夢の続きの話をしよう

木原あざみ

文字の大きさ
37 / 98
第六話

36.

しおりを挟む
 今ならまだ家まで帰れるから、と腰を上げた富原を見送って、枕元に電源が落ちたままの状態で放置していた携帯電話に久方ぶりに充電器を差し込んだ。

 短い振動音とともに、携帯電話が起動する。
 言われてみれば、確かに1週間ほど放置していたかもしれない。
 途端、メールの受信や着信を告げてくる。そのうちの半数ほどが折原からで、残りはサークルのメンバーからのものが大半だった。

 中身を見るのに躊躇しかけた指先を意図的に無視して、開く。
 そして、――そっと携帯を閉じた。

 打つなら、たった一言返したらいい。
 それで、すべてが終わる。なのに、それさえもできないのだから、本気でどうしようもない。
 でも、このままでいいわけがないんだよな。

 意を決したあとは早かった。
 と言うよりかは、これ以上、ぐだぐだしていたらまた外に出られなくなってしまうと分かっているからかもしれない。
 コートだけ羽織って外に出る。冬の外気が冷たくて、寮にいたころを思い出した。
 寒い、と本当なのかいいわけなのかわからないことを口にして、距離を詰めて隣に座る。
 その体温に、触れているだけで幸せだったのは、本当なのだ。

 ただ、それがいつしか消えてしかるべきものだと、目をそらしていた事実があるだけで。


「先、輩?」
「……折原」

 階段を下りて、共同玄関を出た瞬間。ぶつかりかけた人影に心臓がはねた。
 まさかここで出会うとは思っていなかったからなのか、折原も驚いた顔を隠し切れていなかった。

「あ、どっか行くとこでした?」

 おまえに逢いに行こうかと思っていたとは、言えなかった。
 折原は昔と変わらない顔で笑うと俺は思っていた。
 屈託のない顔で、自信に満ちた少年じみた顔で。

 けれどそれも俺が思い込んでいただけなのかもしれない、と今になってやっと気が付いた。

「あの、先輩。そんな凝視しなくても。俺、ストーカーとかじゃないです……よ? と言うか、そのつもりなんですけど。あれ、でも割と俺、先輩のところ押しかけてます?」

 これ、ストーカーなんですかねぇ、と苦笑した折原にようやく反応を返せた。
 小さく首を振って、それからもう一度折原を見る。

 いつまでも、こどもじゃない。
 それは当たり前のはずで。ここにいるのは、あのころの折原じゃない、と。
 俺は何度言い聞かせたら、理解できるのだろう。

「べつに、どこに行くってわけでもなかったんだけど」
「なんですか、それ」
「どこがいい?」

 意味が分からないとばかりに目を瞬かせた折原に、そっけなく繰り返す。
 折原に言われたことはなかったが、他の連中には俺の言葉尻をとって、「横暴だ」とよく茶化していたなとなぜかそんなことを思い出してしまった。

「そんなことないですよ」と笑って否定していた折原を、犬みたいだよなとからかっていたのもあいつらだった。

 窺うようにこちらを見ていた折原が、そっと息をついた。

「俺は先輩と一緒だったら、どこでもよかったんです、本当に、昔から」

 先輩、先輩、と。
 なんで俺なんだと言いたくなるくらい、折原はずっと俺に着いて回っていた。

「でも、先輩は、それじゃ困りますもんね」
「……折原」
「今日、車なんです。どっか行くところだったんなら、送りますよ」

 へらりと何でも無いように笑うことが、どれだけ無理をさせていたのか。
 気づいていなかったとしたら、俺は、折原の何を見ていたのだろう。
 それだけ自分のことでいっぱいいっぱいだったのかと思うと、たまらなかった。

 俺は、――何を求めているんだろう。
 折原に、なにをしてやれるんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿
BL
夢を追い求める三男坊×無気力なひとりっ子 孤独な幼少期を過ごしていたルイ。虫や花だけが友だちで、同年代とは縁がない。王国の一人っ子として立派になろうと努力を続けた、そんな彼が隣国への「嫁入り」を言いつけられる。理不尽な運命を受けたせいで胸にぽっかりと穴を空けたまま、失意のうちに18歳で故郷を離れることになる。 行き着いた隣国で待っていたのは、まさかの10歳の夫となる王子だった、、、、 8歳差。※性描写は成長してから(およそ35、36話目から)となります

黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。 転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。 朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。 生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。 どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。 忙しい大人の甘いオフィスラブ。 フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...