尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 さっと寝台から下りたエドワードは、慌ててクローゼットの中を漁り始める。


 「ふ、服がないっ、ちゃんとしたやつ……」
 「なに言ってんのっ! エディーなら、裸でも大丈夫だよ! 早く行こう?」
 「……どう考えても、裸はおかしいだろ」


 俺を変質者にするつもりかと、呆れ顔をするエドワードは、早くと急かす僕の頭を撫でて、せっかく整えた髪をくしゃくしゃにした。

 
 「むぅ。酷いよぉ~」
 「ククッ、悪い。でも、ノエルのおかげで、緊張がほぐれた」


 僕の乱れた髪を、優しく手櫛で梳かしてくれるエドワードは、いつものように目元を和らげて、うっとりするような笑みを浮かべていた。
 その笑みを見た僕は、絶対にユージーン様のお眼鏡にかなうはずだと確信した。




 待ってくれていたユージーン様にエドワードを紹介した僕は、緊張しているのか、一言も発しない親友の代わりに、舞台俳優になりたい気持ちを熱弁していた。
 僕の顔をしっかりと見ながら、静かに相槌を打つユージーン様は、最後まで話を聞いてくれた。
 

 「久々に胸が熱くなったな……。ノエルの気持ちがここまで伝わってきたよ」
 

 とん、と自身の心臓部分を指さしたユージーン様は、男の僕でも惚れ惚れするような微笑を浮かべた。
 いつもエドワードが話していたことを代弁しただけだったんだけど……。
 大好きな親友の夢を叶えるお手伝いが、ほんの少しだけど出来たのかもしれない。
 そう思うと、今すぐ飛び跳ねたいくらいに嬉しくて……。
 でも、一人で熱弁していたことが急に恥ずかしくなった僕は、顔が熱くなっていた。
 

 「……たまらないね」
 

 なにかを呟いたユージーン様が、俯き気味になっていた僕の頭を、優しく撫でてくれた。
 ちらりと視線を上げると、湖のような色の瞳に覗き込まれていた。
 鮮やかなエメラルドグリーンの瞳は、エドワードに負けないくらい綺麗だ。

 でも僕は、エドワードの広い海のような色の方が好き。
 今はユージーン様が王子様役だけど、三年後にはきっとエドワードが王子様になっていると思う。
 想像しただけでわくわくして、僕は目の前にいる恩人に、満面の笑みを向けた。


 「っ……ノエル」
 「ん? どうしたの?」
 

 急に右腕を掴まれて、隣を見上げる。
 やっと話したと思ったら、エドワードの端正な顔は、どうしてか青褪めていた。
 
 結局、二人が話をすることはなかったけど、お偉いさんに会わせてもらうことが出来た。
 見習いからでもよければと話してくれたのは、劇団を仕切っているカーター様。
 一言で言えば、紳士で優しそうなおじ様だ。

 見習いを希望するエドワードが、他の劇団の人たちと話している間に、カーター様から、僕も舞台俳優にならないかとお誘いを受けた。
 エドワードと違って僕は内気だし、人前に出るのは得意じゃない。
 だから無理だとお断りしたのだけど、すごく熱心に誘われて、ちょっぴり困っていると、ユージーン様が僕の肩を抱く。


 「ノエルを困らせないでください」
 「そんなに怒るなよ~」
 「怒ってなどいませんよ?」
 「目が笑ってないだろうがっ。年齢を考えろ!」


 なにやら言い合う二人だったけど、気心が知れた仲のようで、いつか僕が王都に来た時は、ご馳走するよと話してくれた。

 僕には弟がいるけど、まだ幼い。
 将来は、僕が両親の営む宿屋を継ぐことになるだろうから、王都へ行く機会はないと思うけど、笑顔で頷いた。

 その後すぐにエドワードが戻って来て、両親に話すからついて来て欲しいと頼まれて、やや強引にその場を後にした。

 それなのに、エドワードはなぜか自室に向かい、部屋に入った瞬間に、僕はぎゅうっと抱きしめられていた。
 













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