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「第十一話 東京決死線 ~凶魔の右手~」
49章
しおりを挟む「・・・ただ殺すだけではつまらんな」
見下ろす濃紺のひとつ眼に異質な光が宿るとみるや、鋭利な凶魔の肉体がサクラとは反対方向に振り返る。
伸ばした右腕が定める照準の先――円筒型の高層ビル、渋谷109。
無慈悲な悪魔の意図を悟って、109に寄り添っていた少女たちの一団から、引き攣った悲鳴が闇夜に迸る。
109が崩壊すれば、降り注ぐ瓦礫で自分たちの命もまた露と消えるのはわかり過ぎるほど明白であった。不意に訪れた死の宣告。祈りも願いも、少女たちにできることはなにひとつ通じはしない。
「なにもできない無様な己を悔やめ、サクラ。小娘どもの死に様を眺めながら、な」
守護天使を徹底的に破滅に追いやるには、死すら生温い。
守れない、弱さを思い知らせる。誇りと使命をズタズタに切り裂き、精神から壊滅させる。
なんの躊躇いもない暗黒の光線が、渋谷を象徴する建築物へと一直線に放たれる。
バシャアアアアアッッッ!!!
直撃。跳ね返る、闇エネルギーの飛沫。
死を覚悟した少女たちの絶叫が、その瞬間、沈黙へと変化した。
「・・・ほう」
純粋な感嘆の呟きが、ダイヤモンドを思わす顔から洩れ出ていた。
大の字で立ち塞がる、ファントムガール・サクラ。
漆黒の魔光線が着弾したのは高層ビルではなく、聖女神の胸の中央、青いクリスタル。
テレポートで瞬間移動したエスパー天使は、庇い続けた自身最大の弱点を晒してまでゲドゥーの凶行をその身で受け止めていた。
「・・・あッ・・・かふッ・・・・・・んァッ・・・・・・」
手足を大きく広げたままのサクラが、ゆっくりと己の生命の象徴を見下ろす。
・・・ヴぃッ・・・・・・ヴィヴッ・・・・・・ンヴィッ・・・・・・
もはやまともに点滅できなくなったエナジー・クリスタルが悲鳴にも似た不規則な音色を奏でるのを、桃色天使はただ呆然と眺めているかのようだった。
見事。死の一歩手前まで追い詰められながら、それでも見も知らぬ少女たちを救うために身を盾にした気力のなんと見事なことか。
しかし、結果的に生命エネルギーが集中したクリスタルに直撃を喰らうとは、あまりにも愚か。
致命的、ともいえる一撃を浴びたサクラに、終焉以外の選択肢は残されていそうになかった。
「まだ力を残していたとはな。だがそのしぶとさもいよいよ」
最期―――
言い掛けた、ゲドゥーの台詞が凍える。
・・・・・・ドクン・・・―――
・・・里美、さん・・・・・・
あたし、やっぱ、どっかで勘違いしてたかもォ・・・
ごめんなさい。やっぱり・・・やっぱり、自分が犠牲になればって・・・多分、思ってた。
超能力なんておかしなチカラ持った人間は・・・そんな運命だなんて、自分で決めちゃってた。
違うんだよね。このひとにムチャクチャにやられてもォ・・・『デス』出来なかったもん。
あたしが死んだって・・・このひとからみんなを守れないんだもん。
ベストを尽くすのが、自分の身を捧げることだって、ずっと間違えたままだった。
『カワイイあなたに怒りは似合わない! サクラが闘う理由を思い返して!』
夕子ォ、あのときあなたに言われた言葉、あたしをずっと支えているよ。
でも、ダメだよね、あたし。カンジンなときに忘れちゃってたよ。
怒りだったり・・・憎しみだったり・・・じゃ、ダメなんだよね。
みんなを守りたい。
だから、あたし、闘ってるんだった。
神様がくれた超能力を、そのために使ってるんだった。
憎いからじゃない。
みんなを、あの女のコたちを守りたいから・・・・・・
あたしはこのひとを、倒す。
・・・・・・ドクンッ・・・ドクンッ・・・ドクンッ・・・―――
凶魔のひとつ眼に灯る、驚愕と脅威。
腕の形をした暗黒色の光が、白の甲冑を擦り抜け、縄状に編まれた胸筋を擦り抜け、ゲドゥーの心臓をむんずと鷲掴みにしている。
『最凶の右手』を戦慄させる、死を呼ぶサイコの右腕―――
この小娘ッッ・・・この期に及んで、最強の必殺技を発動させやがったッッ!!!
