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第一章
16 伯爵令嬢とルーシーの考察
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―――お約束もしていないのに、爵位が上の令嬢と令息に強引に同行するなんて…。お嬢様とトマス様がいいなら何も言えないけれど…。
ルーシーは今しがたやや強引に合流してきたジュリア・レベッカ・ノースをそれとなく観察した。
―――そもそも、お買い物と言っていたけど、本人も侍女もそれらしき物は何も持っていないし、他に荷物持ちをしているような使用人もいない。
と言うか、こんな所で馬車にも乗らず何をしていたのかしら?散策…な訳はなさそうだし、ちゃっかりお嬢様とトマス様の間に陣取っているし。まさか待ち伏せ…?
「トマス様は、今日は何のご用事なんですの?」
ジュリアがそうトマスに尋ねているのを聞き、ルーシーは『相手の予定も確認せずに強引に同行するなんて。合流する前にまずそこを確認すべきでしょう』と、それと気付かれないように、やや呆れた視線をジュリアとその侍女に送った。
「今日はロザリンド嬢に王都を案内してあげようと思ってね。先日の舞踏会で約束したんだ」
「あ、ああ、そう言えばそんな約束をされておいででしたわね…」
眉を寄せて明らかに機嫌が少し悪くなったジュリアの表情をルーシーは見逃さなかった。建ち並ぶ店や屋台に目を奪われて心ここにあらずな主人のロザリンドは全く気付いていなかったが。
―――なるほど、トマス様狙いだったのにお嬢様が現れて、面白くないと…。それでも、非常識なのには変わりはないけれど…。
「見て見て!トムお兄様!あの屋台!とても可愛いわ!」
ロザリンドがトマスの腕を引き、髪飾りやブローチなどのアクセサリーを扱う屋台を指差した。
「ちょっと覗いてみてもいい?」
ロザリンドはそう言うとキラキラと目を輝かせながら、屋台に並ぶ色とりどりのアクセサリーを手にとって眺めた。
「わぁ、これとっても可愛いわね!馬の形のブローチ!」
馬の形をした金のブローチは、目や鬣にロザリンドと同じエメラルドグリーンの小さな宝石が散りばめられている。それを手にとって「ほら、とっても綺麗よ!」と嬉しそうにトマスとジュリアに見せてきた。
その表情にトマスは頬を緩め、ジュリアは眉をさらに強く寄せた。
「あら、そんな素朴な品物がいいなんて、辺境伯領はよほど長閑な場所なんですのね。きらびやかな装飾品なんて珍しいのでしょう?」
ジュリアが扇子で口元を覆いながらそう告げると、キョトンとしたロザリンドは次の瞬間にっこりと笑った。
「そうなのよ!自然がとても豊かな素敵な所なの!わたくしとても好き!トムお兄様とジュリア様もぜひ今度来てね!」
嫌味を投げかけたつもりが全く効いていない上に、なんなら褒められたと受け取ったロザリンドに、ジュリアは絶句した。
「気に入ったならプレゼントさせてもらうよ。今日の記念に」
そして、トマスの言葉に今度は顔を真っ赤にして俯いたが、そんなジュリアの様子にロザリンドもトマスも気が付くことはなかった。
ルーシーは今しがたやや強引に合流してきたジュリア・レベッカ・ノースをそれとなく観察した。
―――そもそも、お買い物と言っていたけど、本人も侍女もそれらしき物は何も持っていないし、他に荷物持ちをしているような使用人もいない。
と言うか、こんな所で馬車にも乗らず何をしていたのかしら?散策…な訳はなさそうだし、ちゃっかりお嬢様とトマス様の間に陣取っているし。まさか待ち伏せ…?
「トマス様は、今日は何のご用事なんですの?」
ジュリアがそうトマスに尋ねているのを聞き、ルーシーは『相手の予定も確認せずに強引に同行するなんて。合流する前にまずそこを確認すべきでしょう』と、それと気付かれないように、やや呆れた視線をジュリアとその侍女に送った。
「今日はロザリンド嬢に王都を案内してあげようと思ってね。先日の舞踏会で約束したんだ」
「あ、ああ、そう言えばそんな約束をされておいででしたわね…」
眉を寄せて明らかに機嫌が少し悪くなったジュリアの表情をルーシーは見逃さなかった。建ち並ぶ店や屋台に目を奪われて心ここにあらずな主人のロザリンドは全く気付いていなかったが。
―――なるほど、トマス様狙いだったのにお嬢様が現れて、面白くないと…。それでも、非常識なのには変わりはないけれど…。
「見て見て!トムお兄様!あの屋台!とても可愛いわ!」
ロザリンドがトマスの腕を引き、髪飾りやブローチなどのアクセサリーを扱う屋台を指差した。
「ちょっと覗いてみてもいい?」
ロザリンドはそう言うとキラキラと目を輝かせながら、屋台に並ぶ色とりどりのアクセサリーを手にとって眺めた。
「わぁ、これとっても可愛いわね!馬の形のブローチ!」
馬の形をした金のブローチは、目や鬣にロザリンドと同じエメラルドグリーンの小さな宝石が散りばめられている。それを手にとって「ほら、とっても綺麗よ!」と嬉しそうにトマスとジュリアに見せてきた。
その表情にトマスは頬を緩め、ジュリアは眉をさらに強く寄せた。
「あら、そんな素朴な品物がいいなんて、辺境伯領はよほど長閑な場所なんですのね。きらびやかな装飾品なんて珍しいのでしょう?」
ジュリアが扇子で口元を覆いながらそう告げると、キョトンとしたロザリンドは次の瞬間にっこりと笑った。
「そうなのよ!自然がとても豊かな素敵な所なの!わたくしとても好き!トムお兄様とジュリア様もぜひ今度来てね!」
嫌味を投げかけたつもりが全く効いていない上に、なんなら褒められたと受け取ったロザリンドに、ジュリアは絶句した。
「気に入ったならプレゼントさせてもらうよ。今日の記念に」
そして、トマスの言葉に今度は顔を真っ赤にして俯いたが、そんなジュリアの様子にロザリンドもトマスも気が付くことはなかった。
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