期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
26 / 129

25 フィリッポ

しおりを挟む


「ああああッ!! フラヴィオが連れて行かれてしまったッ!!」

 普段全く使用していない執務室をぐるぐると回っていたフィリッポは、嘆き悲しんでいた――。

 第三者の目から見れば、格上相手に嫡男を誘拐された哀れな父親に見えるだろう。
 だが、フィリッポは違う。
 フラヴィオを軟禁し、虐待まがいの行為をしていたことが、世間にバレることを恐れていた。

 それに加えて、都合の悪いことはすべてフラヴィオのせいにしていたのだ。
 そのフラヴィオがいなくなってしまえば、貴族と領民から反感を買うだろう。
 実際のところ、領民は特段気にならない。
 だが、暴動を起こされでもしたら、今のレオーネ伯爵家では止めることができない。

「どうしたの? 廊下まで声が聞こえているわよ? フィリ」

 ひょっこりと顔を出したのは、フィリッポの愛妻――ミランダだ。
 四十手前でも、なんとも可愛らしい仕草を見せるミランダに、フィリッポの心が癒される。
 くるんとした栗色の癖っ毛が魅力的な女性だ。

「ミランダッ!! 聞いてくれッ! フラヴィオが、トレント侯爵子息に攫われたんだッ!! しかもフラヴィオが痩せ細っていたで、虐待だと言われてしまったんだッ!!」

 もう終わりだとばかりに、フィリッポが叫ぶ。
 フラヴィオが反省するまでは、スープだけを与えるようにと、使用人に指示を出していたことをすっかりと忘れていたのだ。
 そしてその命令が、四年経った今もなお継続されていることを、フラヴィオの痩せた体を見てようやく気付いていた。

 事の経緯を話せば、「ふぅん?」と鼻にかかった声を出したミランダが、こてりと首を傾げる。
 出逢った当初よりふくよかになったミランダだが、フィリッポにとってはムチムチとしたボディがたまらないのだ。

「フラヴィオが痩せているのは、フィリのせいじゃないわ? あの子が少食だからよ」

「……そ、そうだったか?」

 フラヴィオが少食なのかを、フィリッポは思い出せない。
 なにせ愛するミランダとの子――ミゲルが産まれてからは、フラヴィオと共に食事をしたことがほとんどなかったからだ。

「そうよ。それにあの子は菜食主義らしいの。使用人たちが高級な肉料理を持っていっても、いらないって拒否されるんですって」

「っ……なんだと!?」

 初めて聞いた情報に、カッと頭に血が上る。
 だが、ミランダのどこか悲しげな表情を見たフィリッポは、ハッとする。
 フラヴィオは、愛はなかったとはいえ、フィリッポと別の女性フローラとの子供だ。
 それなのに、ミランダがフラヴィオを気にかけてくれていたことに気付いたのだ。

(ミランダからしてみれば、フラヴィオは疎ましい存在でしかないというのに……っ。なんと心の広い女性なんだッ!!)

 フィリッポが感心していると、困ったように眉を下げたミランダが、言いづらそうに口を開く。

「フィリの息子に、こんなことを言ってはあれだけれど……。ちょっと我儘よね?」

「ああ、それはいかんな。なんでも好き嫌いせずに食べるべきだ」

 出された食事を残したことのないフィリッポは、これでもかと顔を顰める。
 だが、フィリッポは好き嫌いが激しい。
 主に野菜が食べられないことを、すっかりと忘れていた。
 なにせ当主命令により、最初から食卓には野菜が並べられないのだ。
 よって、食事を残すことなどない。

 料理人たちが話を聞いていれば、呆気に取られていただろうが、この場にはフィリッポを正当化するミランダしかいなかった――。

「ふふっ、大丈夫。フラヴィオのことは、ミゲルがなんとかしてくれるわよ」

 真っ赤な紅を引いたぽってりとした唇から、予想外の人物の名が上がる。

「……ミゲルがか?」

「ええ、あの子はフィリに似て聡い子だもの。なら、なんだってするはずよ?」

 確信したように告げたミランダが、にっこりと笑っている。
 確かにミゲルは学園でも良い成績を収めている。
 ミゲルに任せれば問題ないか? と呑気なことを考えているフィリッポは、ミランダのだいだい色の瞳が鋭い光を放っていることに気付いていなかった。













しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~

キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。 あらすじ 勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。 それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。 「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」 「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」 無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。 『辞めます』 エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。 不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。 一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。 これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。 【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】 ※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。 ※糖度低め/精神的充足度高め ※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。 全8話。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...