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第三の記録
幕間02
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「あくまでも、推測の域を超えませんけどね」
大久保が相好を崩しながら、そう言った。
「とはいえ、十分に筋が通ってるな」
原稿用紙に記されているのは、序章。彼に降りかかった怪異が妙に弱かったのも、本人に余裕があったのも、それは序章であったからだ、という説明は奇しくも辻褄があってしまう。
「となると、日誌に書かれている怪異に遭った人々は、逃れられていた訳か」
「断定は出来ませんが、日誌を発生期と定義するのなら、怪異の威力はまちまちだったかもしれません。例えば、仕事帰りに何かに追われたという男性は、得体の知れない街に入り込んでしまったと証言していますが、そこを怪異が生み出した異界だったとするのなら、彼は元の世界に『逃げた』事になりますよね」
「だが、その逃げも一時的なものだったかもしれない」
「ええ。何にせよ、怪異の最上級は現時点で、少女のノートだと思っています」
大久保は鋭い目つきで言い放った。
「何だか、探偵みたいだな、大久保」
後藤が軽く揶揄った。
「いやいや、僕は昔からホラーやミステリばかり読んでいたもので」
警察を志願したのは、そうした謂れなのかもしれない。
「それより、隣家についてですが、今はどんな人物が入居しているんですか?」
「それは俺も気になっていたんだ。ここで起きた事象である事は、もう間違いないだろうから、異変が起きたという隣家に何かしら手掛かりがあるのかもしれないとは、考えたんだが。抑、俺は隣の家に住む人間はおろか、隣に家があるかどうかさえも、意識した事がなかった」
「実は、僕も同じなんです。勿論家はあるんでしょうが、不思議な事に、有っても無くても、何も変わらない様な、そんな感覚です」
「だな。言われてみれば、そいつも玄妙だ。普通は、前くらい通り過ぎてもおかしくないのにな」
「ですね。我々はこの十年を超える勤務の中で、一度も隣家について話題が上った事はありませんでした」
「それは単に、隣に住む人間が静かだから、だとかではなさそうだな」
考えたくはないが、存在そのものを失念していたという事になる。
世の中のどんな人間であっても、普通は隣に住む者の情報ぐらいは、多少なりとも知っている。たとえ、本意でなかったとしても、何かしらは知り得ているのが常だ。
其れに、我々は二人も揃って、気が付いていなかったという訳だ。即ち、普通とは呼べない。
二人は自然と目を合わせた。沈黙が続いた。
「まあ、そろそろ次の資料を探そうじゃないか」
耐え兼ねて、後藤が言った。
「そうですね。ですが、実は僕、既に先程検めていた中で、見つけているんです」
「ほう。なら、早速それを読もう」
「僕が見つけたとほぼ同時に、後藤さんが日誌を見つけられたので言いそびれてしまったんです。そしてこれは紙に起こされたものではありません」
そう言って、大久保が本棚から取り出してきたのは、古びたカセットテープであった。
背には、1992年と記されていた。
以下の話は、カセットテープに記録されていた音声をそのまま文字に起こしたものである。言葉ではない音などは、括弧で説明している。但し、中には、どう足掻いても聞き取れないものや、何の音であるかが全く判別できないものもあったので、該当の部分に関しては、記号を付けたり、不明と記している部分があることを、予めお断りしておく。
大久保が相好を崩しながら、そう言った。
「とはいえ、十分に筋が通ってるな」
原稿用紙に記されているのは、序章。彼に降りかかった怪異が妙に弱かったのも、本人に余裕があったのも、それは序章であったからだ、という説明は奇しくも辻褄があってしまう。
「となると、日誌に書かれている怪異に遭った人々は、逃れられていた訳か」
「断定は出来ませんが、日誌を発生期と定義するのなら、怪異の威力はまちまちだったかもしれません。例えば、仕事帰りに何かに追われたという男性は、得体の知れない街に入り込んでしまったと証言していますが、そこを怪異が生み出した異界だったとするのなら、彼は元の世界に『逃げた』事になりますよね」
「だが、その逃げも一時的なものだったかもしれない」
「ええ。何にせよ、怪異の最上級は現時点で、少女のノートだと思っています」
大久保は鋭い目つきで言い放った。
「何だか、探偵みたいだな、大久保」
後藤が軽く揶揄った。
「いやいや、僕は昔からホラーやミステリばかり読んでいたもので」
警察を志願したのは、そうした謂れなのかもしれない。
「それより、隣家についてですが、今はどんな人物が入居しているんですか?」
「それは俺も気になっていたんだ。ここで起きた事象である事は、もう間違いないだろうから、異変が起きたという隣家に何かしら手掛かりがあるのかもしれないとは、考えたんだが。抑、俺は隣の家に住む人間はおろか、隣に家があるかどうかさえも、意識した事がなかった」
「実は、僕も同じなんです。勿論家はあるんでしょうが、不思議な事に、有っても無くても、何も変わらない様な、そんな感覚です」
「だな。言われてみれば、そいつも玄妙だ。普通は、前くらい通り過ぎてもおかしくないのにな」
「ですね。我々はこの十年を超える勤務の中で、一度も隣家について話題が上った事はありませんでした」
「それは単に、隣に住む人間が静かだから、だとかではなさそうだな」
考えたくはないが、存在そのものを失念していたという事になる。
世の中のどんな人間であっても、普通は隣に住む者の情報ぐらいは、多少なりとも知っている。たとえ、本意でなかったとしても、何かしらは知り得ているのが常だ。
其れに、我々は二人も揃って、気が付いていなかったという訳だ。即ち、普通とは呼べない。
二人は自然と目を合わせた。沈黙が続いた。
「まあ、そろそろ次の資料を探そうじゃないか」
耐え兼ねて、後藤が言った。
「そうですね。ですが、実は僕、既に先程検めていた中で、見つけているんです」
「ほう。なら、早速それを読もう」
「僕が見つけたとほぼ同時に、後藤さんが日誌を見つけられたので言いそびれてしまったんです。そしてこれは紙に起こされたものではありません」
そう言って、大久保が本棚から取り出してきたのは、古びたカセットテープであった。
背には、1992年と記されていた。
以下の話は、カセットテープに記録されていた音声をそのまま文字に起こしたものである。言葉ではない音などは、括弧で説明している。但し、中には、どう足掻いても聞き取れないものや、何の音であるかが全く判別できないものもあったので、該当の部分に関しては、記号を付けたり、不明と記している部分があることを、予めお断りしておく。
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