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閑話 ギルド受付嬢の嘆き
しおりを挟むなんだか最近苦情が多くなったと思う。
今まで何の問題も無かった浅層や中層で魔物が多いっんですって。そんな事言われても、私の知ったことじゃないわ。
魔物がいないより良いでしょ、稼げるんだから。
自分の身の丈にあった所で魔物狩りすれば問題ないのに。皆自分が強いと思って勘違いしてる人が多いんだから困っちゃうわ。
それにアタシだってギルドの上が決めた、レベルと年齢と好みの魔物と目標額から~割り出した推奨地域を進めてるだけなんだから。
「あ、ヤンくん。この間のクエストどうだった? 」
ちょっと憂鬱な受付業務をしていると、お気に入りの冒険者がやってきた。でもちょっと浮かない感じ?
この人はヤン何某くん。体格は大きいんだけど、まだ少年っぽさが抜けない、まだまだ甘えんぼうな新人って感じ、まあそこが良いのよね。
受け答えは初々しく、素直で明るい、何よりカワイイ。美少年って感じじゃないけどなんだか保護欲をそそられる。将来はワイルドカワイイになると思う。
将来有望株。まぁ冒険者としてじゃなく私のお婿さん候補として、なんだけど。
なんだかヤンくん泣きそうな顔をしている。そういえば身体のあちこち怪我をしている。カワイソウ、お姉さんが優しく介抱して上げるわ。
「ヤンくん怪我をしたの? 私が治療してあげるわ、奥の部屋に行き――ッ!?」
「ニーナちゃんヒドイよ」
ん、なんだか怒ってる? 雲行きが怪しいわね。
「この間のクエストお勧めだって言うからに行ってみたら、魔物の数がけっこう多くって、しかもレベルが二つも三つも上の魔物も出たんだよッ! 狙いの穴ネズミも数が多すぎて大変だったのに、ハードリザードとかヤンキーゴブリンまで出て死ぬかと思っちゃった。仲間の皆も怪我だらけさ」
そんな事言われても。
でもそんなに出たなら、けっこう稼いだんでしょうね。
「え、大変だったでしょう。それで素材は、換金するんでしょ」
いっぱい稼いだんなら、なんか奢ってもらおうかしら。
「素材なんて持って帰れないよ、命からがら帰ってきたんだから」
ヤンくん、弱すぎ~。
自分でやりたいって言ってクエストの紙持ってきたくせに。まあ、ヤンくんのレベルよりもちょっと上だったかもしれないけど。
最近こんな苦情ばっかり。
魔物の数が多いとか、違う魔物が多かったとか、情報が違うって。
冒険者は自己責任の自営業だから、自分の腕、レベルに合う場所で自分の才覚で稼ぐものなのよ。ってどっかの誰か、ベテラン冒険者が言ってたわ。そのとおりだと思う。
事前に情報をきちんと集めておくのも仕事の内よ。
みんな子供じゃないんだから、甘ったれた事言って、自分のミスを他人のせいにしないでほしい。
「もうこんなダンジョン来ないから、冒険者辞める」
適当にあしらってたらヤンくんがそんな事言い出した。
そんな、一回失敗したから辞めるって。
ヤンくんってこんな甘ったれだったんだ、ゲンメツ~。
やっぱヒアー・ハートかな。腕はソコソコあるし、顔もまあまあ。それに実はアイツの家はなんだかお金持ちみたいなのよね。
ただ、けっこう勘違いで図に乗るタイプだから、あの性格がなければ良いんだけどね。
権力があるから、遊びでギルマスと一回だけデートした事もあったけど、筋肉の話しかしなかったから、アレはないわね。まあ権力とか名前は使わせてもらうけど。
他に誰かいないかな、なんて思ってたら、ヤンくん怒って出てっちゃった。
あれ、レベッカ先輩が追いかけて行ったわ。まあ行き遅れのお局受付嬢としては、若手と話できるきっかけ無いだろうから、丁度良いチャンスだと思ってるのかしら。
まあ、ヤンくんなんて、もうどうでもいいからあげるわ。
どっかにいい人いないかしら。
この間来てたダンジョン入りたがりの子供はカワイかったけど歳が若すぎるし、あと十年は待てないわ。
はぁ、最近憂鬱だな。
※
最近、なんだかダンジョンの様子がおかしいみたい。
「ニーナちゃんヒドイよ、この間のクエストお勧めだって言うからに行ってみたら、魔物の数がけっこう多くって、しかもレベルが二つも三つも上の魔物も出たんだよッ! 狙いの穴ネズミも数が多すぎて大変だったのに、ハードリザードとかヤンキーゴブリンまで出てきて死ぬかと思っちゃった。仲間の皆も怪我だらけさ」
あ、この人、ニーナさんの担当で、確か、ヤンガスさん。まだ経験が足りないけど実戦を積めば将来有望だって聞いたことがある。
この人も、ダンジョンでレベルが高い魔物と遭遇したのかしら。けっこう怪我してるみたい。
「もうこんなダンジョン来ないから。冒険者辞める」
あれ、ニーナさんのお気に入りだって聞いてたけど、ケンカしちゃった。ニーナさんは追いかける気はなさそうだし。このまま帰しちゃ本当に冒険者辞めちゃう。
「ヤンガスさん待って」
「レベッカさん? 」
ギルドの出入り口で追いついて、外のテラスのベンチに座って話を聞く。
