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流星

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 なにがなんだかわからないうちに、僕は遠藤さんと同棲することに決定されていた。
 でも、遠藤さんには恋人がいるんだ。
 ただの仕事仲間の僕がいたらダメだろう……。

 本当は、遠藤さんのことが怖くなって、逃げ出したいだけだった。

 しばらく呆然としていた僕は、額の冷や汗を拭って立ち上がった。
 スマホ画面を見れば、遠藤さんが帰って来るまで、あと四時間はある。
 今なら出て行ってもきっとバレない。

 ファミレスに出勤すれば顔を合わせることになるけど、帰りはどうにかして逃げればいいだけだ。
 辞めるとしても、一ヶ月前には話しておかないと、みんなに迷惑をかけてしまう。
 しばらくは一緒に帰って欲しいと、ホノカちゃんたちに頼もうか……。
 うん、それならなんとかなりそう。

 回らない頭をフル回転させて、結論を導く。
 ようやく決心した頃には、一時間も経過していたのだから驚きだ。

 扉を開き、意気揚々と足を踏み出す。
 そんな僕の目の前に影ができた。

「どこに行くんだ?」
「っ……」

 待ち構えていた遠藤さんの姿に、さーっと血の気が引く。
 恐ろしいほど笑顔を浮かべている人を見上げて、全身に鳥肌が立った。
 言い訳を聞いてくれるような状況じゃない。

 顔面蒼白になっていると、エレベーターの扉が開く音がする。
 助けを求めようとしたけど、口を塞がれて部屋に入るように体を押される。

「んんんん~~っ!!」

 絶望した時──。
 僕の目の前から、遠藤さんが消えた。

「逃げろっ!!」

 大柄の遠藤さんにタックルをした人が、僕に向かって叫ぶ。

 黒髪だけど、碧眼の王子様のような外国人。
 遠藤さんの恋人だ。
 ここ一ヶ月、僕に付き纏っていた人が、今は僕を助けようとしている。

「リュセ!!」
「っ、」

 ハッとした僕は、なにがなんだかわからないまま、一目散に階段を駆け下りていた。

 言い争う声が聞こえて来る。
 それから僕を追いかけてくる足音も──。
 全力で逃げる僕の心臓が、バクバクと激しく音を立てている。
 怖くて怖くてたまらないけど、僕の足は動き続けていた。

「待て、流星っ!! 止まらねぇとぶっ殺すぞっ!!」
「ヒッ!!」

 遠くから聞こえた凄みのある声に、僕は足を踏み外していた。
 僕の軽い体が空を舞う。
 長い階段を見下ろして、初めて死を覚悟した。
 
「──様っ!!」

 身を挺して飛び出して来た美青年が、やけにスローに見える。
 必死に僕に手を伸ばす人。
 名前も知らない青年に、僕は自然と手を伸ばしていた。

 力強く抱きしめられて、花の香りが鼻腔を擽る。
 不思議と恐怖心が消え去る。

 ……どうして泣きそうな顔だったんだろう?
 
 見ず知らずの人を気にかけていた僕は、次の瞬間には目の前が真っ暗になっていた。







 階段から落ちた衝撃が訪れる。
 それなのに、なんだか優しすぎる衝撃だった。

「っ……!!」

 恐る恐る目を開く。
 そこには、僕をお姫様抱っこしている美丈夫がいた。

 長い白銀の髪が、惚ける僕の頬を擽る。
 さっき助けてくれた美青年とは別人だ。

 ……あれ?
 さっき助けてくれた人?

 ついさっき起こった出来事なのに、その部分だけモヤがかかったように思い出せない。

「大丈夫か?」
「っ………………は、はぃ」

 今までに見たこともないイケメンは、声も魅惑的なイケボだった。

 僕の優秀な兄さんより美形だ。

 ……あれ?
 僕に兄なんていたかな?

 混乱している僕は、命の恩人にお礼を述べることも出来ないまま、意識を失っていた。










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