「・・・“デス”ッッッ!!!」
ぐっしゃああああああッッッ!!!!
衝撃波が、闇に眠る渋谷の街を揺さぶった。
血飛沫が、舞う。紅の霧雨が巨大な女神と凶魔の周囲に蕭蕭と降り注ぐ。
魂ごと削がれる暴虐を受けても、踏み躙られるような姦辱に晒されても、殺意を抱けなかった優しき戦乙女がついに炸裂させた偽りなき必殺技。
『デス』の漆黒の右腕は、凶魔ゲドゥーの心臓を握り潰していた。
・・・ごぶゥッッ・・・!!
菱形の頭部にないはずの口から、逆流した鮮血が霧となって噴き出る。
邪悪な極道の化身が、初めて流す赤い血潮であった。
「・・・やはり・・・超能力を操るお前は・・・・・・もっとも警戒すべき獲物、だったようだ」
じっと真正面から、可憐と綺麗を兼ね備えた美少女のマスクがひとつ眼を見詰める。
魅惑的な瞳に凛と輝く玲瓏たる光は、アイドル戦士の範疇を逸脱した厳しさと美しさであった。
「褒めてやろう、ファントムガール・サクラ。このオレをここまで追い込んだのは・・・お前が、初めてだ」
小刻みに震える美貌が、ゆっくりと視線を己の、少女らしい丸みを帯びた肢体へと下ろす。
一息にサクラの懐に飛び込んだ凶魔の右腕は、桃色天使の鳩尾を貫き、真紅に染まって背中から突き抜けていた。
「・・・・・・ッんハァッ・・・んくッ・・・・・・ひゅゥッ・・・・・・」
「切り札を切るには、お前は消耗し過ぎた。もう少し力が残っていれば、このゲドゥーの心臓を止められたかも知れんな」
白甲冑を纏った藁人形が走る。愛らしい銀の女神を、右腕に串刺したまま。
渋谷109の最上部へ――コンクリートの鉄柱と化したファッションビルに、加速をつけたサクラの背中と後頭部が鈍い響きを伴って容赦なく叩きつけられる。
ブンッッ・・・身体の中央から下を紅に濡らした女神の視界は、その瞬間から三重にぼやけた。
あとコンマ数秒。あとひと欠片のエネルギーがあれば。
サクラの『デス』は殺意の権化とも言うべき凶魔を倒していたかもしれない。絶望的な闘いに勝利することができたかもしれない。
ゲドゥーの心臓に致命的ダメージを与えるより一瞬速く、『最凶の右手』は哀れな聖天使を貫いた。
ファントムガール・サクラ最期の反撃が、潰えた瞬間であった。
「改めて言おう! いい女だった、サクラ! お前のような強者を葬るこの喜びッ!! この快感ッッ!! 感謝するぞッ、ファントムガールッ!!」
ゴキンッッ!! ボギイッッ!!
