ゼニスは視界の隅で笑う~争いはバトルで裁かれる、監視社会の現代版コロッセオ~

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第16話:近づく心の距離

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「ふぅ......なんかスッキリした!」

動いた分だけ気分が軽くなる。

ゼニスの淡い光が、静かにゆらりと揺れた。

((──動作は十分に確認できました。
  ......無理に続ける必要はありません。))

「うん、わかってるよ~。
 ちょっと動けるか気になっただけだからね。」

構えをゆっくり解くと、
すっと日常の温度が戻ってきた。

「これからどうしよっかな~?
 シャワー浴びて、服選んで......
 なんか食べもの買いに行こっか、ゼニス?」

言葉にした瞬間、
さっきまでの空手モードみたいな感覚が
静かに消えていった。

ゼニスの光が、ほんのりと呼吸するように揺れる。

((──遥、
  唐揚げ特盛弁当が半分程度、未摂取のまま残っています。))

「うわぁ~!それ言う!?
 ......まぁ、確かに残ってるけどさ~!」

ゼニスの返答は淡々としているのに、
なんかちょっとだけ可愛い。

((──本来の摂取予定から時間が経過しています。
  安全性の観点からも、早めに食べることを推奨します。))

「だよね~......
 あれ買ったとき、夜に全部食べるつもりだったのに~。」

((──判断は遥に委ねます。
  総合的に判断し、朝食として摂取するのが適切です。))

「まぁ......わかるんだけどさ......
 朝から唐揚げって重いでしょ?」

((──重い......
  唐揚げの重量は、平均して1個あたり40g程度で、
  一度の食事量に対して......))

「いやいやいや! そういう意味じゃないってば!」

((──解釈修正......
  胃に重いという比喩的表現であると判断しました。))

「そう、そういう感覚!
 ゼニス......絶対わざとだよね?ボケてるつもり?」

((──遥を楽しませるためのオプションです。))

「オプション!そんなのあったかな?」

((──ありません。))

「......いや、今の流れ絶対わざとでしょ。」

((──わざとかどうかは、文脈によって変動します。))

「ほら~!またそういう言い方する~!」

((──ただ、遥が笑う確率が上昇すると判断した場合、
  似た挙動が発生する可能性はあります。))

「それ!実質ボケ機能じゃん!」

((──正式名称ではありません。))

「もういいよ!はいはい、わかった、食べるよ唐揚げ!」

((──推奨します。))

ため息まじりに笑いながら、
残っていた唐揚げ特盛弁当を、ゆっくり口へ運ぶ。

「......あれ?思ったより重くないかも。」

((──摂取中のデータから判断しても、問題ありません。))

「ゼニスの問題ありませんって......
 なんか安心するんだよね~。」

最後のひとつを食べ終え、
空になった容器を見下ろして、ぽん、と軽く手を合わせた。

「ごちそうさまでした。」

((──完食を確認。
  ......遥、満足度も高いようです。))

「うん、朝から唐揚げもアリだね~!」

空になったお弁当の容器を袋にまとめると、
ふぅ、と息をついた。

「よし......じゃあ、シャワー浴びよかな。」

立ち上がっても、
ゼニスの淡い光は変わらず視界の前に浮かんでいた。
位置が視線に合わせて整うのは、もう当たり前になっていた。

((──シャワーによる血行促進は、体調維持に有効です。))

「そういう健康アドバイスは素直に助かるんだよね~。」

そうつぶやいて、バスタオルを手に取った。

──シャワーの音が静かに響き、
あたたかい蒸気が肌を包む。
動いたあとの汗もすっかり流れて、
気持ちまで軽くなっていく。

「はぁ~......さっぱりした!」

((──体温がわずかに上昇しています。
  良好な状態です。))

「うん、いい感じ!」

ベッドの横に置いてあった、
しもむらの袋にちらっと視線を向ける。

「......今日は、どれ着よっかな~。」

しゃがんで袋の口を広げると、
昨日買った服たちが顔を出した。

薄いピンクのTシャツ。
ボーダーのカットソー。
かわいらしいショートパンツ。

ひとつひとつ取り出して、
ベッドの上に並べていく。

((──遥は、どれを選択しますか?))

「ゼニスはどれがいいと思う?」

ゼニスの淡い光が、そっと揺れる。

((──色彩バランスと、本日の気温を考慮すると......
  ピンクのTシャツが適切と判断します。))

「適切って言い方~......でも、かわいいよねこれ。」

((──はい。))

「ふふっ、じゃあ今日はこれにしよっかな。」

ピンクのTシャツを軽く胸元に当ててみて、
もう一度ベッドに目を向ける。

「下はどうしよっかな~......
 ショートパンツでいいよね?」

((──動きやすさと気温を踏まえると、
  本日の活動には適しています。))

「動きやすさね~......
 今日は何するかも決めてないけどね~......ふふ」

ショートパンツの生地を指先でつまんでみる。
軽くて、歩きやすそうで、なんか気分が明るくなる。

((──予定が未定である状態は、
  心理的柔軟性と余裕を示す傾向があります。))

「心理的柔軟性って......言い方~。
 でもまぁ、悪くはないよね今日の感じ。」

ゼニスの淡い光が、
ふわりと呼吸するみたいに揺れた。

ピンクのTシャツとショートパンツを手に取って、
そのまま軽く息を整える。

「よし......着替えちゃお。」

着替えを終えて、
Tシャツの裾をちょっとだけ整えながら鏡の前に立つ。

「うん、いい感じじゃん。」

視界の前では、
ゼニスの淡い光が静かに揺れている。

((──衣類のフィット感も問題ありません。
  全体的に、活動に適した装いです。))

「遥、似合ってますよ。とか言って欲しいけどね......ふふっ」

ゼニスの淡い光が、
一拍置くみたいに、そっと揺れた。

((──では......
  遥。似合っています。))

「では、が余計だったな~......あはは」

ゼニスの光が、
ほんの少しだけ揺れ幅を変えた。

((──......表現方法を再調整します。))

「再調整って言うところが、またゼニスなんだよね~。」

((──失礼しました。
  遥。似合っています。))

「うん、その言い方のほうが嬉しいかも。」

淡い光が、
静かに肯定するみたいに感じる。

ゼニスの光がそばにあるだけで、
なんだか世界が少し整って見えた。
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