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メイストームのあとは飛行機雲
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自分が眠った記憶もないが、眠らなかった感覚もないと思いながら昴希は朝を迎えた。
いつベッドに横になったのか記憶は曖昧だが、床に落としたままの錠剤を見るまでもなく、昨日起きたことは全て現実だと理解できる。
朝が来たのだから学校に行かなければと、いつもそうしているように着替えて部屋を出る。いつものように出来るはずだと自分に言い聞かせながら。
「……はよ。」
「おはよう、直人。」
部屋から出てすぐに直人も顔を出した。起きたばかりのようで、挨拶のあとすぐに瞼を擦っていた。
夕べは調子が悪く心配もかけたが、きっと今はいつも通りだろうと笑顔を浮かべたつもりになる。
もう何のためにそれをしているかは分からないが、そうする以外のことが昴希には出来なかった。
「昴希、その顔で学校行くのか?」
「……変?」
「鏡見ろ。目、真っ赤だし、腫れてる。隈もひでえ。」
言われて洗面台の前に立てば、直人の言うように少し普段と違う顔の自分が映っているように昴希見えた。それでも休むほどではないと思うが、同室者は頑なに譲らない。
「休んどけ。みんな心配する。」
「いや、でも授業……。」
「ノートくらいあとで貸す。わかんねえとこは教えるから。」
そうしてあれよあれよと言う間に部屋に押し戻される。ヒートを除けば皆勤だったのにと、少し不満そうな昴希の髪をぐしゃぐしゃと撫でてから直人は大きな欠伸を見せた。
「ちっと寝とけ。あんま寝れてないんだろ?」
「……ごめん。直人こそ、こんな時間なのにヒゲ伸びてる。」
いつもなら出かける昴希と入れ替えに直人が身支度をしている頃だ。心配をかけたせいで寝坊させてしまったかもしれないと謝罪をした。
顎を撫でてチクチクとわずかに伸びたヒゲを確かめてから、直人はもう一度昴希の頭を撫でて扉を閉めた。
実のところ自分がどのように振る舞っていたかも忘れてしまった昴希としては、直人が休むよう言ってくれて助かったと思う気持ちもあった。
そうかと言って別に眠たくも、具合が悪くもない。
さてどうしたものか。悩む昴希の目に本棚が映る。そうだ、掃除をしなくちゃいけないな、とそこに手を伸ばしていった。
夕方になる頃にはだいぶ部屋がスッキリしてきた。捨てるものはあとでまとめようと、机の上に積んでおいた。だがそこから気が進まず、昴希はずっとその山を見つめていた。
そうしているうちに直人が帰ってきたようで、外からドアを開ける音がした。コンコンと叩かれたノックに「はい。」と今日は返事をする。
「昴希、ちょっといいか?……ずいぶん、スッキリさせたな。」
部屋に入るなり直人はそう言い、本が山積みになった机と、反対にほとんど何もなくなった本棚を交互に見つめた。
「うん。掃除、捗っちゃったな。」
「捨てるのか?それ、全部飛行機の本じゃ……。」
「俺ももう、ちゃんと現実見ていかないといけないから。」
今、笑えているだろうか。できるだけ平静を保って言ったつもりだが、それでも心の痛みは避けられなかった。
一冊ずつ手にとってはその度に手に入れたときの喜びや、読んでいたときの高揚した気持ちが思い浮かんで手が止まった。
中を開けられはしなかったが、そんなことしなくても、内容は全て昴希の心に刻まれている。だから痛かった。
いつまでも夢を追いかけてはいたかったが、その結果誰も彼をも傷つけたかったわけではない。
夢を叶えたくて抱えた秘密だったが、千彰が傷ついた。千彰に本当のことを告げるなり、突き放すことが出来なかったために、智に辛い思いをさせた。
そんな自分勝手な人間が、この先多くの人の信頼を得る仕事ができるわけもない。一晩泣いて、昴希は自分に見切りをつけた。
「……こ、こーちゃんッ。捨てんの?」
直人の後ろから姿を現した翼は、直人が止めるのも聞かずに昴希の部屋に押し入ってきた。
