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ミラという女の子
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私の【番】は とても愛らしい。
名前は「ミラ」。
長く淡い銀紫の髪は、真っ直ぐで、サラサラとその華奢な背中を覆い。
私と同じアクアマリンの瞳は、理知的で、落ち着いた雰囲気をかもし出している。
白い肌は、白磁のように滑らかで、シミ1つ、そばかす一つも見あたらない。
薄い桃色の頬。
ぷっくりと艶のあるサクランボの唇が紡ぎ出す声は、鈴を転がすように耳に優しく響き、5才とは思えぬ程の魔力を持ち合わせていた。
彼女の両親であるロベルトとハンナに娘に近づくなと追い払われ、私は毎日泣きながら執務をこなしていた。
こんなに傷ついているのに、仕事は待ってくれない。
あの運命の出会いから一週間、ロベルトは彼女を王宮に連れて来てくれないし、私がロベルトの屋敷を訪ねる事も、側近達に阻まれている。
彼女に会いたくて、
会いたくて、
会いたくて···
もう、気が狂いそうだった。
竜人である私の側近達は、【番】を見つけた竜人がどうなるのかなんてとっくに理解しているはず。
そろそろ私の我慢の限界が近づいている事を察して、なんとかロベルトとハンナを説得しようと、動いてくれているようだ。
私が表立って、行動を起こさないよう自制しているのは「ミラ」の事となれば、理性を失い、どんな事態になるか想像出来ないからだ。
私も暴走してしまう自覚はある。
だから、今は我慢している。
きっと、側近達が良いようにしてくれるはず。
それを信じて、私は今、毎日を忍耐の一字を飲み込み、頑張って仕事をしているのだ。
早くミラに会いたい。
そして、更に一週間がたった。
私の顔色は青黒く、目は落ち込んで、目の下には真っ黒なクマができ、髪はぱさついて、枝毛だらけ、めくれば小さな円形のハゲが3つも出来ていた。
もう 限界だ!
このままでは、私は 死んでしまうかもしれない。
ミラ···私の愛しい【番】ーーーーー
会いたいーーー
会いたいーーー
会いたいーーー
気付けば、予算報告書にサインの代わりに、「会いたい」と書き込んでしまった。
その時だった。
私の胸が「ドクン!」と跳ねた。
「ミラ!」
そう感じた瞬間、私は竜形となり、執務室の窓を割って、空に飛んだ。
突然の私の奇行に、部屋にいたものたちは、とても驚いていたけれど、私は もうそれどころではない。
窓から飛び出した私は、すぐさま、ミラのいる王宮門まで飛んで行っていた。
「ミラ!!」
想いを込めて、彼女の名を呼ぶ。
そこには、父ロベルトに抱っこされたミラが、ものすごく驚いた顔をして、私の方を見ていた。
竜形を解いた私は、すぐにミラの元へ向かった。
「会いたかった」
私はロベルトから奪うようにミラを抱きしめ、その小さな身体を、私の胸に囲い込んだ。
「あぁ···ミラ···ミラ···ミラ···会いたかった。」
私の抱擁を嫌がるように、ミラは、その小さな手を、私の胸に突っぱるように伸ばし、私から逃れようとする。
「父様ーーーー」
そう言って、大きくのけぞって、父ロベルトに救いを求める。
(どうして?君は私の【番】なのに···私のものなのに···)
「ミラ、そんなにのけぞったら落ちてしまうよ。お願いだから、じっとしておくれ···」
私はとっても悲しそうな表情でミラを見つめた。
(あぁどうか お願いだから 私を嫌いにならないで···)
そう考えた瞬間、私の胸の内が悲しみで満たされ、私の瞳から涙が溢れた。
「お···王様?」
壊れた蛇口のように ダラダラと涙を流す私を 間近で見たミラは、驚いてのけぞっていた身体を起こし、おとなしく私に抱かれてくれた。
(あぁ··· やっとこの腕に抱くことが出来た。)
「ミラ なんて愛らしい。」
私の腕の中でおとなしくしているミラを見つめていると、
「陛下、ここでいつまでも立ち話も出来ません。一旦、応接室に参りましょう。」
