夢の続きの話をしよう

木原あざみ

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第五話

32.

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 講義やバイトに時間を充てていた所為で、最近無沙汰をしていたサークルのボックスを久しぶりに開けると、相変わらずの元気な声が飛んできた。

「あ、佐野。久しぶり!」

 そこにいたのは、二人仲良く雑誌を覗き込んでいる栞と庄司で。
 この二人がようやくついこのあいだ「お付き合い」を始めたのだと聞いた時は、「やっとか」と祝福半分、呆れ半分だったのだけれど。流れる空気は相変わらずのまったりとしたもので、変わらなさに少しばかりほっとする。

「なに見てんの?」

 普段だったら気にもならなかっただろう雑誌の内容を尋ねたのは、庄司の近くに自然と腰を下ろしかけた自分から、それを隠そうとしたのが分かったからだった。
 ろくなものじゃないんだろうなと理解していたとしても、好奇心というのは理性とは別の所からあふれ出してくるものである。

「あ、これ? ねぇ、佐野知ってる? 折原くんさぁ、」
「栞!」

 鋭い庄司の声に、栞が小さく肩をすくめた。そして不安そうに彼氏であるところの庄司と俺とを窺い見る。
 いやだから、そんな気を回してもらうような必要ないっての。

「なに? あいつ今度はなんの記事になってんの?」

 だから、ことさら軽い調子で続きを促してやれば、栞はほっとして雑誌を持ち上げた。けれどどことなく庄司の眼を気にしているのは、あれか。付き合い始めたから、なのだろうか。
 ……付き合う前だったら、栞、庄司の反応気にしたりしてなかったぞ、絶対。

「たいしたもんじゃねぇって。ほら、あの子目立つから、面白がられんだろ」
「知ってる」

 そんなの、昔からだ。
 いつあいつがそんなことしたってよ、と突っ込んでやりたいレベルの噂が校内ではよく蔓延していた。
 本人は、「これも有名税ってやつですかねぇ」だなんて、暢気に笑っていたけれど。

「だから別に何見てもなんとも思わねぇって。せいぜい笑いの種になるくらいのもんなんだし」

 だから、頼むから、変な気を使わないでくれと心の底から思う。
 まるで、自分たちの今の関係を知られているみたいだと、深読みしたくなってしまう。
 そんなこと、あっていいはずがないのに。

「折原くん、かっこいいからねぇ。今回は女子アナだって。しかも結構年上の。ほら、これこれ」

 今回は、ってなんだよと思いながら、栞の指先を辿る。
 白黒の誌面に掲載されている粗い写真に写る人影の片割れは、確かに折原のものだった。
 どこかの店を伴って出る瞬間を撮られたらしいそれは、密会だと煽られてもしょうがないものにも見える。
 切り取られていない風景に、連れ立っていたメンバーがいるのかもしれない。いないのかもしれない。
 それはこんな雑誌を見るしかない俺には分からないことで。

「でも確かに折原くん、年上の女の人好きそうな感じするよねって。可愛がられそうだし」

 この人、美人だもんね。と栞の細い指先が紙面をなぞる。

「まぁな」

 そっけなくなった相槌も、いつものことだと思われたのか、さして気にした様子もなく栞が笑う。

「佐野にも結構甘えてる感じだったもんね。末っ子キャラ?」
「どうだろうな、あいつ確か、下に弟か妹いたぞ」
「え、嘘! 超意外!」

 空気読まないで、甘えるようなこともしないしな。
 結局気を使っているのも、いろいろ考えているのも、全部あいつで――……。

「へぇそうなんだ。でも実際どうなんだろ、付き合ってんのかな?」
「栞、週刊誌ネタなんて8割、嘘だって。なぁ?」

 だからそこでどうしておまえは、まるで俺を宥めるような台詞を吐くんだ。
 その気遣いに苛々するのを押し隠せているのかいないのかさえ分からないまま、俺は「さぁな」と投げやりに答えた。

 付き合ってはいないだろうと知っている。ただ、この女はもしかしたら、折原に気があるのかもしれないし、折原がそれをどう受け止めているのかは知らない。
 ただ分かることがあるとすれば――、

「まぁ、似合うんじゃねぇの。別に」

 少なくとも、隣に俺が立っているよりは。
 見目の良い、女が立っている方が。

「折原くんに聞いてみてよ」と他意なく笑う栞の隣で、「聞かないでいいからな」と庄司が苦笑いでいさめている。そのやりとりは、とても自然で、誰からも眉を顰められないものだった。

 考えたくはない、けれど。でも。

 折原と俺とじゃ、こうはいかない。似合わない。
 肯定的にとらえられることはない。

 ずっと思っていたことで、戒めていたことだった。なのに今まで俺は結局のところで視ないふりをしていたのかもしれない。
 折原の隣に立っていても違和感のない女が映る写真が存在しているのが、確かに胃を焼いた。


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