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第五章 再会
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仲間の死体が折り重なる中で目を覚ました時の記憶は曖昧で、清一郎は目がほとんど見えていなかったように記憶をしている。
昼間らしい。パラオの明るい日差しがぼんやり見えて、どこからか男たちの声が聞こえる。
酷く曖昧なその声が何を話していたかは分からない。
ただ、清一郎はそのぼんやりとした光の向こうに勝の幻が見えて、会いたい、そちらに行きたい、声を聞きたい、とだけ考えて腕を伸ばした。
すると急に周りが騒がしくなり、誰かが清一郎の手を取る。
肉厚でゴツゴツした手が勝のものでないことはすぐに分かった。
「ま、さる……どこじゃ……。」
先ほど見えていた幻影が消えてしまい、清一郎は風が吹く度にピリっとした痛みを感じ、常夏の島なのに不思議と寒くなるような気がしながらゆっくり目を閉じた。
あの、郷から逃げた夜に握りあった手の感触が酷く懐かしくて、もう一度触れたいと願った。
次に目を覚ましたとき、清一郎は見知らぬ場所にいた。
洋上のようで、寝そべった床がゆっくりと揺れている。
ここはどこかと思い、起き上がりたかったが、それも叶わず、動く首だけで周辺を見回した。
自分のように寝そべった者が数人、それから立って動き回っているのは髪色の明るい、見覚えのある服を着た人々だ。
その服が敵である米兵のものだと分かって一気に意識が浮上するが、清一郎の身体はピクリとも動かない。
「あ……ぁ、あっ。」とただ喉を震わせる清一郎の掠れた声に気がついた米兵がこちらに寄ってきて顔を覗き込んできた。
見慣れない青いような灰色のような瞳は清一郎を観察するが、そこに殺意が感じられない。
怯えるべきなのか、怒るべきなのか、悲しむべきなのかもわからずにいると、その背後から黒い髪をした別の男が顔を出す。
「オハヨウゴザイマス。イタイトコロ、アリマスカ?」
男は黒い髪と鳶色の瞳で、色は清一郎たちと大きく変わらないが顔立ちは米兵に近い。
それにパラオの青年たちと同じくらい流暢に日本語を話していて清一郎はますます混乱した。
米兵の格好をした、日本人のようなアメリカ人のような顔をした男が日本語を話している。
清一郎はこの状況が意味することが全くわからず、もう一度辺りを見回して状況を確認しようとした。
「ワタシハ、ベンジャミン・フジオカ。ココはアメリカ兵のビョーインデス。」
そう言われて初めて清一郎は自分が捕虜になったのだと理解した。
信じられない気持ちだった。
あの時、自分は死ぬつもりで、英霊になって勝や源吉に報いるつもりでいた。
叫びたかったが、喉からは掠れた息しか出てこず、身体も思うように動かない。
これ見よがしに米兵の腰にぶら下がる銃をこの腹に、この頭に打ち付けてやりたいのにそれもできなくて、清一郎はただ泣いた。
戦争に……それも海軍に行き、やっと少しは徴兵逃れの汚名が雪げたというのに、今度はより重い生き恥を晒してしまった。
今度は“生き恥晒し”や“不忠者”の名前が勝や源吉を貶めるかと思うと不安で不安で、大の大人なのに衆人の中で泣き喚いた。
生きていても、やっぱり勝のもとには帰れない。
それだけが強く心に残った。
それからハワイの収容所に行くまでの間、ベンジャミンという男は根気強く話しかけてくれたが、清一郎は自分が所属していた部隊はおろか、名前も明かさなかった。
ただ、食事をくれたことへの感謝、挨拶を短く答えるのみ。それ以外は何も言わない清一郎に米兵たちも困り果てていたのだろう。誰からともなく清一郎を「フナサカ」と呼ぶようになった。
「フナサカは、スコシマエニイタ、コマッタオトコ。ダッソウ、モノコワス、デモスゴイオトコ。」
ベンジャミンの話によると、全身傷だらけでボロボロ、瀕死の状態で捕虜になったにも関わらず数日で回復し、医務室を破壊し、脱走を試み、自分を殺せと叫ぶ男がいたという。
ここにいる米兵が皆、知っている日本人の名前が、伝説のような海軍大将、山本五十六と舩坂しかいないので、とりあえず皆清一郎をフナサカと呼ぶようにしたらしい。
清一郎にとってはもう名前など何でも良く、米兵の間でなじんだその呼び名があれば不便もなかったので訂正しようという気も起きなかった。
数週間航海を行った後に清一郎たちを乗せた船がハワイの真珠湾にたどり着く。
ここは日本軍とアメリカ軍の戦いの火蓋が切って落とされた場所でもある。
ただ爆撃を受けたわりには整備されており、鎮守府にあった軍港のように皆忙しく、つつがなく働いていいるように見えた。
あの森も、こんな風に生まれ変われるのだろうか、ギラケルたちの恵みは戻るのだろうかと見つめていると、ベンジャミンが清一郎に話しかけてきた。
「フナサカ、オワカレ。ワタシハココマデ。ココカラはシューヨージョがメンドウミル。」
どうやらベンジャミンたちは洋上だけの護送部隊だったようで、これから先、収容所に清一郎たちは向かうようだ。
「……海野じゃ。海野、清一郎。」
「What’s……?」
「俺の名前は、海野清一郎じゃ。日本海軍、第三十根拠地隊におった。……親切の礼じゃ。ありがとう。」
清一郎が初めて名前と所属を明らかにしたことで、ベンジャミンは驚きつつも慌ててそれを紙に書き付けた。
