運命じゃないエンドロール

木原あざみ

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悪役令嬢編

16.謀(後編)

「はい、なにか」

 第二王子の声を無視するという選択肢はない。席に近寄ると、ジェラルドはにこりとした笑みを浮かべた。彼が座っているという理由だけではあるものの、見下ろす角度が懐かしい。
 今はすっかりと身長が伸びているが、サイラスが宮廷に出入りをしていた当時のジェラルドは、サイラスより頭ひとつは小さく、当然と幼かった。

「いや、実はね。今度、私の誕生日パーティーを宮廷で行うことにしたんだ」
「宮廷で、ですか」
「ああ。彼女が王都のパーティーに出たことがないと言うものだから。ちょうど良い機会だろう」

 ジェラルドが意味深長にメイジーに視線を送る。照れた顔ではにかむメイジーとジェラルドを順に見やり、「そうでしたか」とサイラスは頷いた。
 この学園は来訪は厳しく制限をしているが、生徒の外出は届け出があれば寛容だ。ジェラルドが宮廷でパーティーを開催すると言えば、問題なく外出、外泊の許可は下りることだろう。もっとも、在学中のパーティーは学内での開催を選択する生徒も多いのだが。

「それでね」
「はい」
「招待状は改めて届けさせるが、学園から宮廷までの彼女のエスコートを頼みたいんだ」
「私が、ですか」
「もちろん、きみがだ」

 青い瞳に浮かぶ笑みが、いっそうと深くなる。

「私はイザベラの相手もしないとならないからね」

 学園に在籍していない年下の婚約者の名前を出し、ジェラルドはさらりと続けた。

「エズラもそうだ。だが、きみにそういった相手はいないだろう?」
「それは、たしかに、そのとおりですが」
「随分と渋るね。まさか、兄さまの言うことでないと聞けないとでも? それとも、はじめての王都でのパーティーだという彼女を、ひとりで放り込むつもりか?」
「ジェラルドさま」

 おずおずとした表情でやりとりを窺っていたメイジーが、慌てた様子でジェラルドの名を呼ぶ。だが、ここで中途半端に庇われるほうがよほど面倒だ。ジェラルドが反応を返すよりも早く、サイラスは了承を伝えた。

「メイジーさまがよろしければ、ぜひ」
「え? ええ、それは、私はもちろんかまいませんけれど、ですが」
「気にすることはないよ、メイジー嬢。先ほど言ったとおりで、サイラスに婚約者がいないことは事実だからね。安心するといい」
「まぁ」

 婚約者のいるハロルドを追いかけ回していた過去を揶揄する調子に、メイジーが頬を赤くする。拗ねた顔で「もう、ジェラルドさまったら」と言う彼女を見つめるジェラルドは楽しそうだった。
 これは、長居をするものではない。呆れ半分で判じたサイラスは「詳しいことはまた」と告げることで、テーブルを離れた。
 すぐに再開した楽しそうな会話を背中に感じつつ、寮に向かう道を行く。メイジーは、攻略対象者のひとりはジェラルドなのだと恥ずかしそうに打ち明けた。

 ――オリヴィアの言ではないが、殿下に相手をされないからと言って、ジェラルドさまに走られても困るのだが。

 光の聖女が前世の記憶を持っているというのであれば、ちょうどいい。よほどの悪手を打たない限り、彼女も正当なハッピーエンドを選ぶはず。
 そう踏んで静観を選んだのだが、修正をしたほうがいいのかもしれない。

 ――現実と違っているところですか? そうですね。ゲームだとクラスメイト……、その、あくまでゲーム内の話なのですが、オリヴィアさまにいじめを受けるシナリオもあったのです。ですが、覚悟をしていたようなことはほとんどなにも起きませんでした。

 言葉を選びながら、メイジーはそうも言っていた。

 ――殿下が振ってくださったことで、すべてがゲームどおりにいくわけはないと痛感したのですが、改めて思い返しても、やはりゲームはゲーム。現実とまったく同じということはないのでしょうね。
 ――ですが、安心もしました。こちらもあくまでもゲームの中の話ではあるのですが、私をいじめる過程で、オリヴィアさまが殿下から婚約破棄をされる決定的な行動を取るシナリオが必ずあったので。そうならないというのであれば、とても良いことだと思います。
 ――殿下とオリヴィアさまは仲睦まじいご様子ですので。邪魔をしなくて済んだことに、いまさらながらではありますが、本当にほっとしているんです。

 自分がなにを考えているのか、わかったに違いない。サイラスの胸元でうれしそうに、闇の精霊を宿した魔剣は騒めいた。
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