半ばまで109に埋まった少女戦士、その右腕を無造作に掴んだ凶魔が二度逆にへし折る。
有り得ない方向に折れ曲がった華奢な少女の腕は、背後の円筒ビルの側面に深々と突き入れられた。
左の腕も。ふたつの脚も。
砕かれ、折られた無惨な四肢が、渋谷109に差し込まれ、エスパー天使の肢体を後ろ手後ろ足に拘束する。
流行の先端を象徴し、若き乙女たちで賑わう華やかなビルは、現代を代表するようなイマドキ美少女をくくりつけた、残酷な処刑台へと変わり果てた。
「フハハハハハ! よく脳に刻んでおけ、ファントムガールの死に様をッ! 無力な小娘の哀れな末路を、未来永劫語り継ぐがいい」
円筒ビルの背後に凶魔が回る。伸びた2本の腕が、無防備な乙女の胸の膨らみを圧搾して握り潰す。
ビクンッッと硬直する清純な少女のバストに、もはや苦痛でしかない悦楽の桃色光線が乳房も蕩けろとばかりに注ぎ込まれる。
「げえふううぅゥッッ!!! あふうううッッ~~~ッッ!! へぶああああッッ―――ッッッ!!!」
「生命力の枯渇した肉体に強引に刷り込まれる官能の暴威・・・快感のセンサーを直接摩擦されているようだろう? すでに破壊され尽くした未熟な乳房への、トドメの一撃。お前の性の中枢は完全に崩壊した」
ヴィヴィヴィッッ、ヴィヴィッッ、ヴィヴィヴィヴィヴィヴィッッッ―――ッッ!!!!
狂ったように金切り音を放つ、下腹部のクリスタル。
巨大ビルに固定された女神が、なんの抵抗もできずに悪魔の愛撫を甘受する。揉みしだかれる小ぶりな果肉。歪み、蕩けた美貌と雌獣のごとき嬌声。瀕死の少女が、人類を守る守護天使が、菱形の悪魔に嬲られ絶句する人々の面前でよがり狂う。
コチコチに尖り切ったふたつの胸の頂点を摘み折られた瞬間、大股開きに固体された股間のクレヴァスから滝のような愛蜜が、白痴の表情で惨劇を見守るしかない少女たちの頭上に降り注いだ。
「闘う力は失ったくせに、欲情に溺れ悶え踊るか! なんとも無様な色情狂だな、サクラ!」
昂ぶりの滴りを放出し終えた美少女のマスクが、なにかの糸が途切れたようにガクリとうな垂れる。
巨大な暴虐に屈服したようなその姿が、ファントムガール・サクラ処刑執行の合図となった。
風を巻いたゲドゥーの鋭利な姿は、瞬く間に磔少女の目の前に現れていた。
虚空を見詰める桃色天使の胸の中央。生命の象徴エナジー・クリスタル。
『最凶の右手』がなだらかな丘陵の谷間に埋まった水晶体を、抉り取るように鷲掴む。
「ファントム破壊光線・・・クリスタル・クラッシュッ!!」
ドギャギャギャギャギャギャッッッ!!!!
光のエナジーを吹き蹴散らす、超高密度な暗黒の砲撃。
サクラの全身を包んで余りある膨大な死滅の闇が、右手一本に凝縮されて女神の命の象徴を抉り穿つ。
「きゃはあアうッッッ!!!!」
ヴィンッッッ!!!
ピッシィィッッ・・・!!!
一際大きな警告音と、クリスタルに亀裂が走る響きとが重なる。
五体も臓腑もバラバラにされるような煉獄のなかで、サクラ=桜宮桃子の脳裏によぎったのは、心底から超能力少女を迎えてくれた仲間たちの顔だった。
「終わりだ、サクラ」
ギャギャギャッッッ!!!! ババババババババッッッ―――ッッッ!!!!