それからすぐに収容所の人間らしい男たちに案内されるまま、清一郎たちはハワイの島内を歩いていった。
昼間らしい。パラオの明るい日差しがぼんやり見えて、どこからか男たちの声が聞こえる。
酷く曖昧なその声が何を話していたかは分からない。
ただ、清一郎はそのぼんやりとした光の向こうに勝の幻が見えて、会いたい、そちらに行きたい、声を聞きたい、とだけ考えて腕を伸ばした。
すると急に周りが騒がしくなり、誰かが清一郎の手を取る。
肉厚でゴツゴツした手が勝のものでないことはすぐに分かった。
「ま、さる……どこじゃ……。」
先ほど見えていた幻影が消えてしまい、清一郎は風が吹く度にピリっとした痛みを感じ、常夏の島なのに不思議と寒くなるような気がしながらゆっくり目を閉じた。
あの、郷から逃げた夜に握りあった手の感触が酷く懐かしくて、もう一度触れたいと願った。
次に目を覚ましたとき、清一郎は見知らぬ場所にいた。
洋上のようで、寝そべった床がゆっくりと揺れている。
ここはどこかと思い、起き上がりたかったが、それも叶わず、動く首だけで周辺を見回した。
自分のように寝そべった者が数人、それから立って動き回っているのは髪色の明るい、見覚えのある服を着た人々だ。
その服が敵である米兵のものだと分かって一気に意識が浮上するが、清一郎の身体はピクリとも動かない。
「あ……ぁ、あっ。」とただ喉を震わせる清一郎の掠れた声に気がついた米兵がこちらに寄ってきて顔を覗き込んできた。
見慣れない青いような灰色のような瞳は清一郎を観察するが、そこに殺意が感じられない。
怯えるべきなのか、怒るべきなのか、悲しむべきなのかもわからずにいると、その背後から黒い髪をした別の男が顔を出す。
「オハヨウゴザイマス。イタイトコロ、アリマスカ?」
男は黒い髪と鳶色の瞳で、色は清一郎たちと大きく変わらないが顔立ちは米兵に近い。
それにパラオの青年たちと同じくらい流暢に日本語を話していて清一郎はますます混乱した。
米兵の格好をした、日本人のようなアメリカ人のような顔をした男が日本語を話している。
清一郎はこの状況が意味することが全くわからず、もう一度辺りを見回して状況を確認しようとした。
「ワタシハ、ベンジャミン・フジオカ。ココはアメリカ兵のビョーインデス。」
そう言われて初めて清一郎は自分が捕虜になったのだと理解した。
信じられない気持ちだった。
あの時、自分は死ぬつもりで、英霊になって勝や源吉に報いるつもりでいた。
叫びたかったが、喉からは掠れた息しか出てこず、身体も思うように動かない。
これ見よがしに米兵の腰にぶら下がる銃をこの腹に、この頭に打ち付けてやりたいのにそれもできなくて、清一郎はただ泣いた。
戦争に……それも海軍に行き、やっと少しは徴兵逃れの汚名が雪げたというのに、今度はより重い生き恥を晒してしまった。
今度は“生き恥晒し”や“不忠者”の名前が勝や源吉を貶めるかと思うと不安で不安で、大の大人なのに衆人の中で泣き喚いた。
生きていても、やっぱり勝のもとには帰れない。
それだけが強く心に残った。
それからハワイの収容所に行くまでの間、ベンジャミンという男は根気強く話しかけてくれたが、清一郎は自分が所属していた部隊はおろか、名前も明かさなかった。
ただ、食事をくれたことへの感謝、挨拶を短く答えるのみ。それ以外は何も言わない清一郎に米兵たちも困り果てていたのだろう。誰からともなく清一郎を「フナサカ」と呼ぶようになった。
「フナサカは、スコシマエニイタ、コマッタオトコ。ダッソウ、モノコワス、デモスゴイオトコ。」
ベンジャミンの話によると、全身傷だらけでボロボロ、瀕死の状態で捕虜になったにも関わらず数日で回復し、医務室を破壊し、脱走を試み、自分を殺せと叫ぶ男がいたという。
ここにいる米兵が皆、知っている日本人の名前が、伝説のような海軍大将、山本五十六と舩坂しかいないので、とりあえず皆清一郎をフナサカと呼ぶようにしたらしい。
清一郎にとってはもう名前など何でも良く、米兵の間でなじんだその呼び名があれば不便もなかったので訂正しようという気も起きなかった。
数週間航海を行った後に清一郎たちを乗せた船がハワイの真珠湾にたどり着く。
ここは日本軍とアメリカ軍の戦いの火蓋が切って落とされた場所でもある。
ただ爆撃を受けたわりには整備されており、鎮守府にあった軍港のように皆忙しく、つつがなく働いていいるように見えた。
あの森も、こんな風に生まれ変われるのだろうか、ギラケルたちの恵みは戻るのだろうかと見つめていると、ベンジャミンが清一郎に話しかけてきた。
「フナサカ、オワカレ。ワタシハココマデ。ココカラはシューヨージョがメンドウミル。」
どうやらベンジャミンたちは洋上だけの護送部隊だったようで、これから先、収容所に清一郎たちは向かうようだ。
「……海野じゃ。海野、清一郎。」
「What’s……?」
「俺の名前は、海野清一郎じゃ。日本海軍、第三十根拠地隊におった。……親切の礼じゃ。ありがとう。」
清一郎が初めて名前と所属を明らかにしたことで、ベンジャミンは驚きつつも慌ててそれを紙に書き付けた。
それからすぐに収容所の人間らしい男たちに案内されるまま、清一郎たちはハワイの島内を歩いていった。
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