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深紅
しおりを挟む本日の診療が終わり、いつも通り締め作業をしていると、院長から呼ばれた。
「来月から正社員の須田さんが産休をとるんだけど、知ってるよね?」
「はい、知ってます。」
「それでね、今までは須田さんと空町さんで交互に土曜入ってもらってたんだけどね。来月からは、しばらく土曜全部出勤してね。」
「え!それは…え…」
「正社員は須田さんと空町さんしかいないからさ。正社員の募集はかけてるので、本当しばらくの間だけだよ。土曜は午前診療でしょ?午後からはゆっくりしなね。」
「えぇ…すぐ正社員雇ってくださいね。」
「任せて。じゃあ、よろしくね。」
「はい。では、失礼します。」
扉を閉め、私はため息をつきながら肩を落とした。
明日の土曜は私が出勤だし、来週は来月に入る…。まあ、早くて来月の半ば、遅くて再来月にはいつもの金曜を迎えることができるでしょう!たくさん稼いで、ちょっと高めの店でも行こうかな。
私は帰りのバスに乗り、窓から見える居酒屋を見た。しばらくバイバイになると思うと悲しくなる。
今日の夕飯は、自分でうどんを湯がき、ぶっかけにする。その上に、駅チカで買った天ぷらのお惣菜と七味をかけて完成。大量に買い置きしてあるホロ酔いからブドウ味をチョイス。
いただきます!ズルズルズルとうどんを勢いよくすする。外では、恥ずかしくてあまりできないが、ここは私の家。自分の一番気持ちいい食べ方で食べるのが基本中の基本。
天ぷらで好きな具は海老!好きすぎて尻尾まで食べちゃう。茄子や蓮根、かき揚げなど具沢山にのせるのが、子供の頃から憧れていた。大人は自分の好きなようにできるから幸せだね。
お腹が満たされる頃、ちょうどよくホロ酔いがふわっとまわってくる。あの夜のことをふと思い出した。
男の人に頭を撫でられたなんて、いつぶりだろうか。あれからもう数週間は経つ。普段は独りを寂しいとあまり思わないが、今日は静かな部屋にぽつんといることに寂しさを覚えた。
「こんな時は友人に会うに限るな。」
と言い、私は学生時代からの友人をご飯に誘った。そして、明日のお昼一緒にランチをすることになった。明日も頑張るぞー!と自分を励ます。
翌朝、お昼から友人とランチなので、少しオシャレな服を着た。メイクは仕事終わったらし直せばいいか。
今日もいつも通りクリニックで受付をする。扉が開く音がし、おはようございますと挨拶をして顔を見ると…あの日の彼が目の前にいた。
彼も「あの、初めてで…」と言いかけ、私の顔を見ると、えっと小さく声を漏らした。
お互いの時が止まった。
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