明日は明日の恋をする

春野いろ

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私の選んだ道

ストーリー39

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その日の夜 ーー

 今日も進藤さんは帰りが遅くなるらしい。私は部屋のベッドに転がり、携帯で賃貸物件を検索した。

ピリリリリ……

ピリリリリ……
 
 スマートフォンを触っていると突然鳴り出し私はビクッとする。着信は……高瀬さんだ。こんな時間に何だろう。

「もしもし」

「もしもし、ナオ君で~す」

「もしかして……酔ってます?」

「あはは、今日高校時代の仲間と飲んでたんだけど、ちょっと飲みすぎちゃってさぁ。ケイスケも一緒だったんだけど、アイツは酒弱いくせに珍しくガンガン飲んでたから、ていうか飲ませちゃったから、めっちゃ酔っ払ってると思う。悪いけど介抱してあげてね。あはは、じゃあおやすみ」

「あははって分かりました。おやすみなさい」

 高瀬さん、テンション高っ。今日は高瀬さん達と飲み会に行ってたのか。そろそろ帰ってくるならお水を用意しておこう。

ーー ガチャ

 玄関から音が聞こえる。進藤さんが帰ってきたみたい。

「おかえりなさい」

「起きてたのか……悪い、少し肩を貸してくれないか」

「大丈夫ですか?」

 私は進藤さんを支えながらリビングまで行く。そして進藤さんはそのままソファーに転がった。相当飲んで……いや飲まされてきたな、これは。

「お水、置いておきますね」

 水をソファーの前にあるテーブルにそっと置く。そして、自分の部屋に戻ろうとした時、進藤さんがソファーに転がったまま話しかけてきた。

「……仕事、辞めるのか?」

「えっ?」

 何でその事を……あっ、さては高瀬さんが求人誌を見てた事を進藤さんに話したな。私の頭の中には小悪魔的な笑顔をしてる高瀬さんの姿が浮かんできた。

「高瀬さんに聞いたんですか?」

「あぁ。コンビニで求人誌読んでたんだろう?」

「美玲さんとの結婚が決まったなら、ここを出て仕事と新居を探さなきゃって思って」

「俺の結婚はまだだが、ナオトのマンションに引っ越しするのか?」

 結婚はまだ? 美玲さんとの結婚話に進展があった訳じゃないんだ。それより何故ここで高瀬さんの名前が出てくる?

「何で高瀬さんのマンションへ?」

「ナオトと付き合ってるんだろ? 告白したって聞いたぞ」

「告白はされましたけど……付き合ってません」

「………」

「………」

 なんか話がかみ合わない。そして会話は途切れ、少しの間沈黙が続く。

 進藤さん、私と高瀬さんが付き合ってると思ってたんだ。もしかして少し態度が変に感じたのは、付き合ってると思って気を使ってたのだろうか。

「あー、面倒くせぇ」

 進藤さんは起き上がり、前髪に手を当て深いため息をついた。そして力強い視線を真っ直ぐに私に向ける。

「会社もお嬢様も社長という立場も……今、俺が背負っているもの全て放り投げて考えてみると簡単に分かるものだな」

「何が……ですか?」

 力強い視線だった進藤さんが、不意に笑みを浮かべる。その表情は何かを吹っ切ったような感じだ。

「一度だけ言わせてくれ。最初で最後の本音を……。俺は明日香の事が好きだ」

「え?」

 思いがけない告白に私の思考が停止する。

 好き?

 進藤さんが私の事を?

 真っ直ぐ見つめてくる進藤さんの目は、とても冗談を言ってるようには見えない。

 なら、私も今だけ……本音を出そう。

「せっかくココから……進藤さんから離れる決心をしたのに、今そんな事言われたら私……」

 私は進藤さんを睨みつけるように見ながら、大きめの独り言を言う。そして進藤さんの前まで行き、私から強引にキスをした。

「……お酒の味」

 少しだけ唇を離し呟いた。

「いい酒を飲んできたから美味いだろ?」

 進藤さんは強引にキスをした私に呆気を取られていたが、ニィっと笑みを浮かべ私の呟きに反応する。

「……んっ……美味しい」

 そして私はお酒の味を確認するかのようにしばらく唇を重ねた。

「明日からはまた…色んな責任ものを背負った進藤さんに戻るんですね」

「あぁ」

「私は例えこの先別れなきゃいけない事が分かっていても、アナタが私を必要としてくれるのなら……少しでも側に居たいです……好きだから」

 やっと言えた本音。

 本当は早く進藤さんから離れた方がいいのは分かっている。進藤さんには美玲さんという婚約者がいるし、何より一緒にいると無限に恋心が膨らんでいく。

 それでも私は、私の事を好きと言ってくれた進藤さんとの時間が欲しかった。この先必ず訪れる別れがどんなに辛くとも……

 ふわっ

 進藤さんが目の前にいる私をそっと抱きしめる。そして私の耳元で囁くように言った。

「俺は最低の男だ。明日香を幸せに出来ないのが分かってるのに……それでも側に居て欲しいと思っている」

「最低なのはお互い様です。私も美玲さんがいるのが分かってるのに……側に居たいと思ってます」

 お互い顔を見合わせてクスッと笑う。

「想像以上に辛いぞ、多分。いいのか?」

「平気……じゃないかもしれませんが、今日が良ければ全て良し。明日の事は明日考えます」

「ポジティブだな」

 笑顔でキスをして……始まりの鐘が鳴った。

『期間限定、秘密の恋人』

 つくづく自分の馬鹿さに呆れてしまう。別れるのが分かってて付き合うなんて。人を本気で好きになるって怖いかも。

 でもこれが私の選んだ道だった。
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