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しおりを挟む僕に可愛いと思われていることにも気づかずに、落ち込むエドワードを見てくすりと笑った僕は、クッキーを渡すことにした。
「そ、そうだ、これ……。エディーの好きなクッキーだよ」
「っ、わざわざ作って来てくれたんだ……。ノエル、ありがとう」
その場ですぐに食べたエドワードは、『これが食べたかった』と、幸せそうに頬を緩めていた。
僕が作った普通のクッキーを美味しそうに咀嚼するエドワードは、見た目は変わっていても、中身は昔のままだった。
「ノエルはさ、ユージーンさんのことが好きだよな?」
「え? う、うん。どうして?」
「いや……。俺は嫌いだったけど……まあ、あの人もいろいろあるみたいだからな?」
よくわからないけど、「よしっ」と一人で気合を入れているエドワードから、今後はユージーン様とも仲良くしていいと言われた。
どういう心境の変化かはわからなかったけど、主役を巡る争いの中で、二人は互いを認め合ったのかもしれない。
でも、二人はさっきホールの中心で、無表情で対峙していたような……?
気のせいだったのかな?
ユージーン様のちょっぴり怖い顔を思い出していると、残りのクッキーを大切そうに仕舞ったエドワードに、頬を優しく撫でられる。
「とにかく俺は、二人の夢を叶えるために全力で頑張るから。それで早くノエルに、俺の王子様姿を見せたい」
凛とした姿のエドワードは、力強い目をしている。
少し会えないくらいでうじうじしていた僕は、なんだか自分が情けなく感じていた。
そこへ第三者の声が聞こえてきて、僕たちは揃って声の方に顔を向ける。
「あっ。こんなところにいたぁ~。カーターさんが探してたよぉ?」
ひょっこりと顔を出したのは、エドワードの隣に並んでも見劣りしない美青年。
僕の知らない人は、もしかしたらエドワードの後援者なのかもしれない。
空色の瞳が僕を捉えて、頭を下げられ、僕も慌ててお辞儀をした。
「悪い、ちょっと行ってくる」
「うん。今日は……ううん、行ってらっしゃい」
今日は帰ってきてくれる? って聞きたかったけど、きっと後援者の人と過ごすのだろう。
恋人のことは内緒にしているだろうし、僕は笑顔で手を振った。
エドワードを見送り、僕は心配をかけたレオンさんとアルバートくんに報告をしようと、会場に戻ることにした。
垂れ目が色っぽい美青年に会釈をして通り過ぎると、トンと肩に手を置かれる。
振り返れば、僕より断然可愛らしい子が、にこにこと笑っていた。
「もしかして、君もエドの恋人なのぉ?」
……今、なんて?
好意的な笑みを向けられているというのに、呆然とする僕は声を失っていた。
子供っぽい口調で、ねぇねぇと話しかけられて、僕は視線が彷徨ってしまう。
恋人ですとは言えないけど、恋人じゃないとは言いたくない……。
エドワードのためにも、ここは絶対に否定すべきだと頭ではわかっているのに、僕は答えることが出来なかった。
「あっ。急に話しかけてごめんねぇ? はじめまして。僕はメルヴィン。みんなからはメルって呼ばれてるっ」
葛藤している僕を他所に、「メルって呼んで」と気安く声をかけられた。
僕への悪意は感じられないけど、なぜか一人で楽しそうに笑っている姿が、僕の目には不気味に映っていた。
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