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第六十八章 『天候予定表』は雨

道ずれ

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「設営完了しました、出入り口を風下に向けました」
「風上側6キロの地点に、一個体を確認しました」
「動いていませんので、脅威とは認識できません」

「その個体は、どのようなものか?」
「ホモサピエンスの確率80パーセント、類人猿の確率20パーセント」

「ペルペトゥアさん、腰も痛いし、ちょっとトイレもしたいし、外の空気もすいたいし、出てみましょう」
 そういうと美子さん、小さいカバンから、コンパクトタイプの、倍率10倍の防水双眼鏡を取り出します。

 外は風がかなり強くなっています。
 ビューフォート風力階級での7、強風ぐらいです。 
「うずくまっていますね、どれどれ、背格好は私ぐらいですかね、衰弱しているように見えるわね、歩けないようね……」

「ペルペトゥアさん、ちょっと見てくれる、私にはどのような方かわからないのよ」
 ペルペトゥアは初めて見る機械で、どうすればいいのかわかりません。

「これね、遠くを見る機械なのよ、こちらに目を当ててね」

「おぉぉぉ、すごいですね、よく見えます」
「あぁ、ユニの娘ですね、こんなところにいるユニなんて、逃亡奴隷でしょうね」
「どうしてわかるの?」

「ユニの服装です、ユニは農園奴隷で、不要になったら処分されます」
「こんな荒野を、一人で歩くことはありえません、ほとんどは逃亡したものですので、捕まえれば自分の奴隷にできるのです」

「農園に売ることもできます、買い手があればの話ですが」
「もうすぐ夜がやってきます、その上、この雨風、流されるでしょう、どうされますか?」

「あの娘の運がいいということですね、縁があるのでしょう、とりあえずは、手を差し伸べてあげますか……」
「ティアマト様は、あの娘が気に入られたのですか?」

「誰であろうと、私の前で命とだえられるのは、寝覚めが悪いのですよ」
「ティアマト様はお優しいのですね……でも、この世界では、優しさは無用と思われますが……」

「私は利己的なのですよ、ただね、自身の欲望を皆の幸せに合致させようと願っているのです」
「私の欲望とは愚劣ですよ、美しい女を侍らして、エッチすることですからね」

 そう、第六天魔王とも、大自在天とも自称する私の欲望とは、皆様の歓喜を自らの歓喜とすること。
 なぜかその歓喜が、官能的なところに集中するのですけどね……

「では私の幸せは、ティアマト様の幸せとおっしゃるのですか?」
「そんな大層なことではないのよ、ペルペトゥアさんとエッチをすれば、ペルペトゥアさんは官能に酔いしれるでしょう」

「それは同時に、相手している私も官能に酔いしれるのですよ、エッチってそういうことでしょう?」
「互いに喜びを得ることこそ幸せでしょう?ペルペトゥアさん、おいしいですものね」 
 ウルウルしているペルペトゥアさんです。

「『夜の奴隷』ペルペトゥアは、どこまでもティアマト様に従います」
「もっともっと、ティアマト様のための、『夜の奴隷』になります!」
 どうやら地雷を踏んだようです。

「とにかくあのユニの娘、助けてあげましょうか、おいしそうですからね」
「もう、ティアマト様ったら……」

「ペルペトゥアさんとは親密な仲ですから、一つ私の力を見せてあげましょう、驚かないでね」

 美子さん、ナノマシンを作り出し、舞空術を発動したのです。
 ペルペトゥアはティアマトが何をしても、もう驚かないと心に決めました。

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