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主任×私×熱

ストーリー6

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「……なんていきなり言われても困るよね。でも本気だから俺との事考えてくれると嬉しいな」

「……は、はい」

 それから私は一人で家に帰る。高成さんは家まで送ると言ってくれたけど一人になりたかったし、タクシーで帰るから大丈夫ですと断った。

 家の近くでタクシーを降りて、少し公園に立ち寄る。薄暗い外灯に照らされたベンチに座ろうかと思ったけど、何となくブランコのところへ行った。

 高成さんに告白されて私は混乱していた。ブランコに乗って揺れながら、自分の気持ちを整理してみる。

 高成さんから告白された。私にとって待望の彼氏……何も考えることないじゃない。告白を受けて付き合っちゃえばいいじゃない。今日だって楽しかったし。

 なのに、私は何に悩んでいるの?

 分からない…分からないけど……なんか今、凄く主任に会いたい。

 気がつくと私はスマートフォンを手に持って主任に電話をかけていた。

「もしもし赤崎? どうした?」

 主任は私からの電話に不思議そうにしている。

「主任……ただいま」

「ただいまって、家の中か?」

「残念。まだ家の前の公園でした」

 私、何言ってるんだろう。こんな事しても主任は困るだけなのに。

 何故かしばらく沈黙が続く。呆れちゃったかな。下を向いたままため息をつく。

「赤崎」

 名前を呼ばれて顔を上げると、私の前にスマートフォンを片手に持った主任がいた。走ってきたのか、切らした呼吸を整えている。

「高成と何かあったのか?」

 主任は心配そうな表情で私に話しかける。

「何も……ないですよ? 今日は楽しかったし」

「とにかく風邪引くから部屋で話そう」

 そう言ってブランコに座る私に手を差し出してきた。その手に私は自分の手を乗せる。

「手、冷たくなってるじゃないか。早く行くぞ」

 私達は手をぎゅっと繋いでマンションに戻る。恥ずかしかったけど、繋いだ手に心地良さを感じていた。

 そしてそのまま主任の部屋に入ると、主任は温かいお茶を入れてくれた。

「ありがとうございます」

 私は床にペタンと座りお茶を飲む。温かいお茶が体の中をすうっと通っているのが分かった。

「私……高成さんに告白されました」

 お茶を飲んで少し酔いも落ち着いた私は、俯き加減でゆっくり話を始めた。

「告白? 良かったじゃないか。高成は性格もいい男だぞ」

「いい人ですよね、高成さん。私には勿体ないくらい。告白されて嬉しいはずなのに……私、返事が出来なかったんです」

「何で?」

「そんなの分かりません。でも高成さんから見た私のイメージって、本当の私と全然違うんですよ」

「確かに会社での赤崎しか知らなかったら、俺も外見から可愛らしい癒し系なイメージを持ったかもしれない。でも高成はどんな赤崎でもちゃんと受け止めてくれると思うぞ」

 そう言いながら主任は微笑んでくれた。干物系女子の私を受け止めてくれるのかな……いや、ドン引きされる姿しか想像できない。

「でも、ちゃんと相手の事を考える赤崎は偉いよな」

 主任はテーブル越しに私の頭をポンっとした。その拍子に何故だか分からないけど、私の目からは涙が流れ始める。

「えっやだ、何で涙が……」

 自分でも訳が分からず驚きながら手の甲で涙を拭う。

 すると主任は立ち上がり、私の隣に来た。そして私をふわっと抱きしめる。

「よく分からないけど、泣きたい時は泣いた方がいいと思う。泣き顔は見ないようにするから……とりあえず泣いとけ」

 抱きしめながら私の耳元で囁くように言った。私は言葉に甘え、しばらく主任の胸を借りた。

 抱きしめられてどの位の時間が経っただろう。私の涙は止まったけど、主任から離れるタイミングが分からない。

 どうしよう。冷静になると、なんかめっちゃ恥ずかしい。主任、今どんな顔しているのかな。私は顔を赤くさせながら主任の胸に顔をうずめる。

「あ、赤崎……そろそろ落ち着いたか?」

 主任が声をかけてきて、私は慌てて主任からパッと離れた。

「ご、ごめんなさい。私……」

「い、いや全然いいんだ。むしろ勝手に抱きしめてしまって悪かった」

 そう言いながら二人ともお互いから視線を逸らし少し沈黙する。恥ずかしくてあまり顔は見れなかったけど、主任も顔が赤くなっていた気がした。

「今日は本当にごめんなさい。私帰りますね。おやすみなさい」

 私はパッと立ち上がりペコっと頭を下げて、逃げるように自分の部屋に戻った。

 自分の部屋に戻った私は、靴も脱がずに玄関のドアにもたれかかる。

 私、何を思った?

 涙の理由……

 高成さんは会社での私に好意を持ってくれた。本当の私は知らない。こんな私を高成さんに知られるのが怖い?

 ……なんか違う。

 もしかして、主任が私と高成さんが上手くいけばいいと思っているから?

 いやいや違う……違うと思いたい。

 もう何で私の頭の中にこんなに主任が出てくるんだろう。私は自分自身に若干キレ気味になった。

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