そう言って、侍女長のマーサが、私からミラを取り上げ、ロベルトに渡してしまう。
あまりの喪失感に、私の瞳から、又、ポロポロと涙がこぼれる。
王の威厳も何も あったもんじゃない。
私は、側近達に励まされ、応接室に向かった。
二人掛けのソファーには、ロベルトとその膝の上にミラが座り、私は、少しでもミラの側にいたくて、ロベルトに寄り添うようにその隣に座った。
そして、ミラの小さな手を取り、自己紹介を始める。
私の、常に無い態度に、側近達は、ドン引きしていたが、私は気にしない。
とにかく、ミラに私の想いを伝えなければ、それだけで、必死だった。
「ミラ、私は、この水の国を治める青竜王、シェロンだ。そして、君は やっと見つかった私の【番】なんだ。どうか、私と 結婚してほしい。」
私を見つめたまま、げんなりとした顔をして、ミラが答える。
「あの···私 まだ5才なんですけれど···」
「年齢なんて関係ないよ。どんな君でも 私は君を愛しているんだ。この先、100年たっても、200年たっても、君ただ一人だけを愛すると誓うよ。」
私は、彼女に誓いを立てる。
「いや、200年も 生きられないし···」
「大丈夫。結婚して、君が 私の竜心を受け入れてくれたら、私と君は一つになるんだ。私が死ねば、君も死ぬ。君が死ねば、私も死ぬ。永遠に一緒だよ。」
「へっ?!何それ、怖いんですけど···」
彼女がますます引いてしまった。
おかしい?ここは私の言葉に感動して、私を受け入れてくれる所ではないのか?
「何も怖くはないよ。私がずっと君を守るからね。」
私は更に言葉を重ねた。
その時、今迄 黙って話を聞いていたロベルトが、私に聞いてきた。
「竜王様、本当に 私の娘が竜王様の【番】なのでしょうか?娘はまだ たったの5才ですし、私も妻も まだまだ娘を手放す気はありません。どうぞ このお話は、一旦、保留して頂ますように、お願いいたします。せめて、10年後、娘が自分の気持ちを、自分で決める年齢になるまで、お待ち頂けないでしょうか?」
ミラの父、ロベルトが声を震わせながら 私に言った。
「はぁ?」
つい、うっかり 彼を威圧してしまう。
いかん いかん 彼はミラの父、ということは、私の父でもあるのだ。
落ち着け 私。
「ロベルト、君は人間だから 私の【番】に対する想いが、少し理解しずらいのかもしれない。でも、君にも愛する妻がいるだろう?愛する者に対する私の気持ちも わかってくれないだろうか?私は本当に、心の底から ミラを愛しているんだ。もう、一時も離れていられない程に、彼女に 恋焦がれているのだ。」
そう言って、不安に翳るロベルトの琥珀の瞳を、真っ直ぐに見つめた。
ロベルトは、そっと 私から視線を外し、ふーっと、1つ息を吐き出した。
「わかりました」
そう言って、ミラに向き直る。
「ミラ、今から、父様の言う事を良く聞いて欲しい。ミラがどうしたいか、父様は、ミラの気持ちを、何よりも一番に考えたいと思っているからね。」
ミラは父ロベルトの顔を真っ直ぐ見つめた。
「この方は、この水の国を治める竜王様なんだ。決して、怪しい人では無いから、安心して大丈夫だよ。竜王様はミラの事をお嫁さんにしたいとおっしゃっているんだ。ミラにはまだまだ早いと思うけれど、竜王様は、とっても真剣だから、ミラも、真面目に考えて欲しいんだ。父様の言ってる事、わかるかな?」
「うん···」
ミラは、ロベルトにそう返事して、不安な瞳でこちらを見た。
◇ ◇ ◇
【番】って あれですよね。
前世、ラノベなんかで良くあった、「運命の番」「永遠の伴侶」「本能」「溺愛」「執着」
幼女趣味の変態じゃ無い事はわかったけれど、まだ たったの5年しか生きてない子供に、迫る選択じゃあ無いですよね?なんて返事すればいいの?
私は考える。
このまま、王様を振ると、死んじゃうかもしれない···
今でも、やつれて随分ボロボロになっちゃってるし···
でも、まだ私は、 王様の事、なんにも知らないし···
どう返事すれば納得してもらえるの?
