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第十話
60.
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灯りは消したいと俺が言った。ただ単純に恥ずかしかったからだ。先輩がそう言うならそれで良いですよと、変わらない調子で折原は請け負って、光源を落とした。
初めて足を踏み入れた家の寝室で、――有体に言えばセックスをしようとしている。
数時間前まで、もう二度と会うことはないだろうと思っていた相手と。
ごく自然な流れでシーツの上に押し倒され、覆いかぶさってきた影と、また何度もキスを重ねる。当たり前の前戯がしている相手が折原だと言うだけで、不思議な感じがする。それなのに、すとんと胸に落ちてくるようにも思えて、それが戸惑いを助長させた。
顔を上げた折原がふっと微笑った。
「先輩って、男としたことってあります?」
「あ、るわけないだろ!」
反射的に叫んでしまってから、ゲイだと公言している相手に、その言い方はまずかっただろうかとも思ったのだけれど、折原は「ですよね」とさらりと受け流して、僅かに考えるように黙った。
「折原?」
「まぁ、なんと言うか、ある意味では自然の摂理には反している行為なわけで」
「……おお」
「勿論、極力、負担は少ないように善処しますが、最初は辛いし痛いとも思いますよ」
「……」
「だから、最後までしないと言う選択肢も今ならなくはないんですけど」
なんでこいつは、要所要所で現実に戻るようなことを淡々と告げてくるのか。と思わなくはない。けれど。
――良いんですよ、先輩が嫌なら、俺はそれで。
静かに笑って告げられた言葉は、俺が言わせたものだと分かっていた。だから批難するつもりは一応、ない。そのつもりだ。いっそのこと流されたいと思うのは簡単で、それを望みたい甘えはあると言えばあるけれど。
「大丈夫」
「そうですか? でも、先輩」
「なんだよ」
心配している、と言うよりは、面白がっている声だ。
「今なら、止めますけど。始めたら、さすがに途中で止めましょうかって言えるほど紳士じゃないですよ、俺」
「――しつこい」
思わず漏れてしまったそれに、折原が笑った。昔、良く見たような顔で。
「そこで逆切れするあたり、先輩らしくて好きですよ、俺」
「悪かったな」
批難する気はないと言い聞かせた直後にこれが出るのだから、我ながらどうしようもない。……けれど。
「いまさら、言わない。俺が決めた。ちゃんと選んだ。だから」
「じゃあ、二人で選んだことにしましょうか」
宥めるような優しい声で落ちて来る。
「ゆっくりで良いです。大丈夫ですから、――でも、怖かったら怖いって言ってくれても良いんですよ」
シャツを捲って入ってくる指先の冷たさに小さく息を呑む。反射だ。それなのに、侵入が止まる。
「止めないって言わなかったか、おまえ」
入り混じり始めた緊張を呑み込んで告げる。
「聞いてみたいだけです、俺が」
「聞いてみたかっただけって」
「だって。怖いって先輩が俺に言うと思ったら、可愛いじゃないですか」
「性質、悪すぎだろ……」
「嫌だな、先輩」
知らなかったんですか、と囁く。暗がりの中でも、見下ろす瞳の色が分かった。優しい。慈しみ。そしてどこか昏い陰り。
「……大丈夫」
応じる声はそれでもやっぱり硬かったのかもしれない。苦笑した気配のあと、降ってきたのは柔らかい口づけだった。
目尻に、頬に、口元に。あやすように落ちて来るそれがくすぐったい。
「先輩」
合間に響く声に、触れられるのと同じくらい、ぞくりと身体の芯が震える。惹かれていると再認するのと同時に取り返しのつかないところに踏み込んでいるとも改めて思えて。
首筋を吸った唇がそのまま肌を伝って降りていく。襟ぐりのあいた隙間から鎖骨に触れ、きつく吸われる。その感覚に小さく身を捩る。
