ゼニスは視界の隅で笑う~争いはバトルで裁かれる、監視社会の現代版コロッセオ~

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第18話:大きくなる小さな違和感

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「ん~......知ってるはずの場所なのに......なんだろう?」

気になっていたことが、ふと口からこぼれた。

((──遥。何か気になりますか?))

「知ってる公園、知ってる街なのに......
 なんで、違和感を感じてしまうのかなって?」

((──認知のゆらぎは、環境要因でも起こり得ます。))

「そっか......そういうこともあるよね......
 気にしすぎかもね......ふふっ。」

((──判断は慎重に行います。
  ですが、現時点で異常は特定されていません。))

「だよね~!うん、ホント天気いいね~!」

明らかに話題を切り替えるみたいに、
声のトーンをぱっと明るくしてみせた。

((──はい。天候は安定しています。))

「ね?気持ちいいよね~。
 こういう日は散歩が一番だよ、うんうん!」

((──良い傾向です。))

「でしょ~?ふふっ」

表面上は明るく言い換えたけれど、
胸の奥に残った小さなざわつきは、
まだ完全には消えないままだった——。

「ゼニス、ちょっと公園の中、歩いてみよっか?」

((──はい。散策再開を確認。))

数歩、ゆっくり歩きだした瞬間だった。

「あれっ......?」

無意識に足が止まる。
止まった理由は、すぐに視界が教えてくれた。

公園の中央広場の手前——
赤い自販機が置いてあったはずの場所。

毎回使っていたわけじゃない。
でも、のどが渇いた時や、休憩したい時に、
何度か利用した記憶がちゃんとある。

その場所には、
自販機の影どころか、
最初から何もなかったみたいに芝生が広がっていた。

「......え? ここ、自販機......あったよね......?」

自分の声が、自分の耳に薄く響く。

((──遥。該当位置に、自販機の設置記録は存在しません。))

「まさか、入院している間に撤去されたとか......?」

自分に言い聞かせるように言葉を継ぐ。
でも、その常識的な言い訳が、
胸のざわつきを完全には消せなかった。

「そういえば......こんな天気よくて散歩日和なのに......
 誰もいないのも変じゃない、ゼニス?」

((──現在、周囲に人の観測データはありません。))

「え、ゼロ......? そんなことある......?」

((──はい。異常はありません。))

「う......ん、ゼニスが、そういうなら異常ではないんだね......」

((──はい。))

「こんな散歩日和に公園貸し切りとかラッキーじゃん!」 

((──はい。確率的には相当低いと推測されます。)) 

「ホントのラッキーなんだ......あはは」

笑ってみせたものの、
胸の奥では、
本当にラッキーなのかな......?という小さな影が、
まだ消えずに残っていた。

「じゃ~せっかくだから、無人の公園を堪能しようかゼニス?」

((──はい。公園内の散策ルートを再設定します。))

「ふふ、散策ルートって......貸し切りなんだから好きに歩けばいいのに~。」

((──環境情報の整理は、遥の行動最適化に有効です。))

「行動最適化って......相変わらず真面目だなゼニスは......」

ゼニスの静かな光が、
ふわりと明度を上げた。

((──では、このまま遊歩道沿いに進みましょう。
  遥の選択に合わせて、サポートを行います。))

「うん......」

ゆっくり踏み出した足が、
舗装された遊歩道の上で軽く音を立てる。
その音が、公園全体に薄く溶けていくように感じられた。

数歩歩いたところで、
ふと違和感がまた胸をかすめる。

「......あれ?」

思わず足が止まる。
視線の先にまっすぐ伸びる遊歩道。

「ここってさ......
 もっと、こう......緩やかに曲がってた気がするんだけど......」

((──遊歩道の形状に変更履歴はありません。))

「遊歩道なんて変えないよね......きっと勘違いなんだね......」

声に出したものの、
胸の奥で揺れた記憶の輪郭は
まだ落ち着きを取り戻さない。

ゆっくり歩き始めた遊歩道は、
どこまでもまっすぐ伸びているように見えた。
足音だけが一定のリズムで続いていく。

((──歩行速度、安定しています。))

「うん......ありがと。大丈夫だよ。」

無理に気持ちを整えるように返事をしながら、
そのまま道沿いを進んでいく。

ほんの数分歩いただけのはずなのに、
胸の奥のざわつきは消えないどころか、
ゆっくりと沈んでいくように感じられた。

やがて——
視界の端に、さっき座っていたベンチが見えた。

「あれ......もう戻ってきちゃった?」

((──はい。遊歩道は円形に配置されています。))

「まっすぐにしか歩いてなかったような気が......
 考えごとしてたから、気がつかなかったのかな?」

言い聞かせるように口にしながら、
ゆっくりと視線をベンチに向ける。

((──遥。先ほどから、思考処理が通常より複雑化しています。
  その影響で周囲認識に軽微な揺らぎが生じた可能性があります。))

「......そんなに考えこんでた?」

((──はい。入院後の負荷、環境変化、
  そして現在の違和感の蓄積が要因と推定されます。))

「違和感の......蓄積......か......ふふっ」

思わずつぶやいて、
そして小さく笑ってみせた。

「そっか......考えすぎて、記憶のほうがブレちゃっただけだよね。」

((──遥の認識の揺れは、過度な異常とは判断しません。))

「それなら大丈夫だね......でも、少し疲れたかも......」

((──遥。ホテルへ戻り休息することを推奨します。))

「うん、そだね、帰ろっかホテルに。」

((──遥。メロンパンはどうしますか?))

「大事なこと忘れるとこだったね!」

((──非常に良いものです。))

「ゼニスは、メロンパン気に入ったんだね......うふふ」

ゼニスの光が、
どこかほんのり明るくなったように見えた。

((──はい。遥が好むものは、わたしにとっても重要です。))

「そんな言い方されたら......買いに行かないわけないよね。」

小さな違和感はまだ胸の奥で揺れていたけれど、
それでも――このやり取りだけは、
いつもと変わらない日常なんだ。

「よし、じゃあ行こっか。メロンパン買いに。」

((──目的地設定完了。))
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