王様の顔をじっと見る。
じーーーーーっと見つめる。
穴が開くほど見つめる。
あ···赤くなった。
なんか、可愛いかも···
「お友達からなら良いよ。仲良くしてあげる。」
「ミラ!ありがとう!!」
王様はそう言って、涙を流しながら、父様ごと 私を包み込みました。
◇ ◇ ◇
ミラが 私を認めてくれた。
うれしい。
うれしい。
うれしい。
天にも登る気持ちというのは、こういう事を言うのであろうか?
早速、私は ロベルトに急ぎ、王宮へ引っ越すように命令する。
「へっ?!引っ越しですか?」
王である私に対して、なんとも不敬な返事を返すロベルトは、私の言葉を聞いて、フリーズした。
「王宮に部屋を与える。家族皆で、引っ越して来るが良い。取り敢えず、ミラは、今日から、ここで 私と一緒に暮らそう。」
「ちょっ···ちょっと待って下さい!陛下。急に言われても困ります!」
「何を言う、ロベルト。ミラが今、私を認めてくれたではないか。私はもう、1日足りとも、ミラと離れて生活する事など出来ない!毎日会わなければ、死んでしまう。家族揃ってが無理なら、ミラだけでも、ここに残してくれ。頼む。」
そう言って、私はロベルトに頭を下げた。
「やめてください陛下、私などに、頭を下げるなんて!」
「だが···私は本当にもう無理なのだ···ミラのいない生活なんて、考えられない···」
ミラの方を向いて、私は今一度、懇願する。
「陛下、私の一存では決められません。妻にも相談しませんと。取り敢えず、今日の所は 一旦、お暇させていただいて···」
そう言ってロベルトが、席を立とうとするのを、私はあわてて押しどどめた。
私は更に、言葉を重ねた。
「ロベルト、どうか 私の願いを聞き届けてくれないか?私はもう、2週間もミラと離れていたのだ、たった2週間で私の身体はもう、ボロボロだ。目の下のクマは取れるどころか、黒さを増す一方で、とうとう頭にハゲまで出来てしまった。もうこれ以上、ミラと離れて暮らすなんて、考えられない。頼む!私を助けると思って、どうかミラだけでも、私に預けては貰えないだろうか?王宮がダメなら私がおまえの家に行こう!それでもダメなのか?」
私は、一気に捲し立て、渾身のお強請りポーズをした。
◇ ◇ ◇
王様の言葉を聞いて、フリーズしたのは父様だけじゃありません。
私もびっくりして、言葉が出ませんでした。
今 一緒に住むって言ったよね。
ここで?
王宮で?
まさか、結婚もしないうちから、王様の部屋で?
さっき 友達からって言ったのに、まさか OKした時点で、もう王様の【番】決定なの?
まさかの『今日から一緒に住もう!』発言で、私の頭の中は若干パニック!
いや、怖いし。
まさかもう、夫婦同然なんて言うの?
嘘だよね。
誰か、嘘だと言って下さい!
