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トルティア帝国-6
しおりを挟む翌朝王妃様に朝食に誘われてサロンに向かいました。
「おはようございます。帝国の月にご挨拶申し上げます」
そうしてカーテシーをします。
10秒、20秒、30秒………1分
もうこのやり取りも慣れたものです。
「お座りなさい」
「はい」
何とか冷静に返事を返しましたが、内心ドキドキが止まりません。
初めて席に座るように言われました。
朝食に呼ばれたのですから着席するのは当たり前ですが…
今まで着席なんてした事が無かったので音を立てないように慎重に着席しました。
私が着席したのを見届けて、王妃様の合図で食事が始まりました。
「グレース伯爵が褒めていました」
突然の言葉に驚いてなんと言えばいいのか…
「ありがとうございます。嬉しいです」
「これからも励みなさい」
「はい」
「―――――――」
そこで会話は止まってしまいました。
王妃様は静かに食事を続けています。
私も黙々と食べ続けました。
最後にお茶が出されて私が手を伸ばした時、
「エマ、シルビアのお茶がぬるい様です入れ替えて上げなさい」
王妃様の冷たい視線にエマの顔が青ざめました。
「申し訳ありません」
そう言ってエマは私のティーカップを下げて新しくお茶を入れ替えたティーカップを目の前に置きました。
王妃様は静かにその様子を見守っていました。
私がお茶を一口飲んで
「美味しいです」
そう言うと王妃様の表情がほんの少し和らいだような気がしました。
「今日も午後からグレース伯爵の授業があるのでしょう?頑張りなさい。」
「はい、お気遣いありがとうございます」
そうして、私は食事を終え、自室に戻りました。
「王妃様って…本当はお優しいのかしら…」
ポツリとそんな言葉が漏れました。
「姫様?何かおっしゃいましたか?」
「いえ…何でもないわ」
「昼食まで少し身体を動かしたいわ、ビビアン相手してもらえる?」
「はい、では着替えて訓練所に行きましょうか」
そう言って私は王妃様の不可解な行動を頭の中から追い出して夢中で剣を振りました。
午後、王城図書館に向かうと既にグレース先生がいらしていて焦りました。
「グレース先生、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、殿下 私が早く着きすぎたのですよ。気にする必要はありません。さぁ早速授業を始めましょう」
「はい、お願いいたします」
今日も先生が教えてくれる歴史の要点を年表に書き進めて行きます。
ノートの家系図のページを開いて、3日目にしてやっと第12代帝王、マクシミリアンウォル=トルティア陛下のお名前を入れる事が出来ました。
陛下の隣には二人の王妃様、リオのお母様と、今現在の王妃様ケイトミラン=トルティア妃殿下のお名前を、そしてその下にリオの名前を書き入れました。
そしてリオの横に自分の名前を小さく入れました。
最後に一つ未来の自分を年表に書き込んで嬉しくてニマニマしてしまいます。
グレース先生はその部分を見て片眉を上げましたが、何も言わず私の書いた年表を手に取り…
「では、どのくらい頭に入っているか復習して行きましょう。建国元年からあなたが覚えている限りの事柄をお話し下さい。」
「はい、それではまず
建国元年、初代帝王即位。
✕✕年ベリアル王国と同盟締結
✕✕年◯◯地方大洪水
✕✕年◯◯伯爵領大飢饉
――――
――――
✕✕年第12代帝王マクシミリアンウォル=トルティア即位
✕✕年リオネルリード=トルティア王太子冊封
以上です。」
「おや、『✕✕年リオネル王太子殿下とシルビア王女殿下婚姻』が抜けておりますよ。」
そう言ってグレース先生かクスクスと楽しそうに笑っています。
「あ…はは…」
調子に乗って書いてしまった最後の1行を指摘されて恥ずかしくて笑って誤魔化しました。
「まあいいでしょう、素晴らしいです。たった3日でこれほどの情報を覚えてしまうなんて、感服いたしました。長時間にわたる集中力も素晴らしい!」
手放しで褒められて嬉しくなりました。
「明日からは政治についてお教えしたいと思います。明日も今日と同じ時間にこちらの図書館にいらして下さい。来週からは週4日学園に通われるそうですね」
「はい」
「では、私の授業は週末の2日間としましょう。時間は今日と同じ2時から4時の2時間です」
「わかりました」
「では、今日の学習はこれまで、しっかり休養を取って、頭を休ませてくださいでは私はこれで失礼いたします。」
先生に褒められたことが嬉しくて、私は浮かれた気分のまま部屋に戻りました。
今夜はリオの住む王太子宮で晩餐です。
初めての王太子宮、リオの宮…
どんな所でしょうか?
リオが毎日を過ごしている所。
晩餐の後は庭を案内してくれると言っていました。
楽しみで仕方ありません。
念入りに湯浴みしてシンディが選んでくれたドレスを着て髪にはいつもの組紐を編み込んでもらいました。
夜になって、私はドキドキしながら王太子宮に向かいました。
王太子宮はベージュを基本色にアイボリーや薄いブラウンなど素朴な色使いで統一された落ち着いた雰囲気の宮殿でした。
その中でリオの存在が一際目立っています。
結婚すれば私もこの宮で暮らす事になるのかしらと思うと自然に顔が赤らみます。
「さあ、晩餐室はこちらだよ、気に入ってもらえると嬉しいんだが…」
リオに手を引かれ、席に付きます。
テーブルの上には既に多くの料理が並べられていました。どれもとても美しく美味しそうです。
「今日は王妃と朝食を一緒にしたと聞いたよ、大丈夫だった?」
「はい、何も心配するような事はありませんでしたよ」
そう…本当に何も無かったのです。
ただ黙々と食事をしただけ…
お茶の時に入れ替えさせると言う事はあったけれど、あれはエマの嫌がらせを止めてくれたのよね…
私が考えに浸っているとリオが心配そうに声をかけてくれました。
「シルビア?何かあった?」
「いえ、お茶を入れ替えて下さったのです。エマが入れたぬるいお茶を…」
「王妃が?」
「ええ、ぬるいから入れ替えろと…」
「――――ー」
リオが何か考え込んでいます。
リオはいつも王妃様を蛇のようだと言いますが、私にはそんな風に見えません。
「リオ、私には王妃様がそんなに嫌な人に思えないのです。私は小さな頃から色々な悪意にさらされて生きてきました。だから悪意にはとても敏感になっていると自分でも思っています。ですから、エマやキャロルの事にはとても気をつけていますし、なるべく一緒にいたくない居心地の悪さを感じるのですが、王妃様からはなにも感じないのです。いえ…時々何か言いたげな気配を感じる事はあるのですが、何かを言われた事もありません。むしろ、グレース先生が褒めていたと教えてもらったり、エマの嫌がらせを止めてくれたり、…リオは王妃様をいつもとても警戒されていますが私にはとてもそんな風に見えないのです」
リオは少し考え込んで
「確かに私も直接何かをされた記憶は無いな…ただ彼女の視線が…気がつくとこちらをじっと見ていたり、前も言ったけど、幸せそうなカップルをじっと睨んでいたり…とにかく彼女の視線が、なにを考えているのか分からないあの感じが私の気持ちをざわつかせるんだ」
「そうなんですね…」
「まあ、この話はこの辺で!さあシルビア、庭を案内しよう、おいで…」
「はい、楽しみです」
暗い雰囲気を吹き飛ばすように私達は手を繋いで美しく火の灯った夜の庭に散策に行きました。
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