3 / 100
流星
3
しおりを挟む仕事仲間に、同性愛者だと露見したことに驚いたのだろう。
僕は気にしていない。
誰にも言うつもりもない。
「きちんと説明したんですけど、誤解させてしまったみたいで……。すみません……。今後は、安いアパートを借りようと思います。今までお世話になったのに、迷惑をかけて──ッ」
黙って聞いていた遠藤さんが、急にアクセルを踏んだ。
凄腕ドライバー並みのテクニックに呆気に取られている間に、彼のマンションの駐車場に到着する。
すぐさま車から降りた遠藤さんに驚いていると、僕は引き摺られるようにマンションの一室に押し込められていた。
扉を閉めた瞬間に、壁ドンをされる僕。
まったく甘い空気ではない。
むしろ遠藤さんの纏う恐ろしい空気に、背筋が凍りついていた。
「俺から離れるだなんて許さない」
「っ……」
「なんだ? 俺がゲイだからって引いたのか?」
いつもより低い声が怖くて、言葉が出なかった。
それでも、ふるふると首を横に振る。
無言で鋭い目に見下ろされる僕は、鞄を握りしめてただただ首を横に振っていた。
すっと端正な顔が近付いて来る。
僕の心を読もうとしているのか、まじまじと凝視される僕は、恐怖から視界が歪んでいく。
軽蔑しているわけじゃないのに、こんな態度じゃ勘違いされてしまう。
それでもなにも言えなくて体を縮こまらせると、なぜか目の前にある口角がぐっと持ち上がる。
「なあ、流星」
「っ、」
いつも僕を、オイとか、バイトリーダーとしか呼ばない遠藤さんが、僕の名前を呼ぶ。
「ゲイに偏見がないなら、このまま俺と同棲するだろ?」
「っ……」
「出ていかないよな? そうじゃなきゃ、本当は俺を気持ち悪いと思ってるってことだよな?」
「っ、ち、ちがっ、思ってませんっ」
僕のか細い声に、片眉を上げた遠藤さん。
納得していないように見えるけど、どこか満足そうな表情が怖い。
怯える僕の頬に、そっと指が触れる。
びくんと大袈裟に反応してしまい、ガタガタと震えてしまう。
怒らせてしまったと身震いするのに、なぜか遠藤さんはうっそりと笑った。
「ネットカフェ生活は終わりだ。これから毎日、流星は俺と住むんだ。いいな?」
「っ、で、でも……」
「帰る場所がないんだろ? 誰からも必要とされていないんだよ、流星は。そうだろ?」
「…………」
遠藤さんに言われるまでもなく、幼い頃から僕自身がわかっていたことを淡々と告げられて、涙が込み上げて来る。
医学部に入学した優秀な兄と、読者モデルの妹にはさまれる地味な僕。
元々存在感がなかったのに、フリーターになった時点で家ではいないものとして扱われていた。
常に輪の中心にいる妹がSNSに載せて評価を受ける画像には、見目麗しい仲良し四人家族の姿。
そこに僕の存在が含まれることは、一度もなかった──。
歯を食いしばる僕は、必死に涙を堪える。
その間、僕に現実を叩きつけてきた人は、じっくりと僕の顔を凝視していた。
なにも言い返せずに目を伏せると、どこかうっとりとした息を吐いた遠藤さんが、目尻の涙を優しく拭ってくれる。
それも指先ではなく、唇だった。
「でも、俺が流星を拾ってやるから安心しろ。俺が帰って来るまで、いい子で待ってろよ?」
驚きすぎてじっと固まる僕の頭を、よしよしと優しく撫でた遠藤さんは、『今日は早く帰るから』と告げて出て行った。
オートロックの扉が閉まる。
緊張の糸が切れた僕は、その場にへろへろとしゃがみこんでいた。
385
あなたにおすすめの小説
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる