期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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「大切な家族を守るために、ここを去ろうと思います。今まで本当にありがとうございました。……クレム様のことは、一生忘れません」

 フラヴィオが別れの言葉を口にすれば、クレムにガッと肩を掴まれる。
 いつも優しいクレムにしては、少し強引な行動に驚いたものの、ふたりの視線が交わった。

 瞳に涙をいっぱいに溜めているフラヴィオが、ぎこちなく笑う。

「――ッ、」

 暫く言葉を失っていたクレムだが、フラヴィオのためならなんだってすると、力説してくれる。
 今ある地位までも捨てそうな勢いだ。
 だが、フラヴィオはそんなことを望んでいない。

「ヴィオ、私を頼ってくれ。ヴィオさえ頷いてくれれば、私は全力でヴィオを守ると誓う。ヴィオが守りたいと想う家族も一緒に――」

 クレムの熱い言葉に胸を打たれる。
 迷いのない強い意志の宿る瞳から、フラヴィオは目を逸らすことができない。

 クレムは正義感が強い人だ。
 きっとまだ病が完治していないフラヴィオを、放っておけないのだろう。

(気にかけてもらえただけで、充分幸せだ……)

 最後にじっくりとクレムの顔を目に焼き付けたフラヴィオは、心を鬼にする。
 肩に置かれている大きな手を取り、クレムに押し返した。

「私からお話しすることはありません。いくらクレム様でも、これ以上は迷惑です。もう出て行ってください。クレム様が居座り続けるのなら、私が出て行きます」

「っ…………勝手にしろ」

 頑として受け入れないフラヴィオに痺れを切らしたのか、クレムは肩を怒らせて去って行った――。

(これでよかったんだ……)
 
 思ってもいないことを口にして、クレムを傷付けてしまった。
 もう二度と会うことはないだろう。

 クレムのためを思っての決断だったが、フラヴィオの瞳から勝手に涙がぽろぽろと零れ落ちる。
 拭っても拭っても、なかなか止められない。

「っ……クレムさまっ……ごめんなさぃっ」

 本当なら、こんな辛い別れ方をしたくなかった。
 最後に力いっぱい抱きしめてもらって、笑顔で別れたかった……。

 いつもそばにあった温もりを失い、寂しさに襲われるフラヴィオは、自分でも恥ずかしいと思うくらいにひとり泣き続けていた。



◇◆◇



 特別室の外は、酷く張り詰めた空気に支配されていた――。

 想い人の啜り泣く声をじっと聞いている男が、静かに深い息を吐き出し続けている。
 六人の黒騎士が固唾を飲んで見守る中、クレメント・ジラルディは、行き場のない感情をなんとかコントロールしていた。


「ミゲル・レオーネを連れて来い」
 

 数日前から神殿内で騒ぎを起こし、拘束されている人物の名が上がる。
 普段ならば、尊敬する主人の指示に即行動する部下たちだが、誰も返事をすることはなかった。

「本当にそれでいいんですか……?」

 従兄弟のピエールが声を上げたものの、クレメントは無言だった。

 『兄に会わせろ』と押しかけてきたミゲル・レオーネは、信用できない人物だ。
 シャール第五王子殿下が話し合いの場を設け、事の経緯を説明した。
 そしてフラヴィオが、レオーネ伯爵夫妻に長年虐待を受けていたことに対する証言をしてほしいと頼んだところ、ミゲル・レオーネは拒否した。
 
 『虐待の事実はない』と、否定したのだ――。

 理由は分かりきっている。
 いくらミゲルは無関係だと主張したとしても、犯罪者の息子になるのだ。
 長期間、フラヴィオが毒物を飲まされていたことを話しても、ミゲルの考えは変わらなかった。
 むしろ最初から知っていたのかもしれない。

 よって、自己保身に走ったミゲル・レオーネを、ここにいる全員が軽蔑していた。
 そして、そんな愚かな弟を守ろうとするフラヴィオを、優しい男だと思うと同時に憐れんでもいた。

「ヴィオが弟を守りたいのであれば、虐待されていたことは秘匿する」

 冷酷無情と恐れられているクレメントの信じられない発言に、全員が唖然とする。

「っ、閣下ッ!! どうしてです!? 徹底的にやっちゃいましょうッ!!」

「そうですよっ!! 閣下自らの手で、医師に自白させたじゃないですかッ!! それくらい、あのお方のことを愛しているのではないのですか!?」

 フラヴィオのために、陰で奔走していたクレメントを見守ってきた部下たちが、詰るように告げる。
 それでも意地を張っているのか、クレメントは首を縦に振らなかった。

「ヴィオが望んでいないことをするつもりはない。ただ……。あの男には、死ぬまで後悔させてやる」

 語気鋭く言い放ったクレメントは、信頼する部下を残して神殿を去っていた。













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