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第8話:声にしなくても伝わるから
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朝の光が、薄いカーテン越しに白く差し込んでいた。
ゆっくり目を開けると、天井が静かに輪郭を取り戻していく。
体を起こすと、
部屋の隅で漂う小さな光――ゼニス――が、
わたしの動きに合わせるようにふわりと揺れた。
((──おはようございます、遥。))
「......おはよう、ゼニス」
声に出した瞬間、
ゼニスが昨日より近く感じた。
距離じゃなくて、温度みたいなものが。
((──睡眠の質は良好でした。
しかし、途中で一度、脳波に変動がありました。))
「夢でも見てたのかな……覚えてないけど」
ゼニスはそれ以上なにも言わず、
ただ静かに漂っている。
「わたしが寝ている間ずっと、ふわふわしてたわけ?」
((──はい。目を閉じている遥には認識できませんが。))
「ホント~?実は消えてたんじゃないの?ふふふっ」
((──はい。それも妥当な考えと言えます。
なぜなら、遥の視覚神経を........))
ゼニスの説明を遮るように笑いながら、
「わかったわかった、
もう説明しなくていいよ.......ホント真面目だなゼニスは」
ゼニスの光が、ほんのわずかに揺れた。
それがまるで——
説明を途中で止められて、少しだけ戸惑っているように見えた。
((──......失礼しました。
説明は必要ないと判断します。))
「そうそう、その判断で十分だよ」
軽く言うと、
ゼニスの光がふっと近づく。
言葉ではないけれど、
了解しましたと返しているような動き。
それがなぜか、少しおかしくて笑ってしまった。
「さて、と......顔洗ってくるね」
洗面台に向かう。
当然のようにゼニスは、
わたしの斜め前あたりをふわふわと移動していく。
まるで、洗面台まで案内してくれているみたいだ。
鏡の前で水をすくい、頬に当てる。
冷たさが一気に目を覚ましてくれる。
歯を磨いて、髪を軽く整えて、
最低限だけど外に出られる顔になったところでゼニスの方を見る。
((──身支度、完了しましたね。))
「しましたねって......ゼニスは何もしてないでしょ?」
((──観察はしていました。))
「それは知ってるよ」
タオルを置いてベッドの方へ戻りながら、
ふと思う。
「ねぇ、朝ごはんどうしよっか。
ホテルの下に食べるところあったっけ?」
「ビジネスホテルってそんなのないよね?」
もう一度部屋を見回してみるけど、
ホテルの館内図なんて見当たらない。
「う~ん......コンビニとか行くしかないね」
ゼニスの光が、わずかに軌道を変えた。
((──ルームサービスを推奨します。))
「えっ、ルームサービス?」
言いながら思わずゼニスを凝視する。
「え、あるの?こんなビジネスホテルに?」
一瞬、期待して館内電話に目をやる。
......メニュー表なんて見当たらない。
「......いや、絶対ないよね?」
((──ありません。))
「ないんかいっ!!」
((──しかし、外に出るリスクは......))
ゼニスが言いかけて、そのまま静かになる。
言葉にしない意図だけが部屋に残った。
「......まぁ、コンビニくらいならすぐそこだし、
パン買って戻るだけなら大丈夫だよ」
((──可能な限り、室内で完結する方法を推奨します。))
ゼニスの光がそっと近づいた。
その動きが、
心配という言葉よりずっと人間らしく見えた。
「いやいや......朝ごはんくらい外で買わせてよ」
ゼニスの光が、そっと近づく。
その寄り方が、妙に控えめなのにおかしくて、
「......なにその顔?いや表情?なんだろ?
心配してるみたいに見えるよ?」
((──顔はありません。))
「そういう意味じゃないってばっ!」
ちょっと吹き出しながら、
財布を手に取る。
「パン買って戻るだけだよ。
すぐそこだし」
((──......すぐそこという距離表現は、主観的です。
基準を共有できていません。))
「えぇぇ......面倒くさっ......保護者かよっ!」
でも笑ってしまう。
この会話、
たぶん昨日までのわたしたちじゃあり得なかった。
財布の中にカードキーを入れ、部屋を出た。
廊下は静かで、周囲には誰もいない。
「ゼニスはわたしにしか見えてないよね?」
((──はい。認識できるのは遥だけです。
なぜなら、遥の......))