「痕……付けんな」
抗議に、折原が笑って、また同じ個所に押し当てる。走った微かな痛みに、噛まれたことを知った。
「ちょ、折原。俺は、普通に仕事もあるんだって」
「明日はないでしょ? それに普通にしてたら見えませんって」
何かの拍子に見えたらどうしてくれるんだ、と思ったが、藪を突きそうで止めた。
「付けてみたかったんですよね、先輩に」
嫉妬深いんですよ、と軽口のように言いながら、痕を増やしていく。昔は、絶対に痕を残したりなんてしなかった。出来るわけもなかったからだけれど。そう言えば、「付けちゃ駄目ですか」とそんなことを昔、折原が言っていたことを思い出した。
――そもそも、あの頃は、もっと即物的だった。
情緒なんてものもなかったし、技巧もなかった。それでも、すぐに高まった。折原だったから。
その手が器用に衣服を脱がせていく。慣れているんだな、と責めても仕方がないことを思ってしまった自分に驚いた。そんなこと、言う資格があるはずもない。
「おまえも脱げよ」
感じた視線と気恥ずかしさに、そう促す。じゃあ、と応じて現れた身体に、眼が吸い寄せられる。
「良い身体ですか?」
「うん」
揶揄うような問いに、驚くほど素直な声が出た。あの頃とは違う筋肉。ぜんぶ、今の折原が努力して創り上げた、アスリートの身体。そっと伸ばした指の先が触れる。温かかった。心臓の音がする。
「折原だって思ってた」
意識しないまま、小さな笑みが零れていた。折原の前でそんな風に笑ったのは、もしかすると本当に久しぶりだったかもしれない。
「あんまり、煽るようなことばっかり言わないで下さいよ」
優しい声だった。苦笑じみた吐息と一緒に、触れていた手を取られる。持ち上げられたと思った時には唇の柔らかい感触が指先にあった。
「お、りはら……!」
口内に含まれたそれを柔く噛まれて、腰が引ける。
「恥ずかしい?」
問いかけに、首を振って視線を落とす。どちらかと言うと、視覚的に恥ずかしくて、居た堪れない。
「それとも、感じます?」
それにもまた首を振ると、微かな笑い声とともに指から手が離れる。その指先が胸に触れる。
「じゃあ、こっちは?」
指の腹が胸の突起を押す。慣れない刺激に小さく声が漏れた。
「昼間も言ったような気がしますけど、先輩はちょっと細くなりましたよね」
もう片方の手が、確かめるように腰のラインに触れる。厚いその感触が懐かしくて、けれど、やはり恥ずかしくて、身を捩る。
「今は今で好きですけど」
その声の甘さがたまらなくて、誤魔化すように問いかけた。
「……っ、感じるヤツ、いるの?」
「まぁ、初めてで感じる人はそこまでいないかも知れませんが、男でも性感帯に変わりはないですから」
だから、と刺激を与えながら折原が言う。
「気持ち良くなっても、ちっともおかしくなんてないんですよ」
その声に促されるように身体の芯が揺れる。折原だからだ。その手だからだ。
「ほら」
下肢に伸びてきた手が反応を示し始めていた高ぶりに触れる。
「こっちも反応してる」
「っ……ん……」
衣服の隙間から入り込んできた大きな手が、ゆっくりと揉みしだく。反射的に逃げそうになった身体を押さえつけて、言う。
「気持ちよくなって欲しいだけです」
囁く唇がついでのように目尻に触れる。甘やかされているみたいだ、と思った。
「だから、大丈夫」
抜きあいだったら昔、一度だけした。けれど、違う。まったく、ちがう。
「力、抜いてください」
柔らかく刺激を与えられるたびに、甘い疼きが走る。身じろぎを堪えて息を噛んだ。視線のやり場がなくて目を瞑ると、啄むようなキスが落ちてきた。
「先輩」
その声に抗えるはずもなく、うっすらと目を開ける。滲んだ世界に映ったのは求めていたもので。
あのころから何年も経って、折原が覚えたのが、こんな優しさしかないような甘さなのだろうか。居た堪れなくなるほどの。
