ゼニスは視界の隅で笑う~争いはバトルで裁かれる、監視社会の現代版コロッセオ~

綴火(つづりび)

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第54話:調停会場の雰囲気

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「まだ、時間あるから外でもぶらぶらしようかな。」

((──うん。
  席も確保してあるから、時間には余裕があるよ。))

調停センターを出て、
建物の外周を回る。

正面とは違い、
裏側は静かだった。

コンクリートの壁が続き、
足音だけが、かすかに響く。

建物の裏手に出ると、
広い駐車場があった。

白線が整然と引かれ、
まだ、空きが目立っている。

数台の車が
ぽつりと停まっているだけだった。

「車あんまり停まってないね......
 時間が少し早いからかな?」

((──うん。
  一般の来場者は、これからだね。))

ほどなくして、
一台の車が減速し、
駐車場へ入ってくる。

エンジン音は短く、
すぐに切られた。

続いて、
別の車が入ってくる。

また一台、
そのあとに、もう一台。

ライトが消え、
ドアが開く。

人が降り、
そのまま建物の方へ歩いていく。

同じ動きが、
繰り返される。

気づけば、
空いていた区画が
少しずつ埋まり始めていた。

それでも、
声はほとんど聞こえない。

足音だけが、
一定の間隔で
入口へ向かっていく。

「だんだん、観覧の人も増えてきたね。」

((──うん。そうだね。))

「そろそろ、戻ってもいいかもね。」

((──うん。戻ろうか。))

来た道を引き返し、
正面入口の方へ向かう。

さっきまでは静かだった入口前に、
いつの間にか列ができていた。

長くはないが、
途切れることはない。

一人、
また一人と、
受付の前に立つ。

端末に手をかざし、
確認が行われる。

短いやり取りのあと、
プラスチック製のタグが手渡される。

会計、受け取り、
同じ動きが、
一定の間隔で繰り返されている。

誰も立ち止まらず、
誰も迷わない。

タグを受け取った人は、
そのまま中へ進んでいく。

列は、
少しずつ前にずれ、
また整う。

受付の前には、
同じ光景だけが並んでいた。

声はあるのに、
会話は残らない。

動きだけが、
途切れず続いている。

「チケット受け取ったら、
 みんな会場に入るのかな?」

((──会場に入る人もいれば、
  飲み物や食べ物を買ってからの人もいるかな。))

「映画館みたいだね。」

((──近いかもね。))

入口を抜け、
建物の中へ進む。

すぐ脇には受付が並び、
その先に、通路が続いていた。

人の流れは、
まっすぐではない。

会場へ向かう人と、
奥へ進む人に、
自然と分かれていく。

通路脇に、
横長のカウンターがあった。

上には、
簡単なメニュー表示。

前には、
透明なケースと
保温棚が並んでいる。

ショーケースの前で、
足を止める人。

手早く選び、
会計を済ませる人。

受け取ったカップや袋を手に、
そのまま奥へ進んでいく。

列は短く、
すぐにほどける。

カップを持った人と、
何も持たない人が、
通路を同じ方向へ流れていく。

会場へ向かう動きは、
すでに始まっていた。

「せっかくだから、
 なんか買おうかな?」

((──うん。いいと思うよ。))

「アイスコーヒーと
 唐揚げ、ホットドッグをください。」

プラスチックのカップに、
飲み物が注がれる。

氷の音がして、
蓋が閉じられた。

紙カップに
揚げ物が入れられる。

横から
ホットドッグが一つ手渡される。

会計は短く、
やり取りはそれだけだった。

「食べ物も買ったし、中に入ろうか。」

((──うん。))

人の流れに合わせ、
通路を進み会場へと入る。

中は
思ったよりも広い。

天井は高く、
座席が規則正しく並んでいた。

通路に沿って、
人が流れていく。

飲み物を持つ人。
軽食を抱える人。
手ぶらの人。

それぞれが、
自分の席を探し、
静かに歩く。

座席の背には、
小さな挿入口が並んでいる。

タグを手に、
立ち止まる人。

タグを差し込み、
席に腰を下ろす人。

同じ動きが、
あちこちで繰り返されていた。

会場は、
ざわついているはずなのに、
音は相変わらず遠く感じる。

「なんかスゴイね......
 本格的すぎない? ふふっ」

((──自治体の調停センターは、
  どこも、こんな感じになっているよ。))

天井は高く、
暗めの照明が落とされていた。

中央だけが、
はっきりと照らされている。

四角く区切られた空間があり、
その周囲を囲むように、
座席が段になって広がっていた。

中央上部には、
四面に大きなスクリーンが設置されている。

どこからでも、
中央が見えるように配置されていた。

照明のフレームが、
幾何学的に組まれ、
影を落としている。

座席はすでに、
半分ほど埋まっていた。

飲み物を置く音。
袋を整える音。

それらが、
小さく混ざり合う。

声はあるのに、
大きくならない。

空間全体が、
始まる前の形を
静かに保っていた。

「スポーツイベントの会場じゃん!」

((──うん。
  調停は、自治体開催の人気イベントなんだ。))

「だよね。
 会場見れば、一目瞭然だよ。」

中央のスクリーンに、
映像とは別の表示が切り替わる。

黒い背景に、
白い数字が並んでいた。

『2:30』『3:00』『3:30』
いくつかの区切りと、
その横に赤文字で『4.2』『1.3』など小さな数値。

一定の間隔で、
数値が更新されていく。

周囲のスクリーンにも、
同じ表示が映し出される。

視線だけが、
自然と中央に集まっている。

「ねぇ......
 みんな見てるスクリーンの数字ってなに?」
 もしかしてさ、
 『4.2』『1.3』の動いている数値って
 オッズとかじゃないよね......」

((──正解だよ、遥。
  あれは、オッズなんだ。))

「......えっ!?
 調停って......そんな感じなの?」

((──自治体が運営している調停は、
  公営のギャンブルになっているんだ。
  競馬や競輪と、同じ仕組みだね。))

「そうなんだ......
 そりゃ、人気あるわけだ......」

((──遥。
  タグと同じ座席を探してね。))

「あっ、うん......わかった。」

手元のタグを見て、
同じ番号を探す。

「1101は......あ、ここか。」

座席を見ると、
背もたれの横に、
小さな挿入口があった。

タグを差し込むと、
軽い電子音がして、
表示が切り替わる。

「あとは、
 このまま待ってればいいよね?」

((──うん。))

座席に座り、
アイスコーヒーを一口。

人気があるイベントのわりには、
会場に熱気はない。

周囲の人たちは、
淡々とスクリーンを見る。

数字を確認し、
スマホに視線を落とす。

しばらくして、
またスクリーンを見る。

その動きが、
静かに繰り返されていた。
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