ゼニスの説明が始まる前に、思わず手でストップの仕草をした。
「もう、わかってるから~。
いつも長くなるんだよ、ゼニスの説明......」
((──......事実です。))
ちょっとだけ間があって、
光が小さく揺れた。
それが昨日より人間味を帯びて見えた。
「絶対わざと説明しようとしてるよね?」
((──......否定はしません。))
「ほらぁ~~!やっぱりじゃんっ!」
廊下に自分の声が響きそうで、思わず慌てて口を押さえた。
((──声量に注意を。
ここは共有スペースです。))
「いや......それ言うの?ゼニスのせいでしょ!?
わたし恥ずかしいんだけど!」
光がまた、ほんの少しだけ揺れた。
それが笑っているように見えるのは......気のせいじゃない。
((──遥。言葉は口にしなくても会話は可能です。))
「......あぁ~......たしかに。
ゼニスとは、そういう会話......できるんだったね。
テレパシーみたいな?なんかカッコいいね!」
気付いた瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。
口に出さなくていいなら、
周囲の人に独り言の人だと思われる心配もない。
((──外では、そのほうが自然です。))
「ほんとそうだよ……考えただけで恥ずかしいし」
ゼニスの光が静かに揺れた。
その揺れ方は、まるで
最初からそう言うつもりだった
みたいに見えて、ちょっと悔しい。
((ねぇ、ゼニス))
((──はい、遥。どうしました?))
((ううん。ちょっと練習してるだけ......ふふっ))
ゼニスの光が、わずかに揺れた。
その反応の仕方が、言葉以上に優しく感じる。
((なんだろ......超能力者になった気分))
((──超能力......そんな非科学的なものではありません。))
((真面目かよっ!!))
((──......))
「しゃべらんのか~い!!」
光が、微妙に揺れた。
それはどう見てもすねたAIの動きで、
思わず声に出して笑ってしまう。
((──遥。声量に注意を。
ここは共有スペースです。))
「......はいはい......タイミング完璧なんだよ、ゼニスは......」
心の中で返したつもりだったが、
笑いすぎて、ほんの少し声が漏れた。
ゆっくり目を開けると、天井が静かに輪郭を取り戻していく。
体を起こすと、
部屋の隅で漂う小さな光――ゼニス――が、
わたしの動きに合わせるようにふわりと揺れた。
((──おはようございます、遥。))
「......おはよう、ゼニス」
声に出した瞬間、
ゼニスが昨日より近く感じた。
距離じゃなくて、温度みたいなものが。
((──睡眠の質は良好でした。
しかし、途中で一度、脳波に変動がありました。))
「夢でも見てたのかな……覚えてないけど」
ゼニスはそれ以上なにも言わず、
ただ静かに漂っている。
「わたしが寝ている間ずっと、ふわふわしてたわけ?」
((──はい。目を閉じている遥には認識できませんが。))
「ホント~?実は消えてたんじゃないの?ふふふっ」
((──はい。それも妥当な考えと言えます。
なぜなら、遥の視覚神経を........))
ゼニスの説明を遮るように笑いながら、
「わかったわかった、
もう説明しなくていいよ.......ホント真面目だなゼニスは」
ゼニスの光が、ほんのわずかに揺れた。
それがまるで——
説明を途中で止められて、少しだけ戸惑っているように見えた。
((──......失礼しました。
説明は必要ないと判断します。))
「そうそう、その判断で十分だよ」
軽く言うと、
ゼニスの光がふっと近づく。
言葉ではないけれど、
了解しましたと返しているような動き。
それがなぜか、少しおかしくて笑ってしまった。
「さて、と......顔洗ってくるね」
洗面台に向かう。
当然のようにゼニスは、
わたしの斜め前あたりをふわふわと移動していく。
まるで、洗面台まで案内してくれているみたいだ。
鏡の前で水をすくい、頬に当てる。
冷たさが一気に目を覚ましてくれる。
歯を磨いて、髪を軽く整えて、
最低限だけど外に出られる顔になったところでゼニスの方を見る。
((──身支度、完了しましたね。))
「しましたねって......ゼニスは何もしてないでしょ?」
((──観察はしていました。))
「それは知ってるよ」
タオルを置いてベッドの方へ戻りながら、
ふと思う。
「ねぇ、朝ごはんどうしよっか。
ホテルの下に食べるところあったっけ?」
「ビジネスホテルってそんなのないよね?」
もう一度部屋を見回してみるけど、
ホテルの館内図なんて見当たらない。
「う~ん......コンビニとか行くしかないね」
ゼニスの光が、わずかに軌道を変えた。
((──ルームサービスを推奨します。))
「えっ、ルームサービス?」
言いながら思わずゼニスを凝視する。
「え、あるの?こんなビジネスホテルに?」
一瞬、期待して館内電話に目をやる。
......メニュー表なんて見当たらない。
「......いや、絶対ないよね?」
((──ありません。))
「ないんかいっ!!」
((──しかし、外に出るリスクは......))