先輩、と変わらない声が確かめるように呼んで、また唇に触れる。徐々に深くなっていくそれに意識が向いて、強張りが抜けそうになった途端。
「……――っ」
敏感な裏筋の部分を指の腹で擦られて、身体がぴくりと跳ねた。漏れそうになった声はキスの中に消えていく。止めようとして、寸前で目的を変えた指先が、縋るように二の腕に触れる。
絶頂を押し進める性急な指の動きに、眉間に皺が寄る。生理現象だと言い切るには、繰り返し呼吸を奪われるキスの所為か、頭が白くなるような快感があった。
「ん…………!」
先端を擦る刺激に、身体が震え、それからゆっくりと力が抜ける。
「結構、溜まってました?」
口の端にキスを残して離れていった唇が揶揄うように動く。吐き出されたばかりのそれが絡む指先に、羞恥に顔が赤く染まる。その反応にか吐息のように折原が笑って、耳朶を噛んだ。
「折原……っ」
ぞくりとした感覚に声が揺れる。
「俺は、嬉しいですけど」
弛緩していた身体の最奥に生じた鈍い痛みに、緊張が走った。少しづつ、けれど確実に入り込んでくる指先が内壁をなぞって解そうとする。その先を想像してより一層竦んだ身体を宥めるようにこめかみに唇が当たった。
「先輩が久しぶりなのも」
慣れない異物感から意識を逸らそうと、深く息を吐く。指先は気が付けばずっと折原の腕を握っていて。
「慣れてないのも」
指先の動き方はあくまでゆっくりだったが、堪え切れない違和感に眉間に皺を寄せる。
「今、中指の第一関節くらいまで中に入ってるの、分かります?」
「それ……だけ……?」
自分が感じていた感覚と実態との差異に、思わず顔が上がる。眼があった折原がふっと笑った。
「ちゃんと少しづつ慣らさないと、入らないですよ」
「入ら……っ――!」
奥に入る指の動きに、声が途切れる。初めての感覚に、感情が付いていかない。努めて息を吐き出して、緊張を解こうとするけれど、上手くできているのかは全く分からなかった。
「っ…は……」
やっと少し慣れてきたと一息つきかけたところに、新たな刺激が増える。二本目の指先が浅い箇所を押し広げるように動く。
折原と繋がるための準備をしている。その実感が募っていくにつれ、羞恥がまた上がっていった。
初めて足を踏み入れた家の寝室で、――有体に言えばセックスをしようとしている。
数時間前まで、もう二度と会うことはないだろうと思っていた相手と。
ごく自然な流れでシーツの上に押し倒され、覆いかぶさってきた影と、また何度もキスを重ねる。当たり前の前戯がしている相手が折原だと言うだけで、不思議な感じがする。それなのに、すとんと胸に落ちてくるようにも思えて、それが戸惑いを助長させた。
顔を上げた折原がふっと微笑った。
「先輩って、男としたことってあります?」
「あ、るわけないだろ!」
反射的に叫んでしまってから、ゲイだと公言している相手に、その言い方はまずかっただろうかとも思ったのだけれど、折原は「ですよね」とさらりと受け流して、僅かに考えるように黙った。
「折原?」
「まぁ、なんと言うか、ある意味では自然の摂理には反している行為なわけで」
「……おお」
「勿論、極力、負担は少ないように善処しますが、最初は辛いし痛いとも思いますよ」
「……」
「だから、最後までしないと言う選択肢も今ならなくはないんですけど」
なんでこいつは、要所要所で現実に戻るようなことを淡々と告げてくるのか。と思わなくはない。けれど。
――良いんですよ、先輩が嫌なら、俺はそれで。
静かに笑って告げられた言葉は、俺が言わせたものだと分かっていた。だから批難するつもりは一応、ない。そのつもりだ。いっそのこと流されたいと思うのは簡単で、それを望みたい甘えはあると言えばあるけれど。
「大丈夫」
「そうですか? でも、先輩」
「なんだよ」
心配している、と言うよりは、面白がっている声だ。
「今なら、止めますけど。始めたら、さすがに途中で止めましょうかって言えるほど紳士じゃないですよ、俺」
