悲しい恋 【完結】

nao

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オルランド帝国

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 王宮の広い謁見の間に案内され、うつむいて挨拶の時を待つ。
「顔を上げてくれ」王の言葉を合図に私達は顔を上げた。
一番高い所にある玉座には 王と王妃が並んで座り、一段低い所に王太子であるノアール-オルランド殿下、そして、その隣には 妹姫である第一王女のアリス様がいらっしゃる。
「お初にお目にかかります。クロノス王国より参りました。レミリア-オースティンでございます。どうぞよろしくお願いいたします。」丁寧にカーテシーをして挨拶する。
私に続いて 兄のレスターと外交大臣も挨拶を交わす。
「この度は急な婚約に驚いたであろう。色々と思うところもあるだろうが、我々はそなたを歓迎している。末永く王太子を支え、仲良くやって欲しい。」
黒髪、紫の瞳の陛下が嬉しそうに声をかけてくれる。
「ありがとうございます。一生懸命努めさせて頂きます。」
「遠い所 急な出国で疲れたでしょう。今日は部屋でゆっくりと休むといいわ、これから 宜しくね。」
こげ茶の髪、黒い瞳の王妃様が優しく声をかけてくださる。
「お心遣い、感謝いたします。」
「レミリア嬢、私が王太子 ノアール-オルランドだ。この後の事はそこの2人に任せて、あなたは部屋で ゆっくり休むといい。部屋まで案内しよう。」
「ありがとうございます。」
「では、父上、後は宜しくお願いします。」そう言って、殿下は私をエスコートし、さっさと謁見の間を出てしまった。
隣を歩く殿下をそっと伺う。
黒髪、黒い瞳、その顔はとても整っていて美しい。背が高く、スラリとしている。黒い瞳以外は父である陛下にとても良く似ていらっしゃる。
この方が、戦場では「死神」「狂犬」と呼ばれているなんて、とても信じられない。
もっと恐ろしい方かと思っていた。
王女の身代わりの私で大丈夫なのかと心配していたけれど、陛下も 王妃様も 一応歓迎してくださっているようで少し安心した。
私をここまで送って来て下さったお兄様達は、明日の調印と明後日の夜会が済めば 帰ってしまう。
その後は、王太子妃教育が待っているだろう。
国の為にも 私はここで失敗する訳にはいかない。頑張らないと…
先の事を色々考えているうちに、部屋に着いた。
「ここが 君の部屋だ。」
大きく扉を開けて、私を中へ案内してくれる。
とても可愛い部屋だった。
クリーム色の壁に 淡いピンクのカーテン、家具は白で統一され、天蓋付きの寝台には、可愛らしい花の模様があしらわれた寝具で揃えられていた。
部屋には、入ってすぐのリビング、寝室、クローゼット、侍女の控えの間、浴室などの水回りがあり、バルコニーからは美しい庭が眺められた。
寝室の奥にも もう一つ扉があったが、そこは鍵がかかっており、開かないようにされていた。
「ここは?」
案内してくれていた殿下の方を振り返り、訪ねてみる。
「ああ その扉は夫婦の寝室に繋がる扉だ。」そういって ノアール殿下は少しだけ私から視線を外すように横を向いて言葉を続ける。
「始めは客間を使ってもらうつもりだったのだが、母上が早く慣れて欲しいからと、王族が住まうこちらの宮に 部屋を用意すると言って、この王太子妃の部屋に決めてしまったんだ。だが、安心してほしい。夫婦の寝室に繋がるこの扉は 結婚式が済むまでは閉ざされる。そこは 安心してほしい。私の事は、気にせず過ごしてくれ。」
「そうですか、お心遣いありがとうございます。王妃様にもお礼をお伝え下さい。」
「足りないものがあれば、侍女長に言ってくれ。なるべく希望にそうように取り計らう。では、私はこれで失礼する。明日のスケジュールは後で側近のジョエルに届けさせる。ゆっくり休んでくれ。」
そう言って、殿下はもと来た廊下を戻って行かれた。
お忙しいだろうに、気遣っていただいて申し訳ない。
私はソファーに深く腰を下ろし、フーッと一息ついた。
今日からここで暮らすのね。
早速、アンが この部屋付きの侍女達と何やら打ち合わせをしている。
手慣れた侍女がお茶を出してくれる。
「美味しい…」
ゆっくりとお茶を味わっているうちに 湯浴みの支度が出来たらしい。
今日はもう、さっさと湯浴みをして早く寝てしまおう。
リラックス効果があるという ラベンダーの香りのする湯につかり、香油をたっぷり使って 全身をマッサージされ、スッキリして寝台に入った。
(レオは今頃どうしているだろう…)
ウトウトとしながらレオの顔を思い浮かべ、そのままぐっすりと眠った。

