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第二章
44 隣の部屋で
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辺境伯令嬢誘拐事件を起こしたゲイリーが拘束された翌日、ゲイリーの父、カートライト子爵は床に頭がめり込む勢いで土下座をしていた。
ロザリンドの父ジェームズと子爵は、寄宿学校や王都騎士団時代の先輩後輩にあたり、領地が隣同士という事もあって、それなりに交流のあった間柄であった。
子爵は、寡黙で粛々と任務や訓練をこなすジェームズの事を幼少期より尊敬していた。その為、自分の後継ぎとなるゲイリーを、ジェームズが指揮する辺境騎士団に入れたのだが、年端もいかない愛娘へのストーカー&プロポーズ騒動であえなく強制送還。そして今回の誘拐事件。
辺境騎士団を強制退団させられて以降、鍛錬を怠った情けない体つきの長男とは似ても似つかない、ガッシリとした肉体に険しい面差しのその中年男性は、人目も憚らず号泣しながら謝罪を続ける。
「誠にぃぃぃ!誠に申し訳ない!我が愚息が、とんでもない事をぉぉぉ!」
ほとんど雄叫びと言ってもいい音量のその謝罪を、隣の部屋で聞いていたロザリンド、アリソン、ウォーレンの3人。
「凄まじい声量だな」
「カートライトのおじ様、普段は落ち着いたいい人なんだけどねぇ」
「社交界でも悪い噂は聞かない御仁よね。長男の事以外は」
「王都騎士団にいる次男と三男はまともなのよ?なんでゲイリーだけあんななのか、本当に謎」
ルークに盛られた睡眠薬によって、爆睡したまま捕らえられたゲイリーの、間抜けな捕縛姿を思い出し、3人はため息をつく。
「お嬢様、お茶の準備が出来ました」
ルーシーがルークを連れて入ってきた。
侍従見習いのお仕着せを着せられたルークが、ティーワゴンを押しながらルーシーの後に続く。
「あらルーク、よく似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。ロザリンドお嬢さま」
ルークは恭しくお辞儀をすると、にっこり笑って履いている革靴をトンっと鳴らした。
「ふふふ、最高の靴でしょ?」
「はい。最高にカッコいいです」
ニヤッと頷きあうロザリンドとルークに、ルーシーは首を傾げた。
「別に普通の靴では…あら?ルーク、その靴は支給されたものではないわね?」
「いいのよルーシー。わたくしがあげたの。助けてくれたお礼」
一見するとごく普通に見える革靴だが、件の物置部屋で見た、ロザリンドの乗馬ブーツの事を思い出したウォーレンは、ロザリンドに胡乱な目を向ける。
「おい、まさか…」
「最高にカッコいい助手用の靴よ!」
「子供になんて物を履かせてるんだよ…」
二人のやり取りに「何の話?」と会話に入ったアリソンに、ウォーレンが耳打ちして、靴の構造について話す。
それを聞いたアリソンは一瞬目を見開くと、視線をルークの靴に落とし、ニッコリと笑う。
「なるほどね。一見ただの革靴にしか見えないのに、そんな機能が……」
「な!子供が履くようなものじゃないよな!?」
「いいわね!どんな靴でも仕込める様に出来るのかしら?」
「はぁ!?」
「わかってるわね、アリー!流石にヒールの付いた靴は難しいけど……」
嬉々として『隠しナイフ入り靴』について語り出したロザリンド、その話を微笑みながら熱心に聞き、時折仕込める物の大きさや形状などを質問するアリソン。そんなアリソンを見て、「絶対にろくなことを考えてない。暗器仕込の靴を作って、お抱えの標準装備にしようとかだ」と、ウォーレンは苦笑いした。
ロザリンドの父ジェームズと子爵は、寄宿学校や王都騎士団時代の先輩後輩にあたり、領地が隣同士という事もあって、それなりに交流のあった間柄であった。
子爵は、寡黙で粛々と任務や訓練をこなすジェームズの事を幼少期より尊敬していた。その為、自分の後継ぎとなるゲイリーを、ジェームズが指揮する辺境騎士団に入れたのだが、年端もいかない愛娘へのストーカー&プロポーズ騒動であえなく強制送還。そして今回の誘拐事件。
辺境騎士団を強制退団させられて以降、鍛錬を怠った情けない体つきの長男とは似ても似つかない、ガッシリとした肉体に険しい面差しのその中年男性は、人目も憚らず号泣しながら謝罪を続ける。
「誠にぃぃぃ!誠に申し訳ない!我が愚息が、とんでもない事をぉぉぉ!」
ほとんど雄叫びと言ってもいい音量のその謝罪を、隣の部屋で聞いていたロザリンド、アリソン、ウォーレンの3人。
「凄まじい声量だな」
「カートライトのおじ様、普段は落ち着いたいい人なんだけどねぇ」
「社交界でも悪い噂は聞かない御仁よね。長男の事以外は」
「王都騎士団にいる次男と三男はまともなのよ?なんでゲイリーだけあんななのか、本当に謎」
ルークに盛られた睡眠薬によって、爆睡したまま捕らえられたゲイリーの、間抜けな捕縛姿を思い出し、3人はため息をつく。
「お嬢様、お茶の準備が出来ました」
ルーシーがルークを連れて入ってきた。
侍従見習いのお仕着せを着せられたルークが、ティーワゴンを押しながらルーシーの後に続く。
「あらルーク、よく似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。ロザリンドお嬢さま」
ルークは恭しくお辞儀をすると、にっこり笑って履いている革靴をトンっと鳴らした。
「ふふふ、最高の靴でしょ?」
「はい。最高にカッコいいです」
ニヤッと頷きあうロザリンドとルークに、ルーシーは首を傾げた。
「別に普通の靴では…あら?ルーク、その靴は支給されたものではないわね?」
「いいのよルーシー。わたくしがあげたの。助けてくれたお礼」
一見するとごく普通に見える革靴だが、件の物置部屋で見た、ロザリンドの乗馬ブーツの事を思い出したウォーレンは、ロザリンドに胡乱な目を向ける。
「おい、まさか…」
「最高にカッコいい助手用の靴よ!」
「子供になんて物を履かせてるんだよ…」
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それを聞いたアリソンは一瞬目を見開くと、視線をルークの靴に落とし、ニッコリと笑う。
「なるほどね。一見ただの革靴にしか見えないのに、そんな機能が……」
「な!子供が履くようなものじゃないよな!?」
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「わかってるわね、アリー!流石にヒールの付いた靴は難しいけど……」
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