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25 フィリッポ
しおりを挟む「ああああッ!! フラヴィオが連れて行かれてしまったッ!!」
普段全く使用していない執務室をぐるぐると回っていたフィリッポは、嘆き悲しんでいた――。
第三者の目から見れば、格上相手に嫡男を誘拐された哀れな父親に見えるだろう。
だが、フィリッポは違う。
フラヴィオを軟禁し、虐待まがいの行為をしていたことが、世間にバレることを恐れていた。
それに加えて、都合の悪いことはすべてフラヴィオのせいにしていたのだ。
そのフラヴィオがいなくなってしまえば、貴族と領民から反感を買うだろう。
実際のところ、領民は特段気にならない。
だが、暴動を起こされでもしたら、今のレオーネ伯爵家では止めることができない。
「どうしたの? 廊下まで声が聞こえているわよ? フィリ」
ひょっこりと顔を出したのは、フィリッポの愛妻――ミランダだ。
四十手前でも、なんとも可愛らしい仕草を見せるミランダに、フィリッポの心が癒される。
くるんとした栗色の癖っ毛が魅力的な女性だ。
「ミランダッ!! 聞いてくれッ! フラヴィオが、トレント侯爵子息に攫われたんだッ!! しかもフラヴィオが痩せ細っていたせいで、虐待だと言われてしまったんだッ!!」
もう終わりだとばかりに、フィリッポが叫ぶ。
フラヴィオが反省するまでは、スープだけを与えるようにと、使用人に指示を出していたことをすっかりと忘れていたのだ。
そしてその命令が、四年経った今もなお継続されていることを、フラヴィオの痩せた体を見てようやく気付いていた。
事の経緯を話せば、「ふぅん?」と鼻にかかった声を出したミランダが、こてりと首を傾げる。
出逢った当初よりふくよかになったミランダだが、フィリッポにとってはムチムチとしたボディがたまらないのだ。
「フラヴィオが痩せているのは、フィリのせいじゃないわ? あの子が少食だからよ」
「……そ、そうだったか?」
フラヴィオが少食なのかを、フィリッポは思い出せない。
なにせ愛するミランダとの子――ミゲルが産まれてからは、フラヴィオと共に食事をしたことがほとんどなかったからだ。
「そうよ。それにあの子は菜食主義らしいの。使用人たちが高級な肉料理を持っていっても、いらないって拒否されるんですって」
「っ……なんだと!?」
初めて聞いた情報に、カッと頭に血が上る。
だが、ミランダのどこか悲しげな表情を見たフィリッポは、ハッとする。
フラヴィオは、愛はなかったとはいえ、フィリッポと別の女性との子供だ。
それなのに、ミランダがフラヴィオを気にかけてくれていたことに気付いたのだ。
(ミランダからしてみれば、フラヴィオは疎ましい存在でしかないというのに……っ。なんと心の広い女性なんだッ!!)
フィリッポが感心していると、困ったように眉を下げたミランダが、言いづらそうに口を開く。
「フィリの息子に、こんなことを言ってはあれだけれど……。ちょっと我儘よね?」
「ああ、それはいかんな。なんでも好き嫌いせずに食べるべきだ」
出された食事を残したことのないフィリッポは、これでもかと顔を顰める。
だが、フィリッポは好き嫌いが激しい。
主に野菜が食べられないことを、すっかりと忘れていた。
なにせ当主命令により、最初から食卓には野菜が並べられないのだ。
よって、食事を残すことなどない。
料理人たちが話を聞いていれば、呆気に取られていただろうが、この場にはフィリッポを正当化するミランダしかいなかった――。
「ふふっ、大丈夫。フラヴィオのことは、ミゲルがなんとかしてくれるわよ」
真っ赤な紅を引いたぽってりとした唇から、予想外の人物の名が上がる。
「……ミゲルがか?」
「ええ、あの子はフィリに似て聡い子だもの。レオーネ伯爵家のためなら、なんだってするはずよ?」
確信したように告げたミランダが、にっこりと笑っている。
確かにミゲルは学園でも良い成績を収めている。
ミゲルに任せれば問題ないか? と呑気なことを考えているフィリッポは、ミランダの橙色の瞳が鋭い光を放っていることに気付いていなかった。
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