30 / 83
第30話:新しい場所を求めて②
しおりを挟む
サンクチュアリ27から道路沿いに少し歩くと、
真新しい建物が見えた。
佐藤さんが歩みをゆるめ、
正面の建物を示す。
「こちらが、《ヒヨリ北レジデンス》になります。」
白を基調とした外壁に、
淡いグレーのアクセントが入った三階建ての新築。
賃貸アパートにしては、どこか上品な雰囲気があった。
「おぉ~......これすごいけど......高いんじゃない?」
思わず心の声が漏れ出たけど、
佐藤さんの反応はなかった。
((......佐藤さんには、聞こえてなかったのかな......))
((──はい。その可能性はあります。))
((まぁ......いつものことだしいっか......))
((──はい。))
「それでは、お部屋へご案内いたしますね。」
「はい、お願いします。」
建物へ入っていく佐藤さんの後を追う。
オートロックの電子音が鳴り、
開いたエントランスを通って中へ入る。
エントランスを抜けると、
まだ新しい香りが残る共用廊下が続いていた。
佐藤さんが先を歩き、
左手のドアの前で立ち止まる。
「こちらが、101号室になります。」
鍵を取り出し、
静かに差し込んで回す。
カチリ、と小さくロックが外れた音が響いた。
「では、どうぞご覧ください。」
ドアがゆっくり押し開かれていく。
玄関でスリッパに履き替え、
一歩、部屋の中へ足を踏み入れた。
正面にはまっすぐ伸びる廊下。
左手にはドアがひとつ、
その先はゆるやかに明るい空間へと続いている。
((1LDKなんだね......その割には広いよね......))
((──はい。リビングは約12畳。
キッチンスペースも平均より広めです。
間取り全体のゆとりが確保されています。))
((めっちゃいいけど......これお高いんでしょう?......ふふ))
((──家賃は相場と大差なく......))
そこへ、佐藤さんの声が重なった。
「リビングは12畳あり、キッチンスペースも広くゆとりがあります。
バスも1坪タイプとなっており、足を伸ばして入浴することが可能です。」
タブレットを軽く確認しながら説明を添えた。
「こちらの物件は家具家電付きでして、
ベッド、ソファ、ローテーブル、テレビ台、
冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ、
それから照明やカーテンも備え付けとなっています。
入居後すぐ生活できるような仕様です。」
「ホントに素敵な物件ですね!」
思わず声が弾んだ。
けれど——
「では、次の物件に向かいましょうか。」
佐藤さんは、
こちらの言葉が聞こえていなかったかのように、
淡々とタブレットを閉じ、そのまま次へ進む姿勢を取った。
((......えっ、聞こえてなかったのかな?))
((──可能性は高いです。))
((いや、今の距離で聞こえないことある?))
((──佐藤は、効率を優先して行動しているようです。
本日は3件の案内があるため、
次の作業へ早めに移行したと推測されます。))
((......そうかもね~......ゼニス、佐藤『さん』ね......ふふ))
1件目を後にして、
そのまま次の2件も案内してもらった。
どちらも新築で、
条件もほとんど同じだったけれど——
((......ヒヨリ北レジデンスだっけ?最初の物件ね。
あそこがホントによかった気がするんだよね......))
((──はい。設備や間取りに大きな差異はありません。
ただ、遙の反応は、
ヒヨリ北レジデンスのほうに
より好意的な傾向を示していました。))
((うんうん、確かにそうだと思う。))
((──ヒヨリ北レジデンスに決めますか?))
((......だね!決めちゃおうか!))
3件目を退出し、建物を出ると、
佐藤さんが軽くタブレットを確認しながら口を開いた。
「では、一度サンクチュアリ27へ戻りましょう。
お手続きのご案内をいたします。」
((おぉ......もう決める流れになってる......ふふ))
((──はい。そういう段階です。))
((だよね~、じゃあ戻ろっか。))
「はい、お願いします。」
歩きながら、
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
新しい生活が始まるかもしれない——
そんな予感が、
静かに、でも確かに広がっていく。
サンクチュアリ27に戻ると、
受付の女性が軽く会釈し迎えてくれた。
「お戻りですね。どうぞこちらへ。」
案内された席に腰を下ろすと、
佐藤さんがタブレットと書類をまとめて持ってきた。
「では、先ほどご覧いただいた物件のご説明をさせていただきます。」
((手際がいいな佐藤さん......ふふ))
((──はい。))
「よろしくお願いします。」
佐藤さんはタブレットを操作しながら話を続けた。
「3件とも新築で条件は似ておりますが、
いかがなさいますか?」
「ヒヨリ北レジデンスがいいと思ってます。」
「ヒヨリ北レジデンスですね。承知いたしました。
では、手続きを始めてもよろしいでしょうか?」
((おぉ......考える時間とかないんだね......ふふふ))
((──はい。佐藤は効率重視の傾向があり、
手続きを早めに進める判断をしたと推測されます。))
((佐藤『さん』ね......))