翌日 私は部屋で朝食をとり、その後王宮の中を侍女長カレンと執事のポールに案内してもらった。
とにかく、広い!大きい!豪華!である さすが、大国!
オルランド帝国は、祖国クロノスの10倍の国土と、3倍の国民を抱えている。国土の半分は高い山と深い森で国の北東に位置している。
人が主に住んでいるのは西側で、海に面しているそうだ。
そう、この国には海があるのだ。
見た事はないけれど、本で読んだ海はとても広くて、大きくて、先までずっと塩味のする水面が続いていて、その水面に夕日が沈むそうだ。
どんなだろう?とても 想像出来ない。
いつかは一度行ってみたいと思う。
祖国クロノスはオルランドの北側に位置していて、西寄りの街道が交通の要所となっており、私達もこの街道からオルランドに入国した。
南側には小さな国がいくつか隣接していて、中には貧しい国、少し好戦的な国もあるらしい。
内戦などが時々おこって、難民がオルランドに入る事もあるらしい。
今日の午後は調印式を済ませ、これからの予定などを殿下と打ち合わせする。
王太子妃教育、お披露目など色々あるらしい。忙しくなりそうである。
明日は夜会がある。
この夜会で 大々的に婚約の発表が行われ、私は名実ともにノアール殿下の婚約者となる。
夜会が終われば お兄様達は帰ってしまう。後は私一人と小さな頃から私の側にいてくれる侍女のアンだけ。
寂しくなる…
寂しくなると レオの事を思い出して涙が出てしまう。
何もかも国に置いてきたけれど、たった1つだけ、レオとの婚約式の時に初めてレオから貰った金の指輪を持ってきた。なんの装飾もない小さな金の指輪。
婚約式の時、私の小さな左手の薬指にレオがはめてくれた。
お揃いの指輪をレオも持っている。
今はもう小指にもはまらない…
本当はこの国に持って来てはいけないものだ。そう思うけれど、結婚する18才まで、私の心を支えてほしくて どうしても手放せなかった。
私の心の拠り所…
後2年、後2年だけ許してほしい。
クローゼットの奥にそっとしまう。
心がくじけそうになった時はこれを見て頑張ろう。そう思いながらクローゼットの扉を閉めた。

夜会で私と王太子の婚約が大々的に発表され、(相手が王女でない事に戸惑っている貴族も何人かいたけれど…)
なんとか無事に婚約者と認められた。
そして2日後 兄様達はクロノスへ帰っていった。
レスター兄様は、私を心配して 抱きしめたまま なかなか離してくれなかった。
くどいくらい「何かあったら 必ず連絡するように。」「辛かったら何時でも帰っておいで」そう何度も繰り返し言ってくれた。
兄様の気持ちが嬉しかったけれど、隣に立つノアール殿下の前で不敬だと怒られないかしらと ドキドキした。
殿下は少し困ったような表情をしただけだった。
レスター兄様を見送って部屋に戻ると、私は兄様が帰ってしまった喪失感に我慢出来なくて、クローゼットの奥へ入り、レオの指輪を握りしめて少し泣いた。
次の週から王太子妃教育が始まった。
オルランド帝国の歴史、経済、地理、その地を納める貴族、領主の事、淑女教育、しきたり、マナー、覚える事はたくさんあった。
勉強は嫌いじゃない。
新しい事を知るのはワクワクする。
そして、忙しくしている時は 悲しい気持ちも忘れられる。
王妃様は私が辛くないよう 気遣って下さり、よくお茶会に招いて、私の様子をたずねて下さった。
第一王女殿下であるアリス様も 仲良くしたいとおっしゃって下さり、刺繍や淑女教育の時間を共に過ごして下さった。
アリス様は私より4つ年上の20才で まるでお姉様が出来たようで とても嬉しかった。もうすぐ公爵家に降下される事が決まっているそうだ。
新しいドレスを作ろうと言って、王妃様とアリス様が商人を呼んでくださり、3人でワイワイと楽しい時間を過ごしたりもした。
王妃様も、アリス様も、公務でお忙しいだろうに 本当にありがたい。
殿下もよく私に声をかけて下さった。
そして、外への視察に出るような時は、私も一緒に連れて行って下さった。
農地の視察、造船所、治水工事現場に、騎士団の訓練所の見学まで、始めて見るものばかりでとても楽しかった。
造船所の見学では、海を見た。
始めて見た海は私の想像を遥かに超えて、広く、大きく、美しかった。
殿下は「部屋の中ではわからない勉強もある。」そう言って 色々な所へ私を連れ出して下さった。
私はいずれこの国の王妃となる。
その為に、今は 一生懸命 勉強しよう。努力しよう。
海に沈む夕日を見ながら そう心に誓った。


ノアール殿下と行動を共にするようになって解ったが、ノアール殿下はとても優しい。「死神」とか「狂犬」とか言われているけれど、それは戦場で敵対しているものに対してで、普段 王宮で執務をこなす彼はとても理知的でとてもおだやかだ。
時々 悪い顔をして何かを考えている時は、ちょっと怖いと思ってしまうが…

始めてノアール殿下とお茶会をした時
「これは政略結婚だ。私の妻として、王太子妃として不足が無ければそれで良い。」
そう言われて、愛を求められていない事に少しホッとしていた。
そんな私の気持ちなんて、ノアール殿下はお見通しだろう。
当然、私がこの国に来ることになった理由を、陛下も、殿下も、すっかり調べ尽くしているだろう。
もちろん私が未だにレオを愛している事もノアール殿下はご存知だろう。
それでも 陛下も、王妃様も、ノアール殿下も 私を大切な婚約者として扱って下さる。
本当はもっと酷い扱いを受ける事も覚悟していたのに、皆様 とても優しい。
陛下も、殿下も、口を揃えて「政略結婚の意味もわからないような馬鹿を迎えるよりよほど良い。」と 笑っていらした。
私としては、ちょっと複雑だ。(王女、馬鹿だと思われているんだ…)
私は、この国で 拍子抜けするくらい とても快適に過ごしている。
自分が平穏であればある程 レオの事が心配になる。
(レオ、今 何を思ってる?辛くない?)
2年後、18才になったら 私はこの国の王太子妃になる。
そして、その1年後 王女の成人に会わせてレオ達も結婚する。
先の事を思うと、辛さしか無いが、少しでも レオが辛い思いをしませんように。
今日も、就寝前、クローゼットの奥、レオの指輪を見てレオを想う。
(レオ 元気にしてる?レオ 辛くない?レオ そばにいたい…レオ…レオ…)指輪を握りしめる。
しばらくすると アンが私を呼びに来る。
今日もレオの事を想いながら眠りにつく。
(おやすみレオ…愛してる…)
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