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42 ユージーン
しおりを挟む私の話を聞いて絶句しているノエルは、どんな顔をしていても愛らしい。
この子は、私の生きる希望なんだ……。
嫌われてでも手に入れたいと思っていたのに、自身の話をし、惨めにも同情を誘っている私は、一体なにをしているのだろう……。
ノエルは優しい子だから、真実を知ってもきっと私に怒りはしないだろう。
だが、ノエルとの穏やかな時間を過ごした今、軽蔑する目を向けられたなら、私はもう生きていけそうにない。
絶望感に苛まれて、成人した時のおぞましい過去の記憶を思い出していた。
◆
私が十八になり、盛大な祝いのパーティーの後、私は血縁関係のない母親の部屋に呼び出されていた。
「お母様」
「ふふっ、違うでしょ。ユージーン? ヴィオラと呼んでと言ったじゃない」
左腕に絡みついてきた女を見下ろした私は、無理やり口角を上げた。
二人の時は、『お母様』と呼べと強制していたくせに……。
なにがヴィオラだ。
私の成長を待っていたかのように告げてきた言葉に、吐き気がしていた。
「急に呼び方を変えるのは難しいかと」
「確かにそうね? でも、貴方なら出来るわ。今までもそうだったもの」
微笑む女は、私を見ているようで見ていない。
私を通して、十年前に流行病で亡くなった自身の息子を見ているのだ。
私を息子の身代わりにしていたくせに、今度は夫の役割をしろと要求している。
この女に、少しでも同情した私が愚かだった。
私には仲の良い両親と我儘な弟がいて、裕福ではなかったが、平凡な家庭で生まれ育った。
美しい顔立ちだと近所で評判になり、なにをやるにも他者より秀でていた。
そんな私に嫉妬する弟とは、いつのまにか距離が出来ていたが、時間が解決するだろうと特に気にしていなかった。
退屈だと思っていた日常が一変したのは、目の前の女が我が家に現れた時からだった。
『この子は素晴らしい才能を持っているの』
そう言って、私を養子にしたいと告げた女。
もちろん家族全員戸惑い、大反対した。
考えて欲しいと言われ、その後も何度も我が家へ足を運ぶ女は、会話もしたことがないのに異様なまでに私に執着していた。
そうして、目の前に大金を積まれた両親は、目の色を変えた。
呆然とした。
売られたんだと思った瞬間に見た両親の顔は、今まで見た中で、一番嬉しそうに笑っていた。
「どうか、息子のことをよろしくお願いします」
「ヴァイオレット様なら、──を必ず幸せにしてくれるだろう」
「そ、そんなっ、どうして!? ──兄ちゃんっ……」
唯一私と離れることを嘆き、最後まで泣いていた弟は、私の乗せられた豪華な馬車をいつまでも追いかけていた……。
過去の朧げな記憶を思い出していると、目の前には闇を抱える漆黒色の瞳。
熱い視線を向けられても、私の心は冷え切っていくだけだ。
そのことに気付いているのかいないのか……。
強制されている仕事も、プライベートですら演技をしなければならないだなんて、私はなんのために生まれて来たのだろうか。
「どうしたの?」
「いえ。弟のことを、思い出して──」
「ふふっ。貴方に弟はいないわ?」
「…………そうでしたね」
この女が好む微笑を浮かべる。
私に弟はいないだなんて話しているが、この女は今でも私の弟に生活費を援助していることを知っている。
聞いてもいないのに、わざわざ執事から私に報告させる女は、この世で誰よりもあくどい、悪魔のような女だ。
一分一秒でも離れたいと願っている時に出逢ったのが、弟によく似た可愛い笑顔のノエルだった。
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