「はい、お願いします。」
「では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。」
書類が静かに差し出される。
目を通した瞬間、手が止まった。
((ねぇ......名前と希望入居日しか記載するとこないんだけど......いいのかな?))
((──はい。サンクチュアリ27では、この形式が採用されています。
必要最低限の情報のみで手続きが完了します。))
((最低限すぎない!?))
佐藤さんは淡々と説明を添える。
「お名前と入居希望日だけご記入いただければ大丈夫です。」
((......普通って、住所とか勤務先とか必要だよね......!?))
((──はい。一般的にはそのような情報が必要ですが、
サンクチュアリ27では必要ないということです。))
((まぁ......勤務先とか住所もわかんないから、ありがたいけどさ~......))
とりあえず......名前と、1週間後の日付で入居希望日を記載し、
佐藤さんへと渡す。
「確認いたしました。問題ございません。では手続きを進めますね。」
((早っ!?))
((──佐藤は処理速度が安定しています。))
((佐藤『さん』ね......))
佐藤さんはタブレットを再び操作し、
数秒だけ画面を確認するとスッと顔を上げた。
「では、明日からご入居いただけます。」
((えっ......そんなすぐ!?))
((──はい。サンクチュアリ27では、即日対応が標準仕様です。))
((サンクチュアリ27......すごいね......))
「わかりました、ありがとうございます。」
佐藤さんは軽く頷き、静かに書類を整えた。
「それでは、明日の午前中にこちらへお越しください。
鍵と、入居に関する簡単なご説明をいたします。」
((ホント......怖いくらいとんとん拍子で決まったね......ふふ))
((──サンクチュアリ27のシステムが優れている証拠です。))
((すごい、不動産屋さんだね、サンクチュアリ27......))
((──はい。))
「明日の午前中ですね、よろしくお願いします。」
そう言って席を立ち、
サンクチュアリ27を後にした。
真新しい建物が見えた。
佐藤さんが歩みをゆるめ、
正面の建物を示す。
「こちらが、《ヒヨリ北レジデンス》になります。」
白を基調とした外壁に、
淡いグレーのアクセントが入った三階建ての新築。
賃貸アパートにしては、どこか上品な雰囲気があった。
「おぉ~......これすごいけど......高いんじゃない?」
思わず心の声が漏れ出たけど、
佐藤さんの反応はなかった。
((......佐藤さんには、聞こえてなかったのかな......))
((──はい。その可能性はあります。))
((まぁ......いつものことだしいっか......))
((──はい。))
「それでは、お部屋へご案内いたしますね。」
「はい、お願いします。」
建物へ入っていく佐藤さんの後を追う。
オートロックの電子音が鳴り、
開いたエントランスを通って中へ入る。
エントランスを抜けると、
まだ新しい香りが残る共用廊下が続いていた。
佐藤さんが先を歩き、
左手のドアの前で立ち止まる。
「こちらが、101号室になります。」
鍵を取り出し、
静かに差し込んで回す。
カチリ、と小さくロックが外れた音が響いた。
「では、どうぞご覧ください。」
ドアがゆっくり押し開かれていく。
玄関でスリッパに履き替え、
一歩、部屋の中へ足を踏み入れた。
正面にはまっすぐ伸びる廊下。
左手にはドアがひとつ、
その先はゆるやかに明るい空間へと続いている。
((1LDKなんだね......その割には広いよね......))
((──はい。リビングは約12畳。
キッチンスペースも平均より広めです。
間取り全体のゆとりが確保されています。))
((めっちゃいいけど......これお高いんでしょう?......ふふ))
((──家賃は相場と大差なく......))
そこへ、佐藤さんの声が重なった。
「リビングは12畳あり、キッチンスペースも広くゆとりがあります。
バスも1坪タイプとなっており、足を伸ばして入浴することが可能です。」
タブレットを軽く確認しながら説明を添えた。
「こちらの物件は家具家電付きでして、
ベッド、ソファ、ローテーブル、テレビ台、
冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ、
それから照明やカーテンも備え付けとなっています。
入居後すぐ生活できるような仕様です。」
「ホントに素敵な物件ですね!」
思わず声が弾んだ。
けれど——
「では、次の物件に向かいましょうか。」
佐藤さんは、
こちらの言葉が聞こえていなかったかのように、
淡々とタブレットを閉じ、そのまま次へ進む姿勢を取った。
((......えっ、聞こえてなかったのかな?))
