運命じゃないエンドロール

木原あざみ

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悪役令嬢編

18.夜会(中編)

 ジェラルドの依頼は、あくまでも宮廷までのエスコートだ。帰路も含まれていることは承知しているが、パーティーのあいだは付かず離れずの距離で見守るだけでいい。

 ――彼女が不用意なことをすれば、フォローする必要はあるだろうが。今はかまわないだろう。

 なにせ、一緒にいる相手がジェラルドだ。
 そのジェラルドに乞われたのか、指先に精霊を集めてみせたメイジーに、会場のあちらこちらから感嘆の声が上がっている。
 彼女の指先の動きに合わせ光が浮遊する光景は、いかにも余興という雰囲気だったが、「なにかお返しできるもの」を実行したに過ぎないのかもしれない。
 口々に褒められ照れた笑顔を浮かべるメイジーから、ハロルドに意識を移す。こういった場で彼を視界に留めおくことは、習性のようなものだ。むろん、場慣れをしていないメイジーと違い、彼にフォローが不要であることはわかっているが。
 今夜も当然と彼の隣にはオリヴィアがおり、途切れることのない挨拶にそつなく応対をしている。問題など生じるはずもない姿から、サイラスは再びそっと視線を外した。
 ジェラルドの依頼はあまり受けたくなかったものの、今、彼のそばにいなくて済むことはほんの少しだけありがたい。本心を呑んだまま壁を背に佇んでいると、珍しい声がかかった。

「いや、素晴らしい。あれが光の聖女か」
「閣下」

 王弟であるランスロット大公の登場に、改めて姿勢を正す。長らく言葉を交わす機会もなかった人だったのだが、彼はにこりとほほえんだ。

「光の聖女のおともだとは。いつもはハロルドにくっつき回っているきみが珍しい」
「ジェラルドさまに言いつかりまして」
「ああ、そうか。ジェラルドも今年度から学園に入学したのだったね。良い場所だろう。私もあそこにいた三年間だけは、王族の責務から少し解放された気がするよ」
「そうだったのですね」

 やはり、という思いで素直に頷く。
 学生だった大公はなかなかの遊び人だったと聞いたことがあるので、ハロルドとは随分と違う学生生活を送っていたのだろうが。同じ王族として良き理解者であることに違いはない。

「きみは学内でも変わらずハロルドのそばにいるのだろう?」

 問いかけに「はい」と応じたサイラスの肩に、彼は気安い調子で手を置いた。秘密を耳打ちするように、耳元に唇を寄せて囁く。

「あの子は昔から面白みがないくらい真面目に生きているからね。たまにはきみが羽目を外すよう誘導すればいい」
「羽目を外す、ですか」
「ああ」

 耳元から顔を離し、意味深長に彼は瞳を細めた。

「きみなら意味はわかるだろう? わからないというのなら、教えてもいいが」
「え……」

 自分なら意味がわかるとの本意を捉え損ね、反応に戸惑いがにじむ。
 なんでもすると評判の「悪魔の血」に連なる人間であることへの揶揄であるのならば、問題はない。だが。

「失礼」

 静かに割って入った声に、サイラスは我に返った。

「サイラスがなにか」

 叔父に対するハロルドの表情は柔らかだったが、瞳の奥はまったくもって笑っていない。なにか、とんでもなく気に障ることをしたのかもしれない。内心で青くなったサイラスと裏腹に、大公はなんでもない顔でほほえんだ。

「いや、なに。彼が壁の花になっていることは珍しいからね。それだけだよ」

 きみの話をしていたんだ、と続いた台詞に、はっとして同意を示す。
 事実でしかなかったのだが、文字通りサイラスを一瞥したハロルドは、「そうですか」と淡々とした言葉を大公に返した。
 オリヴィアを置いてまで、いったいどうしたのだろう。困惑したままやりとりを見守っていると、ハロルドがもう一度ちらりとこちらを見た。
 そうして、そのまま、サイラスが着いてくると確信した態度で歩き始める。大公に一礼を残し、サイラスは慌ててその背中を追った。
 廊下に出る直前。来客に囲まれているメイジーと、エズラと話し込むオリヴィアの姿を確認し、軽く眉を寄せる。だが、この状態で前を行く背中より優先するものはない。

「殿下」

 前を行く背中に、たまらず声をかける。返事はなかったものの、彼は控室のひとつの扉を開けた。扉が閉まる気配がないことに安堵して、続けて入室をする。と、思いのほか近くにいた彼が扉を閉めた。
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