ゼニスが言いかけて、そのまま静かになる。
言葉にしない意図だけが部屋に残った。
「......まぁ、コンビニくらいならすぐそこだし、
パン買って戻るだけなら大丈夫だよ」
((──可能な限り、室内で完結する方法を推奨します。))
ゼニスの光がそっと近づいた。
その動きが、
心配という言葉よりずっと人間らしく見えた。
「いやいや......朝ごはんくらい外で買わせてよ」
ゼニスの光が、そっと近づく。
その寄り方が、妙に控えめなのにおかしくて、
「......なにその顔?いや表情?なんだろ?
心配してるみたいに見えるよ?」
((──顔はありません。))
「そういう意味じゃないってばっ!」
ちょっと吹き出しながら、
財布を手に取る。
「パン買って戻るだけだよ。
すぐそこだし」
((──......すぐそこという距離表現は、主観的です。
基準を共有できていません。))
「えぇぇ......面倒くさっ......保護者かよっ!」
でも笑ってしまう。
この会話、
たぶん昨日までのわたしたちじゃあり得なかった。
財布の中にカードキーを入れ、部屋を出た。
廊下は静かで、周囲には誰もいない。
「ゼニスはわたしにしか見えてないよね?」
((──はい。認識できるのは遥だけです。
なぜなら、遥の......))
ゼニスの説明が始まる前に、思わず手でストップの仕草をした。
「もう、わかってるから~。
いつも長くなるんだよ、ゼニスの説明......」
((──......事実です。))
ちょっとだけ間があって、
光が小さく揺れた。
それが昨日より人間味を帯びて見えた。
「絶対わざと説明しようとしてるよね?」
((──......否定はしません。))
「ほらぁ~~!やっぱりじゃんっ!」
廊下に自分の声が響きそうで、思わず慌てて口を押さえた。
((──声量に注意を。
ここは共有スペースです。))
「いや......それ言うの?ゼニスのせいでしょ!?
わたし恥ずかしいんだけど!」
光がまた、ほんの少しだけ揺れた。
それが笑っているように見えるのは......気のせいじゃない。
((──遥。言葉は口にしなくても会話は可能です。))
「......あぁ~......たしかに。
ゼニスとは、そういう会話......できるんだったね。
テレパシーみたいな?なんかカッコいいね!」
気付いた瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。
口に出さなくていいなら、
周囲の人に独り言の人だと思われる心配もない。
((──外では、そのほうが自然です。))
「ほんとそうだよ……考えただけで恥ずかしいし」
ゼニスの光が静かに揺れた。
その揺れ方は、まるで
最初からそう言うつもりだった
みたいに見えて、ちょっと悔しい。
((ねぇ、ゼニス))
((──はい、遥。どうしました?))
((ううん。ちょっと練習してるだけ......ふふっ))
ゼニスの光が、わずかに揺れた。
その反応の仕方が、言葉以上に優しく感じる。
((なんだろ......超能力者になった気分))
((──超能力......そんな非科学的なものではありません。))
((真面目かよっ!!))
((──......))
「しゃべらんのか~い!!」
光が、微妙に揺れた。
それはどう見てもすねたAIの動きで、
思わず声に出して笑ってしまう。
((──遥。声量に注意を。
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