側が俺の世界だ。
「だってさ、佐野、サッカー下手じゃん」
「そんなことないよ、先輩、超上手いよ」
「うっそだー、折原くん、先輩だからって佐野なんか立てなくていいよー。だって佐野、最初のころ、フットサルの試合、散々だったもん」
「それ、きっと……」
言いかけた折原を遮るように、「栞」と少し強めに名を呼ぶ。不満そうに口を尖らすのを、もう用は済んだだろと押し返す。
栞は仕方ないとでも言いたげに小さく肩を竦めてみせた。
「先輩、もう帰るの?」
「おまえも早く戻れば? もうおまえ以外、誰も残ってねぇみたいだけど」
ちらちらと俺たちを窺い見ているファンの女の子たちを除けば、ほとんど人は残っていなかった。
それでも折原は、どことはなく寂しそうな不本意そうな顔をする。
折原にしたら久しぶりに会った先輩がすぐにいなくなってしまうのが不満なのだと言う、それだけなのだろうけれど。
「えー、じゃあ今度どっかで飯行きません? 俺、佐野先輩ともっと話したい」
そして後輩の顔で強請られた誘いを無下に切り捨てることは出来なかった。「時間が合ったらな」と曖昧に応じて、背を向けた。フェンス越しのこの距離でいいのに。なんでおまえは、乗り越えてこようとするんだ。
それが折原にとって、ただの旧友との親交であっても、俺がそうじゃなかったら、それは駄目なのに。
俺が駄目だから、ずっと避けてきていたのに。
帰りの電車の中で、栞がぽそっと呟いたのが嫌に胸に残った。
折原くんってさ、いっつもにこにこしてて、怒ったりとか機嫌悪そうにしたりとか全然ないんだよね。って佐野はそんなの知ってるかもしれないけど。
だからあたし、びっくりしたよ。佐野先輩って、叫んだ時、折原くん、すごい必死な顔してた。
栞がそう言うのなら、あのとき俺が感じた佐野の必死さは見間違いじゃなかったのだろう。
昔はよく感情を、ころころ表情に出す奴だったけど。でも確かにそうだな、嫌な感情の出し方をするタイプじゃなかった。
だからさ、佐野。と栞が言う。
「あんだけ懐いてくれてるかわいい後輩、ちょっとは大事にしてあげたら? なんかあんた、すごい冷たかったけど」
「……んなこと、ねぇつもりだけど」
「そ? なら別にいいけど。ってかそれよりちゃんとあのアホに言っといってやってよね。ついでに発破でもかけといて」
ガタンと電車が揺れて、栞が降りる駅に停車する。
じゃあねと手を振って降りていく栞の後姿が完全に視界から消えたところで、どうにもならない溜息だけが漏れ落ちた。
折原は、ちゃんと割り切ってる。割り切った上で、久しぶりに会った俺が懐かしかっただけだ。
なのに、俺はそうじゃないから。
先輩、とあのころと変わらない声で折原が俺を呼んだとして、けれどあのころとは込められている意味合いは、きっと違う。
なのに、俺は相変わらず、気になって惹きつけられて、しょうがなかったから。馬鹿みたいだと思うのに。それこそ、馬鹿だと思うのに。
やっぱりまだ会えない、と思った。今日はたまたま会ってしまったけれど、もう俺からは絶対、会わないようにしようと、そう。
もし次会う時があるとしたら、それは、俺がきちんと折原を割り切った後じゃないと駄目なんだ。それが、いつになるのかなんて、分からないけれど。
割って入ってきた栞の声に、俺は急激に熱が冷めていくのを自覚した。
いや、そうじゃない。これで良かったんだ。
俺は、今、何を考えていた?
「意外って、なんでだよ。今も似たようなことしてるだろ、俺」
折原から視線を外して、栞だけを視界に留める。大丈夫だ、これが今だ。こちら側が俺の世界だ。
「だってさ、佐野、サッカー下手じゃん」
「そんなことないよ、先輩、超上手いよ」
「うっそだー、折原くん、先輩だからって佐野なんか立てなくていいよー。だって佐野、最初のころ、フットサルの試合、散々だったもん」
「それ、きっと……」
言いかけた折原を遮るように、「栞」と少し強めに名を呼ぶ。不満そうに口を尖らすのを、もう用は済んだだろと押し返す。
栞は仕方ないとでも言いたげに小さく肩を竦めてみせた。
「先輩、もう帰るの?」
「おまえも早く戻れば? もうおまえ以外、誰も残ってねぇみたいだけど」
ちらちらと俺たちを窺い見ているファンの女の子たちを除けば、ほとんど人は残っていなかった。
それでも折原は、どことはなく寂しそうな不本意そうな顔をする。
折原にしたら久しぶりに会った先輩がすぐにいなくなってしまうのが不満なのだと言う、それだけなのだろうけれど。
「えー、じゃあ今度どっかで飯行きません? 俺、佐野先輩ともっと話したい」
そして後輩の顔で強請られた誘いを無下に切り捨てることは出来なかった。「時間が合ったらな」と曖昧に応じて、背を向けた。フェンス越しのこの距離でいいのに。なんでおまえは、乗り越えてこようとするんだ。
それが折原にとって、ただの旧友との親交であっても、俺がそうじゃなかったら、それは駄目なのに。
俺が駄目だから、ずっと避けてきていたのに。
帰りの電車の中で、栞がぽそっと呟いたのが嫌に胸に残った。
折原くんってさ、いっつもにこにこしてて、怒ったりとか機嫌悪そうにしたりとか全然ないんだよね。って佐野はそんなの知ってるかもしれないけど。
だからあたし、びっくりしたよ。佐野先輩って、叫んだ時、折原くん、すごい必死な顔してた。
栞がそう言うのなら、あのとき俺が感じた佐野の必死さは見間違いじゃなかったのだろう。
昔はよく感情を、ころころ表情に出す奴だったけど。でも確かにそうだな、嫌な感情の出し方をするタイプじゃなかった。
だからさ、佐野。と栞が言う。
「あんだけ懐いてくれてるかわいい後輩、ちょっとは大事にしてあげたら? なんかあんた、すごい冷たかったけど」
「……んなこと、ねぇつもりだけど」
「そ? なら別にいいけど。ってかそれよりちゃんとあのアホに言っといってやってよね。ついでに発破でもかけといて」
ガタンと電車が揺れて、栞が降りる駅に停車する。
じゃあねと手を振って降りていく栞の後姿が完全に視界から消えたところで、どうにもならない溜息だけが漏れ落ちた。
折原は、ちゃんと割り切ってる。割り切った上で、久しぶりに会った俺が懐かしかっただけだ。
なのに、俺はそうじゃないから。
先輩、とあのころと変わらない声で折原が俺を呼んだとして、けれどあのころとは込められている意味合いは、きっと違う。
なのに、俺は相変わらず、気になって惹きつけられて、しょうがなかったから。馬鹿みたいだと思うのに。それこそ、馬鹿だと思うのに。
やっぱりまだ会えない、と思った。今日はたまたま会ってしまったけれど、もう俺からは絶対、会わないようにしようと、そう。
もし次会う時があるとしたら、それは、俺がきちんと折原を割り切った後じゃないと駄目なんだ。それが、いつになるのかなんて、分からないけれど。
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