なぜここにいるのか、と混乱しつつ直人を見れば、翼の襟を掴んで一度自分の下へ引き寄せようとしていた。
いつベッドに横になったのか記憶は曖昧だが、床に落としたままの錠剤を見るまでもなく、昨日起きたことは全て現実だと理解できる。
朝が来たのだから学校に行かなければと、いつもそうしているように着替えて部屋を出る。いつものように出来るはずだと自分に言い聞かせながら。
「……はよ。」
「おはよう、直人。」
部屋から出てすぐに直人も顔を出した。起きたばかりのようで、挨拶のあとすぐに瞼を擦っていた。
夕べは調子が悪く心配もかけたが、きっと今はいつも通りだろうと笑顔を浮かべたつもりになる。
もう何のためにそれをしているかは分からないが、そうする以外のことが昴希には出来なかった。
「昴希、その顔で学校行くのか?」
「……変?」
「鏡見ろ。目、真っ赤だし、腫れてる。隈もひでえ。」
言われて洗面台の前に立てば、直人の言うように少し普段と違う顔の自分が映っているように昴希見えた。それでも休むほどではないと思うが、同室者は頑なに譲らない。
「休んどけ。みんな心配する。」
「いや、でも授業……。」
「ノートくらいあとで貸す。わかんねえとこは教えるから。」
そうしてあれよあれよと言う間に部屋に押し戻される。ヒートを除けば皆勤だったのにと、少し不満そうな昴希の髪をぐしゃぐしゃと撫でてから直人は大きな欠伸を見せた。
「ちっと寝とけ。あんま寝れてないんだろ?」
「……ごめん。直人こそ、こんな時間なのにヒゲ伸びてる。」
いつもなら出かける昴希と入れ替えに直人が身支度をしている頃だ。心配をかけたせいで寝坊させてしまったかもしれないと謝罪をした。
顎を撫でてチクチクとわずかに伸びたヒゲを確かめてから、直人はもう一度昴希の頭を撫でて扉を閉めた。
実のところ自分がどのように振る舞っていたかも忘れてしまった昴希としては、直人が休むよう言ってくれて助かったと思う気持ちもあった。
そうかと言って別に眠たくも、具合が悪くもない。
さてどうしたものか。悩む昴希の目に本棚が映る。そうだ、掃除をしなくちゃいけないな、とそこに手を伸ばしていった。
夕方になる頃にはだいぶ部屋がスッキリしてきた。捨てるものはあとでまとめようと、机の上に積んでおいた。だがそこから気が進まず、昴希はずっとその山を見つめていた。
そうしているうちに直人が帰ってきたようで、外からドアを開ける音がした。コンコンと叩かれたノックに「はい。」と今日は返事をする。
「昴希、ちょっといいか?……ずいぶん、スッキリさせたな。」
部屋に入るなり直人はそう言い、本が山積みになった机と、反対にほとんど何もなくなった本棚を交互に見つめた。
「うん。掃除、捗っちゃったな。」
「捨てるのか?それ、全部飛行機の本じゃ……。」
「俺ももう、ちゃんと現実見ていかないといけないから。」
今、笑えているだろうか。できるだけ平静を保って言ったつもりだが、それでも心の痛みは避けられなかった。
一冊ずつ手にとってはその度に手に入れたときの喜びや、読んでいたときの高揚した気持ちが思い浮かんで手が止まった。
中を開けられはしなかったが、そんなことしなくても、内容は全て昴希の心に刻まれている。だから痛かった。
いつまでも夢を追いかけてはいたかったが、その結果誰も彼をも傷つけたかったわけではない。
夢を叶えたくて抱えた秘密だったが、千彰が傷ついた。千彰に本当のことを告げるなり、突き放すことが出来なかったために、智に辛い思いをさせた。
そんな自分勝手な人間が、この先多くの人の信頼を得る仕事ができるわけもない。一晩泣いて、昴希は自分に見切りをつけた。
「……こ、こーちゃんッ。捨てんの?」
直人の後ろから姿を現した翼は、直人が止めるのも聞かずに昴希の部屋に押し入ってきた。
なぜここにいるのか、と混乱しつつ直人を見れば、翼の襟を掴んで一度自分の下へ引き寄せようとしていた。
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