「――しつこい」
思わず漏れてしまったそれに、折原が笑った。昔、良く見たような顔で。
「そこで逆切れするあたり、先輩らしくて好きですよ、俺」
「悪かったな」
批難する気はないと言い聞かせた直後にこれが出るのだから、我ながらどうしようもない。……けれど。
「いまさら、言わない。俺が決めた。ちゃんと選んだ。だから」
「じゃあ、二人で選んだことにしましょうか」
宥めるような優しい声で落ちて来る。
「ゆっくりで良いです。大丈夫ですから、――でも、怖かったら怖いって言ってくれても良いんですよ」
シャツを捲って入ってくる指先の冷たさに小さく息を呑む。反射だ。それなのに、侵入が止まる。
「止めないって言わなかったか、おまえ」
入り混じり始めた緊張を呑み込んで告げる。
「聞いてみたいだけです、俺が」
「聞いてみたかっただけって」
「だって。怖いって先輩が俺に言うと思ったら、可愛いじゃないですか」
「性質、悪すぎだろ……」
「嫌だな、先輩」
知らなかったんですか、と囁く。暗がりの中でも、見下ろす瞳の色が分かった。優しい。慈しみ。そしてどこか昏い陰り。
「……大丈夫」
応じる声はそれでもやっぱり硬かったのかもしれない。苦笑した気配のあと、降ってきたのは柔らかい口づけだった。
目尻に、頬に、口元に。あやすように落ちて来るそれがくすぐったい。
「先輩」
合間に響く声に、触れられるのと同じくらい、ぞくりと身体の芯が震える。惹かれていると再認するのと同時に取り返しのつかないところに踏み込んでいるとも改めて思えて。
首筋を吸った唇がそのまま肌を伝って降りていく。襟ぐりのあいた隙間から鎖骨に触れ、きつく吸われる。その感覚に小さく身を捩る。
「痕……付けんな」
抗議に、折原が笑って、また同じ個所に押し当てる。走った微かな痛みに、噛まれたことを知った。
「ちょ、折原。俺は、普通に仕事もあるんだって」
「明日はないでしょ? それに普通にしてたら見えませんって」
何かの拍子に見えたらどうしてくれるんだ、と思ったが、藪を突きそうで止めた。
「付けてみたかったんですよね、先輩に」
嫉妬深いんですよ、と軽口のように言いながら、痕を増やしていく。昔は、絶対に痕を残したりなんてしなかった。出来るわけもなかったからだけれど。そう言えば、「付けちゃ駄目ですか」とそんなことを昔、折原が言っていたことを思い出した。
――そもそも、あの頃は、もっと即物的だった。
情緒なんてものもなかったし、技巧もなかった。それでも、すぐに高まった。折原だったから。
その手が器用に衣服を脱がせていく。慣れているんだな、と責めても仕方がないことを思ってしまった自分に驚いた。そんなこと、言う資格があるはずもない。
「おまえも脱げよ」
感じた視線と気恥ずかしさに、そう促す。じゃあ、と応じて現れた身体に、眼が吸い寄せられる。
「良い身体ですか?」
「うん」
揶揄うような問いに、驚くほど素直な声が出た。あの頃とは違う筋肉。ぜんぶ、今の折原が努力して創り上げた、アスリートの身体。そっと伸ばした指の先が触れる。温かかった。心臓の音がする。
「折原だって思ってた」
意識しないまま、小さな笑みが零れていた。折原の前でそんな風に笑ったのは、もしかすると本当に久しぶりだったかもしれない。
「あんまり、煽るようなことばっかり言わないで下さいよ」
優しい声だった。苦笑じみた吐息と一緒に、触れていた手を取られる。持ち上げられたと思った時には唇の柔らかい感触が指先にあった。
「お、りはら……!」
口内に含まれたそれを柔く噛まれて、腰が引ける。
「恥ずかしい?」
問いかけに、首を振って視線を落とす。どちらかと言うと、視覚的に恥ずかしくて、居た堪れない。
「それとも、感じます?」
それにもまた首を振ると、微かな笑い声とともに指から手が離れる。その指先が胸に触れる。
「じゃあ、こっちは?」
指の腹が胸の突起を押す。慣れない刺激に小さく声が漏れた。