王様の 押せ押せムードに、父様の心がゆらゆら揺れています。
父様の戸惑いが、私には手に取るようにわかりました。
父様の膝の上で父様の服の裾をギュッ!と掴んで、
「父様···」
お願い、一人にしないで···
そんな気持ちで、父様の顔をじっと見ます。
「ミラ···」
あ···ダメだ···父様もう あきらめてる···
私は全てをさとりました。
ならば、私に出来る事は1つしかありません。私は、1つ 小さくため息をついて
「父様、私は大丈夫です。何を言っても、王様の言葉が覆ることは無さそうですし、このまま拒否し続けても、最後には、王命が出されるでしょう。仕方ありません。諦めましょう。母様には父様から上手く言っておいて下さい。私はここで、一人、父様や母様が引っ越して来られるのを、待ちたいと思います。」
「ミラ、本当にそれでいいのかい?」
「はい、かまいません。父様と母様が引っ越して来られるのを、お待ちしております。」
「わかったよ、ミラ、なるべく早く引っ越して来るから待ってて。」
「はい、父様。」
そうして、顔を上げ、隣に座る陛下の目を真っ直ぐ見つめた父様は、そのまま深々と頭を下げて、
「どうか、娘を宜しくお願い致します。」
そう言って、私を王様に預け、王宮を去って行きました。
それから、3日、超特急で引っ越し準備を整えた私の家族が、王宮へ やって来ました。
名前は「ミラ」。
長く淡い銀紫の髪は、真っ直ぐで、サラサラとその華奢な背中を覆い。
私と同じアクアマリンの瞳は、理知的で、落ち着いた雰囲気をかもし出している。
白い肌は、白磁のように滑らかで、シミ1つ、そばかす一つも見あたらない。
薄い桃色の頬。
ぷっくりと艶のあるサクランボの唇が紡ぎ出す声は、鈴を転がすように耳に優しく響き、5才とは思えぬ程の魔力を持ち合わせていた。
彼女の両親であるロベルトとハンナに娘に近づくなと追い払われ、私は毎日泣きながら執務をこなしていた。
こんなに傷ついているのに、仕事は待ってくれない。
あの運命の出会いから一週間、ロベルトは彼女を王宮に連れて来てくれないし、私がロベルトの屋敷を訪ねる事も、側近達に阻まれている。
彼女に会いたくて、
会いたくて、
会いたくて···
もう、気が狂いそうだった。
竜人である私の側近達は、【番】を見つけた竜人がどうなるのかなんてとっくに理解しているはず。
そろそろ私の我慢の限界が近づいている事を察して、なんとかロベルトとハンナを説得しようと、動いてくれているようだ。
私が表立って、行動を起こさないよう自制しているのは「ミラ」の事となれば、理性を失い、どんな事態になるか想像出来ないからだ。
私も暴走してしまう自覚はある。
だから、今は我慢している。
きっと、側近達が良いようにしてくれるはず。
それを信じて、私は今、毎日を忍耐の一字を飲み込み、頑張って仕事をしているのだ。
早くミラに会いたい。
そして、更に一週間がたった。
私の顔色は青黒く、目は落ち込んで、目の下には真っ黒なクマができ、髪はぱさついて、枝毛だらけ、めくれば小さな円形のハゲが3つも出来ていた。
もう 限界だ!
このままでは、私は 死んでしまうかもしれない。
ミラ···私の愛しい【番】ーーーーー
会いたいーーー
会いたいーーー
会いたいーーー
気付けば、予算報告書にサインの代わりに、「会いたい」と書き込んでしまった。
その時だった。
私の胸が「ドクン!」と跳ねた。
「ミラ!」
そう感じた瞬間、私は竜形となり、執務室の窓を割って、空に飛んだ。
突然の私の奇行に、部屋にいたものたちは、とても驚いていたけれど、私は もうそれどころではない。
窓から飛び出した私は、すぐさま、ミラのいる王宮門まで飛んで行っていた。
「ミラ!!」
想いを込めて、彼女の名を呼ぶ。
そこには、父ロベルトに抱っこされたミラが、ものすごく驚いた顔をして、私の方を見ていた。
竜形を解いた私は、すぐにミラの元へ向かった。
「会いたかった」
私はロベルトから奪うようにミラを抱きしめ、その小さな身体を、私の胸に囲い込んだ。
「あぁ···ミラ···ミラ···ミラ···会いたかった。」
私の抱擁を嫌がるように、ミラは、その小さな手を、私の胸に突っぱるように伸ばし、私から逃れようとする。
「父様ーーーー」
そう言って、大きくのけぞって、父ロベルトに救いを求める。
(どうして?君は私の【番】なのに···私のものなのに···)
