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第一章
14 馬車に揺られて
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「トムお兄様!あれは?」
「ん?ああ、あれは時計塔だね。時間になると鐘がなるんだ。200年くらい前に建造された、王都のシンボルだよ」
「ああ!やっぱりあれがそうなのね!王都が舞台の物語には必ず出てくるから、絶対に見ておきたかったのよ!」
「お嬢様、まだ馬車が走行中ですのでお掛け下さい。危ないですよ」
「はいはい」
「『はい』は一回です」
王都センシィノスは王宮のある中央区を囲むように貴族街の東区、商業街の西区、市民の暮らす南区、軍関係の施設がまとまる北区にわかれている。
今日は貴族街のある東区から王都の中央区を経由して西区へ向かう為、迎えに来たトマスとファインズ侯爵家の馬車に揺られていた。
今まで王都に来てもタウンハウスにいることが多く、他地区を見て回った事がほぼなかったロザリンドは、車窓から見える街並みに興奮を覚えずにはいられず、何かを見つけてはトマスに質問し、立ち上がってはルーシーに止められていた。
ロザリンドが育ったアランドルベルムは辺境の地で、接している隣国とは交流が盛んではなく、山や森に囲まれた天然の要塞都市だった。
その為、きらびやかな王都センシィノスは物語の舞台としての印象が強く、同じ国内で、兄夫婦が住んではいるが、どこか遠い世界のように感じていた。それ故にどこを見ても新鮮だった。
「王都は広いからね、一日ではとても案内しきれないし、今日はロザリンド嬢が興味がある場所をいくつか回ろうか。何か希望はある?」
トマスに希望を聞かれたロザリンドは「フッフッフッ」と怪しく笑いだし、1通の手紙を差し出してきた。
「わたくし、今日はこの手紙の通りに行動したいと思うの!」
ロザリンドは古びた封筒を取り出すと、目の前にデデン!と掲げてみせた。
「これは?」
「これは、わたくしのお祖父様からお祖母様に宛てられた手紙よ」
「お嬢様、人の手紙を勝手にお読みになったのですか…?」
「い、いいじゃないの。サラッと内容を確認しただけよ」
詰め寄るルーシーから目を逸らして、ロザリンドは口を尖らせる。その姿にトマスは思わず笑い出した。
「ハハハ。ロザリンド嬢は相変わらずのようだね。まあ、いいじゃないか。何が書いてあったの?」
「さすがトムお兄様!どこかの堅物侍女とは大違いね!」
「お嬢様…」
我が意を得たりと言わんばかりの表情を浮かべたロザリンドは、封筒から手紙を取り出すと二人に見えるように広げた。
―――――――――――――
女神が微笑む場所に 花は開く
黒き門には横から ただし近づき過ぎないで
真ん中から君と私を見下ろす尊老は 約束の刻を告げる
―――――――――――――
「これは……?」
「一見意味不明な内容、そう、これはきっと謎解きよ!」
「「…はい?」」
二人が困惑の表情を浮かべる中、ロザリンドは「これはきっと王都の謎を解き明かす暗号よー」などと興奮して立ち上がり、揺れた馬車によろけてトマスに倒れ込み、ルーシーに諌められた。
「ん?ああ、あれは時計塔だね。時間になると鐘がなるんだ。200年くらい前に建造された、王都のシンボルだよ」
「ああ!やっぱりあれがそうなのね!王都が舞台の物語には必ず出てくるから、絶対に見ておきたかったのよ!」
「お嬢様、まだ馬車が走行中ですのでお掛け下さい。危ないですよ」
「はいはい」
「『はい』は一回です」
王都センシィノスは王宮のある中央区を囲むように貴族街の東区、商業街の西区、市民の暮らす南区、軍関係の施設がまとまる北区にわかれている。
今日は貴族街のある東区から王都の中央区を経由して西区へ向かう為、迎えに来たトマスとファインズ侯爵家の馬車に揺られていた。
今まで王都に来てもタウンハウスにいることが多く、他地区を見て回った事がほぼなかったロザリンドは、車窓から見える街並みに興奮を覚えずにはいられず、何かを見つけてはトマスに質問し、立ち上がってはルーシーに止められていた。
ロザリンドが育ったアランドルベルムは辺境の地で、接している隣国とは交流が盛んではなく、山や森に囲まれた天然の要塞都市だった。
その為、きらびやかな王都センシィノスは物語の舞台としての印象が強く、同じ国内で、兄夫婦が住んではいるが、どこか遠い世界のように感じていた。それ故にどこを見ても新鮮だった。
「王都は広いからね、一日ではとても案内しきれないし、今日はロザリンド嬢が興味がある場所をいくつか回ろうか。何か希望はある?」
トマスに希望を聞かれたロザリンドは「フッフッフッ」と怪しく笑いだし、1通の手紙を差し出してきた。
「わたくし、今日はこの手紙の通りに行動したいと思うの!」
ロザリンドは古びた封筒を取り出すと、目の前にデデン!と掲げてみせた。
「これは?」
「これは、わたくしのお祖父様からお祖母様に宛てられた手紙よ」
「お嬢様、人の手紙を勝手にお読みになったのですか…?」
「い、いいじゃないの。サラッと内容を確認しただけよ」
詰め寄るルーシーから目を逸らして、ロザリンドは口を尖らせる。その姿にトマスは思わず笑い出した。
「ハハハ。ロザリンド嬢は相変わらずのようだね。まあ、いいじゃないか。何が書いてあったの?」
「さすがトムお兄様!どこかの堅物侍女とは大違いね!」
「お嬢様…」
我が意を得たりと言わんばかりの表情を浮かべたロザリンドは、封筒から手紙を取り出すと二人に見えるように広げた。
―――――――――――――
女神が微笑む場所に 花は開く
黒き門には横から ただし近づき過ぎないで
真ん中から君と私を見下ろす尊老は 約束の刻を告げる
―――――――――――――
「これは……?」
「一見意味不明な内容、そう、これはきっと謎解きよ!」
「「…はい?」」
二人が困惑の表情を浮かべる中、ロザリンドは「これはきっと王都の謎を解き明かす暗号よー」などと興奮して立ち上がり、揺れた馬車によろけてトマスに倒れ込み、ルーシーに諌められた。
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