100回目の口付けを

ぽんちゃん

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5 出逢い

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 仲良くなった人達にいたずらされていたことを知った僕は、少なからずショックを受けていた。

 元気になっても外に出ることなく、部屋の中で過ごすことが多かった。

 そんな時、僕と一番仲良しの二番目の兄であるナポレオン兄様が、三人もお友達を連れて遊びに来てくれた。

 その時に出会ったのが、ユーリ・グレンジャー。

 二人のお友達は、キラキラの笑顔で僕を可愛い可愛いと褒めてくれて、外で遊ぼうと提案する。

 せっかく兄様がお友達を連れてきてくれたけど、僕はあまり乗り気じゃなかった。

 そんな中、無表情で口を引き結んでいたユーリだけは「無理強いするのはよくない」と、僕の心を読んだかのように告げた。

 最初は、特に話しかけてくることもなく、何を考えているのかわからない表情のユーリが怖かった。

 それから何度か兄様達が遊びにきてくれて、部屋でお喋りをして過ごした。

 基本的に無口なユーリとだけはほとんど話さなかったけど、彼はいつも僕が疲れてきた頃に「そろそろ帰ろうか」と、みんなに声を掛ける。

 そんなユーリが何を考えているのか知りたくなった僕は、彼ともっと話してみたかったけど、冷たい印象の見た目が怖いから話しかけられずにいた。


 そんなある日。
 ナポレオン兄様とユーリが遊びに来てくれた。
 
 僕と兄様ばかりが話をして、ユーリは優雅に紅茶を飲んでいた。

 たまに視線を感じてユーリの方を見れば、黄金色の瞳は僕のことをじっと見つめていた。

 でも、目が合うとすぐに顔を逸らされる。

 もしかしたら、ユーリは僕のことがあまり好きではないのかもしれない……。

 ナポレオン兄様が、父様に呼ばれて部屋を出て行き、ユーリと二人きりになる。

 何を話せば良いかわからない僕は、そわそわしながら視線を彷徨わせる。

「ヴィヴィアン、疲れたか?」
「あ……い、いいえ」
「――本でも読もうか」
 
 さっと立ち上がったユーリは、僕の部屋にある本を物色して、何冊か持ってくる。

 そして僕の隣に腰掛けて、朗読し始めた。

「読むの上手だね」
「まあ、弟にいつも読んでやってるからな」

 そう言って、僕の頭をぽんぽんと撫でた。

 僕は父様から誰にも触れられてはいけないし、触れてもいけないと言われていたのに、ユーリに撫でられて、ぴくりと体が反応してしまった。

「悪い……。つい、いつもの癖で」

 そう言って罰の悪そうな顔をするユーリが、なんだか可愛くて、くすりと笑ってしまう。

「……何?」
「そんな顔もするんだ、って思って」
 
 にっこりと笑うと、ユーリはさっと顔を逸らす。
 耳が赤くなっているから、恥ずかしかったみたいだ。

「可愛いね、ユーリ」

 初めて名前を呼んだ僕は、心臓がドキドキして胸が苦しくなる。

 そんな僕に振り返ったユーリは、むすっとした仏頂面だった。

「ヴィヴィアンに言われたくない」
「……ごめんね、怒った?」
「っ、怒ってるわけじゃない」
「ほんと? ユーリはいつも怒った顔してる」

 ぴくりと眉を持ち上げて、僕の顔をまじまじと見たユーリは、ごめん、と呟いた。

「ヴィヴィアンじゃなくて、ヴィーでいいよ」

 長くて呼びづらいだろうと思って告げると、黄金色の瞳がキラリと光る。

「ごめんな、ヴィー」

 そう言って僕の名前を呼んだユーリは、初めてにっこりと笑ってくれた。

 いつも引き結ばれていた唇が優しく弧を描いて、蜂蜜のような黄金色の瞳が蕩けて見えた。

 その綺麗な笑みに心臓を鷲掴みにされた僕は、しばらく息をすることを忘れていた。

「どうした? ヴィー?」
「っ、な、なんでもない」

 ドキドキと高鳴る胸を押さえていると、体調が悪くなったと心配したユーリは、僕を軽々とお姫様抱っこして寝台に寝かせる。

「休んだ方がいい、熱は?」

 そう言って、額に少し冷たいユーリの手が触れる。

 全く熱はなかったけど、もっと触れていたいと思った僕は、「ね、熱があるかも……」と嘘をつく。

「ユーリの手、冷たくて気持ちいい……」
「ヴィーはあったかいな」

 初めて嘘をついてしまったけど、ずっとユーリが僕に触ってくれていることが嬉しくてたまらなかった。

 額に当てていたユーリの手を取り、頬に当てる。

 僕より大きな手の上に自分の手を重ね、うっとりとした気持ちになる。

「気持ち良さそうだな」
「うんっ。また熱くなったら……ユーリの手、貸して?」
 
 誰にも触れちゃダメなのにこんなことを言ってしまう僕は、すごく悪い子だと思う。

「ヴィーの為なら、いつでも貸してあげるよ」
 
 優しい声色で告げたユーリに、僕は満面の笑みを浮かべて頷いていた。
















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