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第一話
7.
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俺が正門付近に辿り着いたときは、想像していた以上にすごい人だかりが出来上がってしまっていた。
中心できゃいきゃいと纏わりついているのは、自分に自信がありそうな女の子ばかりだったが、輪から外れたところで携帯電話を構えている学生の多さに嫌気が差した。
なぁ、そいつ、プロ選手ではあるかもしれねぇけど、芸能人でもなんでもねぇよ。ほっといてやれよ。
顔でばっかり騒いでねぇで、サッカーしてるところだけ見ててやれよ、と。
今更。それこそ今更俺が言及することではないと分かっていたのに、理性じゃ効かないところで、腹が立った。
「折原!」
その苛立ちが乗ったように、大きい声になった。
幼いころから広いフィールドで指示を出していたせいか、それとも地なのかは分からないが、俺の声はよく通ると昔から称されていた。
そしれそれは今回も中心までしっかり届いたのだろう、折原を囲んでいた女子の声が止んで、弾かれたように折原が顔を上げた。
「先……」
「俺に用事だったんだろ、早く行くぞ」
決めたはずの心は、折原の顔を見ると簡単に流されてしまいそうで、俺は不自然にならない程度に視線を外すと、そのまま門を出た。後ろを確認なんてしない。それでも俺には折原は着いて来るだろうと何故か確信していた。
我ながら矛盾していると、本当に思う。もう折原は昔とは違うんだと思っているくせして、あの頃と変わらない行動を折原が採ることを期待している。
「先輩」
正門から数メートル進んだところで、人を撒いてきたらしい折原が隣に並んできた。前を見据えたまま、俺が小さく息を吐いたのと、折原が嬉しそうに笑ったのがほぼ同時だった。
「先輩の声、変わんないっすね。俺ね、昔から先輩に名前呼ばれると背筋が伸びるっつうか、絶対決めなきゃみたいなこと、よく思ってたの思い出しました」
「おまえはさ、」
昔話なんてしたくない。俺はおまえとそんな話をして、平静でいられない。
もう一度切り捨てる覚悟を溜めて、折原を見上げる。あのころより少し大人びたような気はする。高校生だった頃はもう少し無邪気な少年という感が勝っていた。今は端正、と言う色合いが強くなったように思う。
「おまえは、もう全然あのころとは違うじゃん。なのにこんなとこでわざわざ囲まれて、なにやってんの。っつうかなにがやりたいの」
「だって、俺、先輩の連絡先とか知らねぇし」
「そんなもん、富原にでも聞けよ。知りたかったら」
「その富原さんに、俺に自分の番号教えんなっつったの、あんたでしょうが」
責めるようにと言うよりかは、苦しそうだった。嫌だな、と思った。
ここでこんな、どうにもならない話をしていることも、こいつがこんな表情を見せることも。
「だったらそれで察しろよ。俺はおまえに会いたくなかったの」
「俺は、」
折原の手が伸びたと思った時には、手首をきつく掴まれていた。
「ちょ、おまえ、ここ、どこだと……」
「俺は、ずっと、会いたかった」
文句が立ち消えたのは、折原の眼が馬鹿みたいに真剣だったからだ。
馬鹿だ。掴まれたままの指先が熱いように思うのは、俺がそれを望んでいるからなのだろうか。
だとしたら、どうしようもないと思う。本当に。
「佐野先輩に会いたかった」
呟くように落ちた折原の声は、ひどく頼りない様で、そのくせ何かの祈りみたいだった。
――俺は、おまえに会いたくなかったよ。
言うはずだった台詞は、喉の奥で凍って消えた。
中心できゃいきゃいと纏わりついているのは、自分に自信がありそうな女の子ばかりだったが、輪から外れたところで携帯電話を構えている学生の多さに嫌気が差した。
なぁ、そいつ、プロ選手ではあるかもしれねぇけど、芸能人でもなんでもねぇよ。ほっといてやれよ。
顔でばっかり騒いでねぇで、サッカーしてるところだけ見ててやれよ、と。
今更。それこそ今更俺が言及することではないと分かっていたのに、理性じゃ効かないところで、腹が立った。
「折原!」
その苛立ちが乗ったように、大きい声になった。
幼いころから広いフィールドで指示を出していたせいか、それとも地なのかは分からないが、俺の声はよく通ると昔から称されていた。
そしれそれは今回も中心までしっかり届いたのだろう、折原を囲んでいた女子の声が止んで、弾かれたように折原が顔を上げた。
「先……」
「俺に用事だったんだろ、早く行くぞ」
決めたはずの心は、折原の顔を見ると簡単に流されてしまいそうで、俺は不自然にならない程度に視線を外すと、そのまま門を出た。後ろを確認なんてしない。それでも俺には折原は着いて来るだろうと何故か確信していた。
我ながら矛盾していると、本当に思う。もう折原は昔とは違うんだと思っているくせして、あの頃と変わらない行動を折原が採ることを期待している。
「先輩」
正門から数メートル進んだところで、人を撒いてきたらしい折原が隣に並んできた。前を見据えたまま、俺が小さく息を吐いたのと、折原が嬉しそうに笑ったのがほぼ同時だった。
「先輩の声、変わんないっすね。俺ね、昔から先輩に名前呼ばれると背筋が伸びるっつうか、絶対決めなきゃみたいなこと、よく思ってたの思い出しました」
「おまえはさ、」
昔話なんてしたくない。俺はおまえとそんな話をして、平静でいられない。
もう一度切り捨てる覚悟を溜めて、折原を見上げる。あのころより少し大人びたような気はする。高校生だった頃はもう少し無邪気な少年という感が勝っていた。今は端正、と言う色合いが強くなったように思う。
「おまえは、もう全然あのころとは違うじゃん。なのにこんなとこでわざわざ囲まれて、なにやってんの。っつうかなにがやりたいの」
「だって、俺、先輩の連絡先とか知らねぇし」
「そんなもん、富原にでも聞けよ。知りたかったら」
「その富原さんに、俺に自分の番号教えんなっつったの、あんたでしょうが」
責めるようにと言うよりかは、苦しそうだった。嫌だな、と思った。
ここでこんな、どうにもならない話をしていることも、こいつがこんな表情を見せることも。
「だったらそれで察しろよ。俺はおまえに会いたくなかったの」
「俺は、」
折原の手が伸びたと思った時には、手首をきつく掴まれていた。
「ちょ、おまえ、ここ、どこだと……」
「俺は、ずっと、会いたかった」
文句が立ち消えたのは、折原の眼が馬鹿みたいに真剣だったからだ。
馬鹿だ。掴まれたままの指先が熱いように思うのは、俺がそれを望んでいるからなのだろうか。
だとしたら、どうしようもないと思う。本当に。
「佐野先輩に会いたかった」
呟くように落ちた折原の声は、ひどく頼りない様で、そのくせ何かの祈りみたいだった。
――俺は、おまえに会いたくなかったよ。
言うはずだった台詞は、喉の奥で凍って消えた。
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