((──可能性は高いです。))
((いや、今の距離で聞こえないことある?))
((──佐藤は、効率を優先して行動しているようです。
本日は3件の案内があるため、
次の作業へ早めに移行したと推測されます。))
((......そうかもね~......ゼニス、佐藤『さん』ね......ふふ))
1件目を後にして、
そのまま次の2件も案内してもらった。
どちらも新築で、
条件もほとんど同じだったけれど——
((......ヒヨリ北レジデンスだっけ?最初の物件ね。
あそこがホントによかった気がするんだよね......))
((──はい。設備や間取りに大きな差異はありません。
ただ、遙の反応は、
ヒヨリ北レジデンスのほうに
より好意的な傾向を示していました。))
((うんうん、確かにそうだと思う。))
((──ヒヨリ北レジデンスに決めますか?))
((......だね!決めちゃおうか!))
3件目を退出し、建物を出ると、
佐藤さんが軽くタブレットを確認しながら口を開いた。
「では、一度サンクチュアリ27へ戻りましょう。
お手続きのご案内をいたします。」
((おぉ......もう決める流れになってる......ふふ))
((──はい。そういう段階です。))
((だよね~、じゃあ戻ろっか。))
「はい、お願いします。」
歩きながら、
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
新しい生活が始まるかもしれない——
そんな予感が、
静かに、でも確かに広がっていく。
サンクチュアリ27に戻ると、
受付の女性が軽く会釈し迎えてくれた。
「お戻りですね。どうぞこちらへ。」
案内された席に腰を下ろすと、
佐藤さんがタブレットと書類をまとめて持ってきた。
「では、先ほどご覧いただいた物件のご説明をさせていただきます。」
((手際がいいな佐藤さん......ふふ))
((──はい。))
「よろしくお願いします。」
佐藤さんはタブレットを操作しながら話を続けた。
「3件とも新築で条件は似ておりますが、
いかがなさいますか?」
「ヒヨリ北レジデンスがいいと思ってます。」
「ヒヨリ北レジデンスですね。承知いたしました。
では、手続きを始めてもよろしいでしょうか?」
((おぉ......考える時間とかないんだね......ふふふ))
((──はい。佐藤は効率重視の傾向があり、
手続きを早めに進める判断をしたと推測されます。))
((佐藤『さん』ね......))
「はい、お願いします。」
「では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。」
書類が静かに差し出される。
目を通した瞬間、手が止まった。
((ねぇ......名前と希望入居日しか記載するとこないんだけど......いいのかな?))
((──はい。サンクチュアリ27では、この形式が採用されています。
必要最低限の情報のみで手続きが完了します。))
((最低限すぎない!?))
佐藤さんは淡々と説明を添える。
「お名前と入居希望日だけご記入いただければ大丈夫です。」
((......普通って、住所とか勤務先とか必要だよね......!?))
((──はい。一般的にはそのような情報が必要ですが、
サンクチュアリ27では必要ないということです。))
((まぁ......勤務先とか住所もわかんないから、ありがたいけどさ~......))
とりあえず......名前と、1週間後の日付で入居希望日を記載し、
佐藤さんへと渡す。
「確認いたしました。問題ございません。では手続きを進めますね。」
((早っ!?))
((──佐藤は処理速度が安定しています。))
((佐藤『さん』ね......))
佐藤さんはタブレットを再び操作し、
数秒だけ画面を確認するとスッと顔を上げた。
「では、明日からご入居いただけます。」
((えっ......そんなすぐ!?))
((──はい。サンクチュアリ27では、即日対応が標準仕様です。))
((サンクチュアリ27......すごいね......))
「わかりました、ありがとうございます。」
佐藤さんは軽く頷き、静かに書類を整えた。
「それでは、明日の午前中にこちらへお越しください。
鍵と、入居に関する簡単なご説明をいたします。」
((ホント......怖いくらいとんとん拍子で決まったね......ふふ))
((──サンクチュアリ27のシステムが優れている証拠です。))
((すごい、不動産屋さんだね、サンクチュアリ27......))
((──はい。))
「明日の午前中ですね、よろしくお願いします。」
そう言って席を立ち、
サンクチュアリ27を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる