期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
13 / 129

13



「すみませんでした。この屋敷には、兄様を疎ましく思う人しかいないから……。兄様の身になにかあったらと思うと……。僕は毎日、心配で心配でたまらなくて……」

 病を克服したというのに、酷く苦しそうに告げたミゲル。
 離れていても、ずっとフラヴィオを心配してくれていたことが痛いくらいに伝わって来ていた。
 ミゲルが昔と変わらずにいてくれたことに歓喜するフラヴィオは、抱擁しようと手をそっと離す。
 するとミゲルは、どうしてか傷付いたような表情に変わっていた。

「ミゲル、おいで」

 病は完治していないが、ミゲルにとってはいつまでも頼もしい兄でありたいと思っているフラヴィオは、両手を広げる。

「っ、」

 抱擁を待つフラヴィオを見ただけで、ミゲルがぱあっと笑顔になった。
 だが、昔のように飛びつくことはなく、そうっとフラヴィオの体を包み込む。

「兄様、お会いしたかったです……」

「ああ、私もだよ。手紙を読んでいたから、ミゲルが元気だとわかっていたが……。それでも早く顔が見たかった」

 ミゲルの腕の力が強くなる。
 頬ずりをされ、主人が大好きな大型犬に戯れつかれている気分だ。
 すごく嬉しいのだが、そろそろ限界である。

「ミ、ミゲル……。少しばかり、力が強――」

 逞しい体を支えきれずに、フラヴィオはぼふっと背中から倒れこむ。
 ミゲルの腕を下敷きにしてしまっているのだが、気にしている場合ではない。
 息がかかるほどの近い距離で、真剣な表情のミゲルに見下ろされていた。

「兄様……」

 やけに熱っぽい視線を送られる。
 環境が変わり、ミゲルに友人が増える一方で、兄を慕う気持ちが薄れてしまったのではないかと、不安にならなかったわけじゃない。
 もちろんそんな情けないことを、フラヴィオは決して口にはしないが……。

 それでも、ミゲルも同じ気持ちでいてくれたことがフラヴィオにとっては心底喜ばしいことだった。
 ずっと部屋に篭っていたフラヴィオは、ミゲルと再会する日を心の支えに生きてきたのだ。
 ずっと顔が見たいと思っていたが、あまりに熱心に見つめられるものだから、照れ臭くなってしまったフラヴィオは、拗ねた顔をして誤魔化した。

「いくら逞しくなったとはいえ、兄を押し倒さないでくれ」

「っ……す、すみません」

 さっと離れたミゲルが顔を背けるも、耳まで真っ赤になっている。

(大きくなっても、ミゲルは可愛い……)

 学園での話を聞かせてほしいと手を引けば、はにかむミゲルはフラヴィオの隣に腰掛ける。
 終始楽しそうに語るミゲルの話を聞いているだけで、相槌を打つフラヴィオもずっと笑顔だった。
 夜が明けるまで語り合う。
 声を潜めて……。





 ミゲルと密かに会うために、フラヴィオの昼夜逆転生活が始まった。
 生活サイクルが変わったのだが、フラヴィオの体調はすこぶる良い。
 理由は、兄弟が密会をしていることを知っているマリカとキャシーが、朝の分の薬も夕飯時に渡してくれていたのだ。
 おかげでフラヴィオは、ミゲルが帰ってきてから薬を服用していなかった。

 一方ミゲルはというと、夜はフラヴィオと会い、昼間はたまに両親と出かけている。
 その際に使用人たちも連れて行くのだが、マリカとキャシーも呼んでくれているのだ。
 ふたりには特別に、ミゲルから流行りの菓子を買ってもらったりもしているようで、ミゲルにも随分と懐いていた。

 フラヴィオがなにも言わずとも、フラヴィオがふたりにしてあげたいことを、ミゲルが代わりに行ってくれている。
 心が通じ合っていると思うだけで、フラヴィオは日に日に明るくなっていった。
 そして咳き込むこともなくなり、手足の痺れも感じなくなった。
 そうなると、フラヴィオもミゲルと外出したいと欲が出てくる。
 だが、マリカとキャシーからミゲルとの話を聞けるだけで、フラヴィオは充分幸せだった。













感想 157

あなたにおすすめの小説

転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜

メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。 ​「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」 ​平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
本編完結しました! その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

死ぬだけの悪役令息に転生したら、待っていたのは攻略対象達からの溺愛でした。

きうい
BL
 病でで死んでしまった優は、気が付いたら読んでいた小説の悪役令息として転生していた。    それもどのルートでも十五歳という歳になると、死ぬ運命にある悪役———フィオレン・オーレリウス。  前世で家族に恵まれず、家族愛とは程遠い世界で生きてきた優は、愛されたいという願望を捨て、ひとりで生きることを決意する。  しかし、家族に対して表情と感情を隠し、言葉も発さず、一人で生きて行く術を身につけようと家族から距離をとるフィオレンとは裏腹に、家族や攻略対象達は異常なほどの愛を注ぐ。  フィオレンの知らない所で、小説のシナリオとは正反対の道を辿ることになるも、愛に無頓着で無自覚なフィオレンは溺愛されていき………?