「昼間も言ったような気がしますけど、先輩はちょっと細くなりましたよね」
もう片方の手が、確かめるように腰のラインに触れる。厚いその感触が懐かしくて、けれど、やはり恥ずかしくて、身を捩る。
「今は今で好きですけど」
その声の甘さがたまらなくて、誤魔化すように問いかけた。
「……っ、感じるヤツ、いるの?」
「まぁ、初めてで感じる人はそこまでいないかも知れませんが、男でも性感帯に変わりはないですから」
だから、と刺激を与えながら折原が言う。
「気持ち良くなっても、ちっともおかしくなんてないんですよ」
その声に促されるように身体の芯が揺れる。折原だからだ。その手だからだ。
「ほら」
下肢に伸びてきた手が反応を示し始めていた高ぶりに触れる。
「こっちも反応してる」
「っ……ん……」
衣服の隙間から入り込んできた大きな手が、ゆっくりと揉みしだく。反射的に逃げそうになった身体を押さえつけて、言う。
「気持ちよくなって欲しいだけです」
囁く唇がついでのように目尻に触れる。甘やかされているみたいだ、と思った。
「だから、大丈夫」
抜きあいだったら昔、一度だけした。けれど、違う。まったく、ちがう。
「力、抜いてください」
柔らかく刺激を与えられるたびに、甘い疼きが走る。身じろぎを堪えて息を噛んだ。視線のやり場がなくて目を瞑ると、啄むようなキスが落ちてきた。
「先輩」
その声に抗えるはずもなく、うっすらと目を開ける。滲んだ世界に映ったのは求めていたもので。
あのころから何年も経って、折原が覚えたのが、こんな優しさしかないような甘さなのだろうか。居た堪れなくなるほどの。
先輩、と変わらない声が確かめるように呼んで、また唇に触れる。徐々に深くなっていくそれに意識が向いて、強張りが抜けそうになった途端。
「……――っ」
敏感な裏筋の部分を指の腹で擦られて、身体がぴくりと跳ねた。漏れそうになった声はキスの中に消えていく。止めようとして、寸前で目的を変えた指先が、縋るように二の腕に触れる。
絶頂を押し進める性急な指の動きに、眉間に皺が寄る。生理現象だと言い切るには、繰り返し呼吸を奪われるキスの所為か、頭が白くなるような快感があった。
「ん…………!」
先端を擦る刺激に、身体が震え、それからゆっくりと力が抜ける。
「結構、溜まってました?」
口の端にキスを残して離れていった唇が揶揄うように動く。吐き出されたばかりのそれが絡む指先に、羞恥に顔が赤く染まる。その反応にか吐息のように折原が笑って、耳朶を噛んだ。
「折原……っ」
ぞくりとした感覚に声が揺れる。
「俺は、嬉しいですけど」
弛緩していた身体の最奥に生じた鈍い痛みに、緊張が走った。少しづつ、けれど確実に入り込んでくる指先が内壁をなぞって解そうとする。その先を想像してより一層竦んだ身体を宥めるようにこめかみに唇が当たった。
「先輩が久しぶりなのも」
慣れない異物感から意識を逸らそうと、深く息を吐く。指先は気が付けばずっと折原の腕を握っていて。
「慣れてないのも」
指先の動き方はあくまでゆっくりだったが、堪え切れない違和感に眉間に皺を寄せる。
「今、中指の第一関節くらいまで中に入ってるの、分かります?」
「それ……だけ……?」
自分が感じていた感覚と実態との差異に、思わず顔が上がる。眼があった折原がふっと笑った。
「ちゃんと少しづつ慣らさないと、入らないですよ」
「入ら……っ――!」
奥に入る指の動きに、声が途切れる。初めての感覚に、感情が付いていかない。努めて息を吐き出して、緊張を解こうとするけれど、上手くできているのかは全く分からなかった。
「っ…は……」
やっと少し慣れてきたと一息つきかけたところに、新たな刺激が増える。二本目の指先が浅い箇所を押し広げるように動く。
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