「ミラ、そんなにのけぞったら落ちてしまうよ。お願いだから、じっとしておくれ···」
私はとっても悲しそうな表情でミラを見つめた。
(あぁどうか お願いだから 私を嫌いにならないで···)
そう考えた瞬間、私の胸の内が悲しみで満たされ、私の瞳から涙が溢れた。
「お···王様?」
壊れた蛇口のように ダラダラと涙を流す私を 間近で見たミラは、驚いてのけぞっていた身体を起こし、おとなしく私に抱かれてくれた。
(あぁ··· やっとこの腕に抱くことが出来た。)
「ミラ なんて愛らしい。」
私の腕の中でおとなしくしているミラを見つめていると、
「陛下、ここでいつまでも立ち話も出来ません。一旦、応接室に参りましょう。」
そう言って、侍女長のマーサが、私からミラを取り上げ、ロベルトに渡してしまう。
あまりの喪失感に、私の瞳から、又、ポロポロと涙がこぼれる。
王の威厳も何も あったもんじゃない。
私は、側近達に励まされ、応接室に向かった。
二人掛けのソファーには、ロベルトとその膝の上にミラが座り、私は、少しでもミラの側にいたくて、ロベルトに寄り添うようにその隣に座った。
そして、ミラの小さな手を取り、自己紹介を始める。
私の、常に無い態度に、側近達は、ドン引きしていたが、私は気にしない。
とにかく、ミラに私の想いを伝えなければ、それだけで、必死だった。
「ミラ、私は、この水の国を治める青竜王、シェロンだ。そして、君は やっと見つかった私の【番】なんだ。どうか、私と 結婚してほしい。」
私を見つめたまま、げんなりとした顔をして、ミラが答える。
「あの···私 まだ5才なんですけれど···」
「年齢なんて関係ないよ。どんな君でも 私は君を愛しているんだ。この先、100年たっても、200年たっても、君ただ一人だけを愛すると誓うよ。」
私は、彼女に誓いを立てる。
「いや、200年も 生きられないし···」
「大丈夫。結婚して、君が 私の竜心を受け入れてくれたら、私と君は一つになるんだ。私が死ねば、君も死ぬ。君が死ねば、私も死ぬ。永遠に一緒だよ。」
「へっ?!何それ、怖いんですけど···」
彼女がますます引いてしまった。
おかしい?ここは私の言葉に感動して、私を受け入れてくれる所ではないのか?
「何も怖くはないよ。私がずっと君を守るからね。」
私は更に言葉を重ねた。
その時、今迄 黙って話を聞いていたロベルトが、私に聞いてきた。
「竜王様、本当に 私の娘が竜王様の【番】なのでしょうか?娘はまだ たったの5才ですし、私も妻も まだまだ娘を手放す気はありません。どうぞ このお話は、一旦、保留して頂ますように、お願いいたします。せめて、10年後、娘が自分の気持ちを、自分で決める年齢になるまで、お待ち頂けないでしょうか?」
ミラの父、ロベルトが声を震わせながら 私に言った。
「はぁ?」
つい、うっかり 彼を威圧してしまう。
いかん いかん 彼はミラの父、ということは、私の父でもあるのだ。
落ち着け 私。
「ロベルト、君は人間だから 私の【番】に対する想いが、少し理解しずらいのかもしれない。でも、君にも愛する妻がいるだろう?愛する者に対する私の気持ちも わかってくれないだろうか?私は本当に、心の底から ミラを愛しているんだ。もう、一時も離れていられない程に、彼女に 恋焦がれているのだ。」
そう言って、不安に翳るロベルトの琥珀の瞳を、真っ直ぐに見つめた。
ロベルトは、そっと 私から視線を外し、ふーっと、1つ息を吐き出した。
「わかりました」
そう言って、ミラに向き直る。
「ミラ、今から、父様の言う事を良く聞いて欲しい。ミラがどうしたいか、父様は、ミラの気持ちを、何よりも一番に考えたいと思っているからね。」
ミラは父ロベルトの顔を真っ直ぐ見つめた。
「この方は、この水の国を治める竜王様なんだ。決して、怪しい人では無いから、安心して大丈夫だよ。竜王様はミラの事をお嫁さんにしたいとおっしゃっているんだ。ミラにはまだまだ早いと思うけれど、竜王様は、とっても真剣だから、ミラも、真面目に考えて欲しいんだ。父様の言ってる事、わかるかな?」
「うん···」
ミラは、ロベルトにそう返事して、不安な瞳でこちらを見た。
◇ ◇ ◇
【番】って あれですよね。
前世、ラノベなんかで良くあった、「運命の番」「永遠の伴侶」「本能」「溺愛」「執着」
幼女趣味の変態じゃ無い事はわかったけれど、まだ たったの5年しか生きてない子供に、迫る選択じゃあ無いですよね?なんて返事すればいいの?