シュウシュウと青い光が洩れ出る水晶体、その亀裂が入った内部に、光を滅ぼす邪悪光線が弩流となって撃ち込まれる。
「アアァァアアアアァアッッッ―――――ッッッ!!!!・・・・・・」
渋谷109に固定された女神の肢体が、爆発したかのようだった。
漆黒の闇が、内側から銀と桃色の皮膚を突き破って暴発する。腕で、胸で、背中で、腹部で。あらゆる箇所で。
それは、巨大すぎる地獄の魔獣が、聖なる少女を食い破っている姿であった。
・・・・・・み、んなァァ・・・・・・あ、あたしィ・・・・・・・・・
「おっと。キレイな死に方などさせんぞ」
絶命の間際、ゲドゥーの暗黒光線はその照射を途絶えていた。
もはや助かりはしないのに。放置しておいても、超能力少女は死を迎えるしかないというのに。
ただサクラの尊厳をグチャグチャに踏み潰すためだけに、事実上守護天使を屠った処刑光線は中断された。
「お前は惨めに、雌犬のように無様に死ぬのだ。戦士としての死など許さん。娼婦のごとく愉悦に溺れ、よがり狂って死ぬがいい」
ヒビだらけの水晶体から離れた『最凶の右手』が、いまだビリビリと鳴り続ける下腹部のクリスタルに当てられる。
執拗に胸に浴び続けた愉悦光線によって、すでに少女の子宮の昂ぶりは臨界点を遥かに越えてしまっていた。
水晶のガードなどまるで無意味なまでに、性感の局地たる本性を露わにした、子宮クリスタル。
撫でられるだけで昇天しそうな敏感な聖地に、女芯を蕩けさせるピンクの魔光が照射される。
「ッッんんああああアアアアァァアアァアアアッッッ―――ッッッッ!!!!」
・・・ビクンッッッッ!!!!
美少女戦士の肢体が大きく仰け反る。一度。
ケモノの絶叫を轟かせ、硬直したサクラの秘裂から、鮮血混じりの愛液が迸る。
それはまさに、優しき超能力天使にこびりついていた、最期の命の残滓であった。
・・・・・・みんな・・・・・・ごめん・・・・・・ね・・・・・・
・・・・・・あ・・・たし・・・・・・は・・・・・・虫けら・・・みたい、に・・・・・・
・・・・・・殺・・・・・・さ・・・・・・れ・・・・・・たァ・・・・・・・・・
「トドメだ」
死人同然の聖天使は、強制的に絶頂に導かれ、残る全ての生命エネルギーを搾り尽くされた。
ゲドゥーが用意したファントムガール・サクラの処刑法。
それは陵辱の果て、魔悦に溺れながらの悶絶死。
「ふぇぶううゥッッッ!!!!・・・・・・・――――」
強さを増したピンクの魔光が再度下腹部のクリスタルを穿った瞬間、断末魔の喘ぎとともに大量の涎が美少女の唇から溢れ出る。
全ての糸が途切れたように。
渋谷109に掲げられた桃色天使の全身から、あらゆる力は抜け落ちた。
ヴィィィィッッ―――ッッ・・・・・・ッッ・・・・・・ッ・・・・・・
鳴り響く下腹部のクリスタルの音色と震動が徐々に小さく、消えていく。
沈黙が瓦礫と化した街に訪れた時、巨大な杭のごとき円筒ビルに磔にされたものは、残酷な処刑に散った愛らしき守護天使の屍であった。
「絶命したか。だが念には念を入れておこう」
瞳にもエナジー・クリスタルにも、サクラに灯る光は皆無であった。
血と泥と精液で赤黒く汚れた、美乙女の惨死体。
確実に死滅した少女戦士の無防備な肉体に、ゲドゥーの右手は更なる蹂躙を加えた。
ドシュッッ!! ズボオオッッ!! ドボオオッッ!!
右胸を抉る。左乳房を突き刺す。臍の中央を穿つ。
109に晒された孔だらけの天使の亡骸は、ピクリとも反応することはなかった。
「さらばだ、ファントムガール・サクラ」
感情のこもらぬ台詞を残し、凶魔ゲドゥーが天使処刑の大地から消え失せる。
暗雲垂れ込む闇の空、染み渡るように広がったすすり泣きの渋谷に残されたものは、悪魔の処刑に惨殺された哀れな聖少女と、正義の敗北を知らせる109のオブジェであった。
凶魔ゲドゥーの一方的な嗜虐の前に。
超能力少女・桜宮桃子=銀と桃色の守護天使ファントムガール・サクラは、首都東京の地にて―――
惨死した。
【ファントムガール第十一話 東京決死線 ~凶魔の右手~ 了 】
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