結婚してみませんか?

春野いろ

文字の大きさ
10 / 22
結婚してみますか?

ストーリー10

しおりを挟む
ピンポーン……

 呼び鈴を鳴らすとインターホン越しに『どうぞ』と母の声がしたので、合鍵を使って部屋の中へ入る。

「……想定外の人物だわ」

 リビングへ行くと、母がソファーに足を組んで座っていた。そして、相沢さんを見て呟く。

「どうも編集長……いやお義母様。本日はお時間を頂きありがとうございます」

 相沢さんは深々と丁寧にお辞儀をする。

「知ってると思うけど、相沢 智章さんです」

 私は取り敢えず紹介する。

「えぇ、よく知ってるわ。まさか恋の結婚相手が相沢あんたとは……」

 母はソファーから立ち上がり、私と相沢さんの前に来た。何だか母と相沢さんは戦闘態勢に入ったように見える。

「ねぇ、いつ恋と知り合ったのかしら?」

「……数ヶ月前くらいですかね」

「知り合って数ヶ月? それならまだ結婚は早いんじゃないかしら?」

「確かに早いかもしれませんが、恋ちゃんとずっと一緒に居たいと思いました。俺の結婚相手は恋ちゃんしか考えられないです」

「まさか、恋が私の娘って知って手を出したんじゃないわよね?」

「いやだなぁ。出会った時は恋ちゃんのお母様が編集長とは思いもよらなかったし、それに……まだ恋ちゃんに手は出してないですよ」

「手を出す意味が違うしそんな生々しい報告は要らんわ! っていうか今後一切、私の可愛い娘に指一本触れるなぁ」

「そんな無理っす。どうやって子供作るんですか?」

「コウノトリに運んでもらいなさい!」

 ……。

 何か話がずれてきているのは気のせい? もしかして、会社でも二人はこんな感じなのかな。

 子供の喧嘩みたいにぎゃーぎゃー言い合っている。

 取り敢えず、話に入れない私は勝手にキッチンを借りて三人分のお茶を入れた。

「お茶入れたから、飲みましょう」

 私が二人に声をかけると、子供の喧嘩みたいなやりとりはピタッと終わり、ソファーに座ってお茶を飲み始める。

 お茶を飲んで落ち着いたのか、母は今度は私に質問してきた。

「ねぇ恋。今まで恋愛に興味なかったあなたが、何で急に結婚しようと思ったの?」

「相……智章さんの事、いいなと思ったから。結婚は急かも知れないけど、私にしては珍しくちゃんと考えて決めたし、後悔もしない」

 母の前だから名前呼びにしたけど、結構恥ずかしいな。

「……まぁいっか。相沢にも恋にも聞きたい事も言いたい事も山程あるけど、二人がちゃんと話して決めたのなら何も言わないわ」

 母は大きなため息をしてそう言うと、お茶を一口飲んだ。

「結婚、認めてもらえるんですか?」

 相沢さんはソファーから勢いよく立ち上がり、母の顔をジッと見る。

「えぇ。でもね、相沢。恋の事100%幸せにする自信がないのなら……結婚は諦めなさい」

「それなら大丈夫です。100%どころか1000%自信がありますよ」

「何処からそんな自信が湧いてくるのかしら。仕事にもそのくらい自信が欲しいわね」

「うわっ仕事の話はまた今度にして下さい」

 苦笑しながら相沢さんはまたソファーに座った。

 何はともあれ、結婚の承諾を得た私達はひとまず安心する。

 この後も三人で色々話をして、この日は終わった。

「会社に結婚の報告しなきゃ」

 母に結婚を認めてもらい、今度は次の行動に移る。結婚ってするまでも大変なんだな。面倒くさいとか言ってられない。

 いつもの地味子スタイルで出社すると、まずは詩織に声をかける。

「おはよう。あのさ、話あるんだけど……」

「おはよう、恋ちゃん。話って何?」

「あ、えっと……」

 何だか変に緊張して言葉を詰まらせてしまった。話づらそうにしている私を見た詩織はコロコロのついた椅子で私に近づき、コソッと小声で話をする。

「ここじゃ言い難い感じ? 場所変える?」

「そんなに大した話じゃないから。えっと、私……結婚する事になりました」

 詩織に合わせて私も小声で話す。すると、詩織は勢い良く立ち上がって驚いたような表情になった。

「結婚!? えっ……恋ちゃんが?」

 詩織の声はフロア中に響き渡り、他の社員達も一斉に私と詩織を見てきた。

「詩織、声大きいから」

「あっ」

 状況を把握した詩織は、軽く咳払いをして椅子に座る。

「大した事ないって、大した事しかない話だよ。でも恋ちゃん、彼氏いるの秘密にするなんて寂しいじゃない。色々と恋話こいばなしたかったのに~」

「まぁ詳しい話は後で話すから」

「じゃあさ、今日お祝いしよう」

 詩織はお酒を飲む仕草をして、にっこりしながら私の返事を待つ。

「了解。さっ仕事しましょう」

「はぁい……あっ、大事な事言うの忘れてた」

「何?」

「恋ちゃん、結婚おめでとう」

「ありがとう」

 改めておめでとうと言われ、照れからか少しくすぐったい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...