運命じゃないエンドロール

木原あざみ

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光の聖女編

12.エピローグ(中編)

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 無邪気で純朴。だが、精霊が視え、意思疎通を行うことがあたりまえであるがゆえに、少々傲慢。一部の令嬢に目の敵にされたことも、ある程度はやむを得まい。突飛な言動を抜きにしても、気に障るものはあっただろう。
 それが、この二ヶ月。光の聖女メイジー・ベルを観察したサイラスの所感だった。だが、ハロルドの相手としてふさわしくないと断じるほどの欠点ではない。
 傲慢さは数十年ぶりに現れた光の聖女と思えば目を瞑ることのできる範囲で、突飛な言動も矯正をすれば済む話だ。なによりも根が善良で、あげつらった欠点を凌駕するだけの魅力がある。

 ――だからこそ参加していただきたいのだが、どうだろうな。

 メイジーの好意は喜ばしいのだが、肝心のハロルドの反応が芳しくないのだ。
 余計なことをするなと言われた手前、彼の前でメイジーの名前を出すような真似はしていない。
 だが、精霊のいたずらの解決に尽力する彼女を助力したときも、彼の弟であるジェラルドが光の聖女に好意を示したときも、彼はひとつの興味も見せなかった。ひとかけらの興味も、当然、妬心も、そうかと言って嫌悪もない、完全なる無関心。
 彼の中で聖女に対する好感度がこれほどまで下がるのであれば、彼を無邪気に追いかけ始めたタイミングで、節度を持つように釘を刺すべきだった。
 その一点を悔みつつ、彼の部屋の扉を叩く。許可を得て入室すると、ハロルドが読んでいた本を机に置いた。こちらに向いた瞳と目が合う。

「なんだ、珍しい」

 自分が夜に訪れることが、ということだろう。控えていたことは事実だったので、サイラスはそっとした笑みを返した。
 学園にいる三年間が、彼の人生において一番に自由の多い時間と承知している。その邪魔をしたいわけではないのだ。
 彼の座るソファに近づき、サイラスは預かった手紙を差し出した。ちらりと目線を動かしたハロルドに、事情を説明する。

「光の聖女から預かりました。入学直後からの度重なる不躾だった言動を後悔していると。台無しにしてしまったパーティーをやり直したいとのことで、三日後に講堂で開催するそうです。時間が合えば、ぜひ、あなたにも参加をしていただきたいと」

 無言で開封したハロルドは、手紙を一読した。目を通し終わったことは明白だったが、彼がなにか言う気配はない。

「光の聖女に非があったことは重々承知しておりますが、あなたと彼女が仲違いをしているという事態はあまり――」
「それで、おまえが世話を焼いてたと?」
「差し出がましい真似とは思いましたが」
「おまえは年々、口ばかりがうまく回るようになる」

 呆れたように唇の端を上げ、ハロルドは机に手紙を置いた。ようやく反応はあったものの、やはり芳しいものではない。だが、無暗に言い募ることも憚られた。
 迷ったものの、サイラスは口を噤んだ。視線は外さず、答えを待つ。目を逸らす行為を彼が嫌っていることは承知していた。

「それはおまえの望みか」
「私の望みです」

 あなたを幸福に導くことが。そのためであれば弟君から幸福を奪ってもいいと思っている。はっきりと応じたサイラスに、ハロルドは小さく頷いた。

「ならばいい。参加しよう」
「ありがとうございます。彼女もきっと喜ぶと」

 それについての返答はなかった。本を手に取り直した彼にもう一度頭を下げ、退室をする。
 光の聖女との距離が正しく縮むきっかけとなればいい。彼のために願いながら夜の廊下を歩いていたサイラスは、ふと窓の外を見とめた。淡い小さな光が、星のように暗闇に浮かんでいる。
 光の海と彼女が呼ぶほどの数が集まれば、それは、きっと、美しいことだろう。
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