「ダンジョンの状況、詳しく教えてもらえますか」
聞いてみると、どうやら最近、多くの冒険者が言っていることと同じ状況のようだ。
曰く、クエストが出ている情報のとおり行ってみると、魔物の種類が違い、レベルも少し強めなんだとか。
安全マージンをとっていたから、相手のレベルが想定より上だったけど倒せない事はなかった。だけど思わぬ相手だったので、なかなか倒せずけっこう怪我をしたらしい。
「こんなことが続くなら、僕もう冒険者辞めます」
半分泣きながら言うヤンガスさんに、私は何て言うべきか。
「そうね、辞めちゃえば」
本音を言えば辞めて欲しくない。でもダンジョンの魔物狩りは強制できるものでは無い。それこそ命がかかっているのだから。
「えっ」
「辞めれば命の危険は無いから」
「……」
私の言葉に驚いた顔をするヤンガスさん。止められると思っていたのかもしれない。
それはちょっと考えが甘いわ。
冒険者の仕事って、自分の技量と魔物のレベル、そして稼ぎたいお金、全てを天秤にかけて自分で決めて挑むものなんだって、私の尊敬する冒険者が言っていた。
自分で決めて稼ぐ自由もあれば、それで命を落とすのもまた……自由。
つまり自己責任。
ギルドが勧めたからやったのに……とか、稼げるからやったのに……とか、それは言い訳。それで何かあっても責任を負うのは自分。最悪支払うのは自分の命。
だから他人任せにしないで、自分の考えでダンジョンに潜るかどうか考えるように、私は言ってきたわ。
今この場でヤンガスさんに何を言えば良いか、特に言わない、決めるのは自分だから。最悪の対価は自分の命だから。
でも、そういうギリギリの死線を乗り越えてこそ成長する事もまた事実。あの人はそうだった。
不慮の事故で深層まで落ちて、死に物狂いで戦って戻ってきた。そして、戻ってきた時にはギルド最強冒険者になっていた。
だから、そこまでギリギリではなくても、少し背伸びして頑張る人がいれば応援したいとも思うわ
「でも、もう少しだけ頑張ってみる?」
「えっ? 」
捨てられた子犬みたいな顔をしていたヤンガスさんが顔を上げる。
「命がかかっているから、もう一度ダンジョンに潜って、なんて強制はしないわ。良く考えて欲しいの。でももう少し頑張ってみようって言うのなら、お姉さん力になってあげるわ」
「レベッカさん……」
「ヤンガスさんの言うとおり、今このダンジョンは、全体的に魔物のレベルが上がってるし、発生位置もちょっと変わってるから、様子を見たほうが良いのは事実ね。でも、原因が分かればまた安心して潜れるダンジョンになると思うわ」
「でも……」
ヤンガスさんは、俯いて怪我をした腕を見る。けっこう恐い思いしたんだろうな。
「ギルドでも、冒険者から新しい情報を集めて、なるべく正確な情報を更新していく。私達が、冒険者の皆さんが安心して潜れる情報を提供するわ」
「うん……」
「でも、できそうもない事をしようと言うなら、全力で止めます。出禁にしてでも」
本当は出禁になんてするつもりは無いけど。
だって、それは冒険者の自由を束縛する事、自由を愛する冒険者とは真逆の行為。
でも死ぬよりはずっとましだとも思う。無茶をするなら止めます。
「出禁って。あれ、この間初めて聞いたけど。みんなの前で告知されるんでしょ。それは恥ずかしいからやめてほしい」
ちょっと、あれが普通だと思わないで。それはまずいわ、このダンジョンから冒険者いなくなっちゃう。
「いや出禁は冗談、私はそんな事しないわ。それにこの間のジーンさんのことだってやりすぎだと思うわ」
「そうなんですか」
「そうです。まあ、それはともかく。少し様子を見て、本当に辞めるのはその後でも良いんじゃないでしょうか」
「うん、レベッカさんにそう言われたら、もうちょっと続けてもいいかなって思った」
まだ二十歳には間のある少年が顔を赤くしながらそう言う。
トゥンク。
ちょっと胸が高鳴った。五歳以上は年下の男の子なのに。いけない、自分には心に決めた人がいるのに。
そちらも五歳以上歳が離れているけど、女性より年上なら問題ないわよね。
ヤンガス君と笑顔で別れ受付に戻る。
ニーナちゃんの窓口には相変わらず行列が出来ている。
「でも今日は様子が違うみたいですよ」
ニーナさんと同期の、でもあまり仲良くなさそうな受付嬢が、ちょっと嬉しそうに口元を押さえて教えてくれた。
「ニーナが教えたお勧めスポット、ことごとく魔物が強くなっていたんですって、今は苦情の嵐です」
この娘はニーナさんとそりが合わないみたいで、ニーナさん一人が悪いみたいに言うけど、本当はダンジョン全体が少し危険になっているみたい。
ただ、ニーナさんの勧め方がちょっとオーバーだったのは否めないけど。
私はとにかくこの状況を上司へ報告するため奥の部屋へと向かった。
出来るなら、ギルマスではなく、サブマスに伝えたいな。
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