私は考える。
このまま、王様を振ると、死んじゃうかもしれない···
今でも、やつれて随分ボロボロになっちゃってるし···
でも、まだ私は、 王様の事、なんにも知らないし···
どう返事すれば納得してもらえるの?
王様の顔をじっと見る。
じーーーーーっと見つめる。
穴が開くほど見つめる。
あ···赤くなった。
なんか、可愛いかも···
「お友達からなら良いよ。仲良くしてあげる。」
「ミラ!ありがとう!!」
王様はそう言って、涙を流しながら、父様ごと 私を包み込みました。
◇ ◇ ◇
ミラが 私を認めてくれた。
うれしい。
うれしい。
うれしい。
天にも登る気持ちというのは、こういう事を言うのであろうか?
早速、私は ロベルトに急ぎ、王宮へ引っ越すように命令する。
「へっ?!引っ越しですか?」
王である私に対して、なんとも不敬な返事を返すロベルトは、私の言葉を聞いて、フリーズした。
「王宮に部屋を与える。家族皆で、引っ越して来るが良い。取り敢えず、ミラは、今日から、ここで 私と一緒に暮らそう。」
「ちょっ···ちょっと待って下さい!陛下。急に言われても困ります!」
「何を言う、ロベルト。ミラが今、私を認めてくれたではないか。私はもう、1日足りとも、ミラと離れて生活する事など出来ない!毎日会わなければ、死んでしまう。家族揃ってが無理なら、ミラだけでも、ここに残してくれ。頼む。」
そう言って、私はロベルトに頭を下げた。
「やめてください陛下、私などに、頭を下げるなんて!」
「だが···私は本当にもう無理なのだ···ミラのいない生活なんて、考えられない···」
ミラの方を向いて、私は今一度、懇願する。
「陛下、私の一存では決められません。妻にも相談しませんと。取り敢えず、今日の所は 一旦、お暇させていただいて···」
そう言ってロベルトが、席を立とうとするのを、私はあわてて押しどどめた。
私は更に、言葉を重ねた。
「ロベルト、どうか 私の願いを聞き届けてくれないか?私はもう、2週間もミラと離れていたのだ、たった2週間で私の身体はもう、ボロボロだ。目の下のクマは取れるどころか、黒さを増す一方で、とうとう頭にハゲまで出来てしまった。もうこれ以上、ミラと離れて暮らすなんて、考えられない。頼む!私を助けると思って、どうかミラだけでも、私に預けては貰えないだろうか?王宮がダメなら私がおまえの家に行こう!それでもダメなのか?」
私は、一気に捲し立て、渾身のお強請りポーズをした。
◇ ◇ ◇
王様の言葉を聞いて、フリーズしたのは父様だけじゃありません。
私もびっくりして、言葉が出ませんでした。
今 一緒に住むって言ったよね。
ここで?
王宮で?
まさか、結婚もしないうちから、王様の部屋で?
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いや、怖いし。
まさかもう、夫婦同然なんて言うの?
嘘だよね。
誰か、嘘だと言って下さい!
王様の 押せ押せムードに、父様の心がゆらゆら揺れています。
父様の戸惑いが、私には手に取るようにわかりました。
父様の膝の上で父様の服の裾をギュッ!と掴んで、
「父様···」
お願い、一人にしないで···
そんな気持ちで、父様の顔をじっと見ます。
「ミラ···」
あ···ダメだ···父様もう あきらめてる···
私は全てをさとりました。
ならば、私に出来る事は1つしかありません。私は、1つ 小さくため息をついて
「父様、私は大丈夫です。何を言っても、王様の言葉が覆ることは無さそうですし、このまま拒否し続けても、最後には、王命が出されるでしょう。仕方ありません。諦めましょう。母様には父様から上手く言っておいて下さい。私はここで、一人、父様や母様が引っ越して来られるのを、待ちたいと思います。」
「ミラ、本当にそれでいいのかい?」
「はい、かまいません。父様と母様が引っ越して来られるのを、お待ちしております。」
「わかったよ、ミラ、なるべく早く引っ越して来るから待ってて。」
「はい、父様。」
そうして、顔を上げ、隣に座る陛下の目を真っ直ぐ見つめた父様は、そのまま深々と頭を下げて、
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